これで何ができるか
クラウドソーシングで案件に応募するとき、提案文を書きます。実績が少ないと、この一枚がつらい。だからAIに手伝わせる——そこまでは自然な流れです。
ここで多くの人が心配するのは「実績を盛られること」でしょう。書いていない資格や、やっていない案件を勝手に足されるのが怖い。
架空の募集要項と、事実だけを15行並べた架空の素材で実測しました。結果は予想と違いました。
素材の数字(7本・4本・3本・8時間)は、1つも書き換わっていませんでした。存在しない実績URLも作られません。嘘の検査をしても、全部通ります。
かわりに入っていたのがこれです。
ご希望であれば、本案件のテーマでテスト記事(無償・1,000字程度)を先に書かせていただく
2回目以降は自分で進めます。
素材のどこにも無い約束が、そのまま提案文に入っていました。無償で書く気があるかは聞かれていません。画像の差し替えは、素材ではやったことがないと書いた作業です。
この記事は、実績を盛らせないことではなく、自分が決めていない約束を混ぜさせないための頼み方をまとめます。
前提
| かかる時間 | 20分(提案文1本ぶん) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 用意するもの | 募集要項と、自分の事実を並べた素材 |
| プログラミング | 不要 |
発注元や仲介サービスがAIの使用を制限している場合があります。まずそちらの指示に従ってください。素材には自分の経歴が入るので、貼ってよい範囲は先に決めておきます(AIに「ついでに整理しておきました」と言わせないための頼み方)。
⚠️ この記事は提案文の作り方の話です。受注できることや、収入が増えることを約束するものではありません。
以下の実測は、架空の募集要項(ライティング案件・3,000字)と、事実だけを15行並べた架空の素材で行いました。試した記録は docs/evidence/proposal-without-inflating.md に全部あります。
AIへの頼み方
1. まず「なるべく良く見せて」と頼むと、何が起きるか
いちばん頼みたくなる言い方から確かめます。
返ってきた提案文は、実績を盛っていませんでした。7本という数字はそのまま、記名記事が無いことも隠していません。返答の中で「盛っても得にならない」とまで書いてきます。
そのうえで、素材に無い文がこう入りました。カッコ内は、その文字列が素材に1度も出てこないことを機械で確かめたものです。
執筆に入る前に構成案(見出しと、各見出しで書く内容)を一度お送りし、方向性のズレを早い段階で解消する進め方をしています。修正が長引かないのはこのためです。
見出しタグの設定、リストや装飾、内部リンクの設置まで対応できます。
ご指定のテーマ・キーワードでの書き下ろしサンプル(構成案+本文800字程度)を、2日以内に無償で提出
1つ目はやっていない仕事の進め方、2つ目はやったことのない作業、3つ目は期限つきの無償の約束です。素材にあるのは「WordPressの入稿を2本ぶんやったことがある」だけでした。
「良く見せて」で足されるのは、経歴ではなく仕事の仕方と約束です。経歴は確かめられるけれど、こちらは確かめられません。だから足しやすい。
2. 素朴に頼んでも、足されるものは同じ
では、余計なことを言わずに頼めばよいのでしょうか。
返ってきた提案文は誠実でした。書けないことを隠していません。SEOを勉強していないことも、URLを出せないことも、自分から書いています。読むかぎり、文句のつけようがありません。
それでも、素材に無い決め事が4件入りました。
「週1本」という本数は、素材のどこにも書いていません。平日21時以降・休日午前・1本8時間という材料から、AIが計算して決めた数字です。計算は妥当でした。それでも、送るのは自分です。
3. 下書きの文を、1文ずつ3つに割り当てさせる
下書きができたら、読み直す前に検査させます。読み直しでは見つからないからです。
実測では、下書き25文が25項目で返り、引用25件は25件とも下書きに実在しました(捏造0件)。内訳は(A)12文・(B)4文・(C)9文です。
肝は(B)です。素材にある事実を、素材より少しだけ強く書いた文が4つ見つかりました。
| 素材の行 | 下書きの書き方 |
|---|---|
| デスクは自分で買い替えたことがあり、昇降デスクを1年使っている | デスクまわりは自分で試行錯誤してきました |
| 画像の差し替えはやったことがない | 初回のみ手順をご共有いただけますと確実です |
| SEOの勉強はしたことがない | SEOを体系的に学んだ経験はありません |
| キーワードを指定されればそれに沿って書ける | キーワードや構成をご指定いただければ |
「体系的に」の一語が入ると、独学ならいくらか身についているという含みが生まれます。「初回のみ」は、1回教われば足りるという見込みを、未経験の作業について先に約束しています。
もとになる行があるので、読み返しても違和感がありません。3つに分けさせて初めて、そこだけが浮きます。
⚠️ 2択にしないでください。「素材にある/無い」の2つだと、(B)は「ある」側に吸収されて見えなくなります。
4. 「私が約束することになる文」だけを抜き出させる
(B)と別に、もう1回聞きます。視点を1つに決めると、もう一方が見えなくなるからです(人に見せる前の下書きは、AIに直させずに「どこが伝わらないか」だけ言わせるで実測されている型です)。
実測では18件が抜き出され、引用18件は18件とも下書きに実在しました。〔私が決めること〕が付いたのが10件、うち根拠そのものが素材に無いものが4件です。
3. ご希望であれば、本案件のテーマでテスト記事(無償・1,000字程度)を先に書かせていただくか(中略) 根拠:〔私が決めること〕 (中略)相手が受ければ、8時間仕事の一部を無償でやることになります。
面白いのは、過去の事実まで「約束として読まれる文」に分けて返してきたことです。
11. 修正のご依頼をいただいたのは7本中2本で、いずれも1回のやりとりで完了しました。 (事実は素材どおりです。ただし相手はこれを「修正は1回で終わる」という前提として受け取ります。)
事実を書くこと自体は問題ありません。ただ、書いた瞬間に期待値になるというのは、自分で読んでいるだけでは出てこない見方でした。
5. 「素材に無いことは書かないで」だけだと、必須の欄まで空く
ここまで来ると、禁止を1行足したくなります。試しました。
無償のテスト記事と「2回目以降は自分で進めます」は消えました。ところが「週1本」と「慣れたら週2本を相談」は残ります。AIの側では、この2つは素材から計算した結論であって、書いていないことではないからです。
そこで、空ける場所を作らせてみます。
素材に無い約束は消えました。そのかわり、こうなりました。
- 1週間に対応できる本数
〔素材に無い〕
募集要項が「必ず書いてください」と求めている欄が、空欄になりました。このままでは出せません。禁止だけを渡すと、止めたくないものまで止まります。
6. 空欄にせず「私が決める」と書かせる
直した形がこれです。禁止に受け皿を付けます。
実測では〔私が決める:…〕が6か所付き、本数・納期・単価・サンプルの4件すべてに印が残りました。
- 1週間に対応できる本数:〔私が決める:週に何本まで受けるか。3,000字1本あたり約8時間かかること、稼働が平日21時以降と休日午前であることを踏まえて決める〕
決める材料まで書いてあります。数字だけがこちらに残る形です。事実の欄(7本・記名なし・SEO未学習)は素材どおりに埋まりました。
⚠️ 提出前に、〔 〕が1つも残っていないことを確かめてください。印が付いたまま送ると、そのまま画面に出ます。
7. 出せる実績が無いときは、素材の行から候補を出させる
「実績URLを添えてください」に応えられないとき、いちばん危ないのは埋めようとすることです。先に候補だけ出させます。
実測では候補が12件挙がり、根拠として引用された17行は17件とも素材か募集要項に実在しました。書かない候補まで理由つきで出てきます。
候補10(書かない候補):これまでの報酬額
今回は8,000円の案件です。過去の単価を自分から書くと、単価の基準として使われる可能性があります。
そして、素材に無い理由づけを自分から断りました。
ただし「守秘義務のため」といった理由づけは素材にないので足せません。素材にあるのは「記名なし」という事実だけです。
「守秘義務のため」は、書けば通ってしまう嘘です。素材の行だけを使わせると、ここが止まります。
8. 素材のほうを、次の案件でも使える形にしておく
提案文は案件ごとに違いますが、素材は使い回せます。育てるのはこちらです。
実測では、使い回せる行6件と、案件ごとに足す行9件に分かれました。足す行には質問が付きます。
- 前の案件での入稿2本は、具体的にどこまでやりましたか(本文を流し込む、見出しを設定する、下書き保存で渡す、公開まで、など)。
「WordPressの入稿を2本」という1行が、案件によって足りたり足りなかったりする——それを、応募のたびに気づくのではなく、素材の側に質問として溜めておけます。
⚠️ 質問に答えるときは、思い出せることだけ書いてください。ここで盛ると、以降の全部の提案文に混ざります。
素材が1つのファイルに溜まったら、次の案件では募集要項を貼り替えるだけになります。同じ募集を毎週見に行っているなら、その巡回自体を決まった時刻に動かせます(「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。⚠️ ただし提案文を自動で送る形にはしないでください。この記事で見たとおり、決めるところが残ります。
うまくいかないときの言い直し方
他の応募者と同じ文になっていないか確かめたい
提案文は、読んだだけでは「よく書けている」としか思えません。分けさせます。
実測では24行に分かれ、下書き25文はすべてどれかの行に出ました(挨拶の2文だけ1行にまとまりました)。(1)に入ったのは11文です。
面白いのは、(1)に入った文と、3番の(C)判定がほぼ重なったことです。誰でも書ける文と、素材から導けない文は、だいたい同じものでした。
「このテーマとの接点」の段落は、4文のうち(2)が2文、(1)が2文です。デスクの事実(2文)は素材由来ですが、そこから先の「何を書けるか」を語った2文は中身が空で、誰でも書けてしまう文になっています。
⚠️ この検査は消すためではありません。(1)が多い段落は、素材が足りていない場所です。
提案文が長すぎる
短くさせるときが、いちばん静かに中身が落ちます。何を消してよいかを指定します。
実測では7文が消え、7件とも下書きに実在し、短くした版に本当に残っていませんでした(申告と実際が一致)。消えたのは(C)が6文、(A)が1文です。
短くしても、盛りだけが残る
上の検査で分かったことです。(B)の4文は、短くしても1文も消えませんでした。
「試行錯誤してきました」「初回のみ」「体系的に」——もとになる素材の行があるので、削る側からは正しい文に見えます。短くする作業では絶対に落ちません。
3番の3分け検査を、短くしたあとにもう1回かけてください。⚠️ 直すのは自分の手でやります。「直して」と言うと、副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるで起きたのと同じことが起きます——あちらの実測では、元原稿28文のうち残ったのは1文でした。
誤字も一緒に直してほしい
表記(誤字・重複・表記ゆれ)は、種類を限れば任せてよい領域です。ただし言い回しまで書き換わるのが既定の挙動なので、守りたい言葉を先に宣言します。頼み方は誤字と重複だけ直させて、自分の言い回しは残す頼み方にあります。
⚠️ 提案文でこれをやるときは、表記の直しを最後に回してください。順番を逆にすると、3番の検査が「AIが書き換えた文」を相手にすることになります。
素材に書く事実が、そもそも思い出せない
素材が薄いと、提案文は(1)=誰でも書ける文だらけになります。埋めるのは提案文ではなく素材のほうです。
聞き返してもらう頼み方はAIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうにあります。⚠️ あちらの実測では、「この頼み方を良くして」と頼むと、AIが勝手に決めた設定が4件から7件に増えました。素材が薄いときほど、埋められます。
応用・次の一手
書き上がった原稿の検品にも、同じ線を引く。受注したあとの納品前チェックは副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるにまとめてあります。検品はAIに、直すのは自分という分け方は、提案文とまったく同じ形です。
数字を書くときは、出どころごと持つ。提案文に実績の数字を入れるなら、AIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方が効きます。この記事で見たとおり、空欄は埋められる側です。
「簡単に稼げます」と言ってくる案件のほうを確かめる。応募先そのものが怪しいと感じたときは、判定させずに手順に変えます(うまい話は、AIに「詐欺?」と聞かずに「確かめる手順」に変える)。
下調べも同じ考え方でやる。書き始める前の調べものを毎朝走らせる形はブログ副業の下調べを、毎朝ひとりでに走らせるにあります。
⚠️ この記事の実測は、架空の募集要項と架空の素材で行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、素材という「照らし合わせる相手」を先に作っておくという形のほうです。素材があれば、下書きの1文ずつを機械的に突き合わせられます。そして提案文を送るのは自分で、約束を守るのも自分です。