これで何ができるか

うまく頼めない。何を書けばいいか分からない。——だったらそれ自体をAIに手伝ってもらう、という話です。

ただし、よく紹介されている「この頼み方を良くしてください」は逆効果でした。実際に測ると、こうなります。

21字の依頼を渡しました。「取引先に謝るメールを書いて。納期が遅れた。」——書いてある事実は3つだけです(相手・謝罪・遅延)。

21字の曖昧な依頼に対して、AIが勝手に決めた設定の数を比べた図。依頼は「取引先に謝るメールを書いて。納期が遅れた。」で、書いてある事実は3件だけ。そのまま書かせると、原因・部署・氏名・再発防止策の4件をAIが決めた。「この頼み方を良くして」と頼むと、さらに遅延日数・取引の長さ・初回かどうか・文体・文字数が加わって7件に増えた。「足りない情報を挙げて」と頼むと決めた設定は0件で、代わりに7件を質問として返してきた。改良版プロンプトは立派に見えるのでそのまま使いやすいが、5年以上の取引や初めての遅延は、こちらが一度も言っていない。
真ん中が「頼み方を良くして」と頼んだ結果です。増えています。

改良版プロンプトには「取引先とは5年以上の取引実績があり」「今回が初めての納期遅延です」と書かれていました。「5年以上の取引」も「初めての遅延」も、こちらは一度も言っていません

そして厄介なことに、改良版プロンプトは立派に見えるので、そのまま使ってしまいます。使えば、AIが決めた前提のまま文章が作られます。

前提

プログラミングは要りません。むしろ、頼み方を工夫できない段階の人向けの記事です。

用意するのは、頭の中にある短い依頼だけ。「〜を書いて」「〜を調べて」の一言で構いません。整える必要はありません——整えるのがこの記事の話なので。

AIへの頼み方

1. 「良くして」ではなく「足りないものを挙げて」

これが記事の中心です。頼み方を良くさせるのではなく、足りない情報を質問させます。

この頼み方で、あなたが答えるために足りない情報を挙げてください。 まだ書き始めないでください。

「まだ書き始めないでください」が無いと、質問ではなく完成品が返ってきます。AIは成果物を先に出したがるので、止める一言が要ります。

実測では、7件の質問が返ってきました。

「足りない情報を挙げて」と頼んだときに返ってきた7件を、答えが変わる度合いの大きい順に並べた図。1番は何がどれだけ遅れたのかで謝罪の重さが変わる。2番は遅れた原因で、書かないと隠していると読まれる。3番は新しい納期が決まっているかで、無いと相手が動けない。4番は相手が受ける影響で補償に触れるかが決まる。5番は自分の立場と相手の役職で文面の重さが変わる。6番はこれが初めてかで再発防止策の要否。7番は補償や値引きに触れるかで、社内で決まっていないことを書くと後で困る。上の3つが埋まれば下書きは作れ、4から7は不明のまま触れない形にできる。質問が7件返るということは、そのまま書かせていたら7件をAIが決めていたということ。
この7件は、そのまま書かせていたらAIが勝手に決めていたところです。

質問が7件返るということは、そのまま書かせていたら7件をAIが決めていたということです

2. 「答えが変わる度合いの大きい順」に並べさせる

質問が10個も返ってくると、答える気が失せます。順番を付けさせてください。

足りない情報を、答えが変わる度合いの大きい順に並べてください。 それぞれ「埋まらないと何が起きるか」も1行で書いてください。

「埋まらないと何が起きるか」を書かせると、答える価値のある質問かどうかがその場で分かります

3. 「いくつ答えれば書けるか」を聞く

全部答える必要はありません。

このうち、いくつ答えれば下書きを作れますか。 残りは「不明」のまま、触れない形で書いてください。

実測では「1・2・3の3つだけ教えてもらえれば下書きは作れます。4〜7は不明のまま、触れない形で書きます」と返りました。7つ全部ではなく3つで足りると分かるのが、この一手の効きどころです

4. 分からないところは「分からない」と答えてよい

自分でも答えられない質問があります。それも伝えてください。

2番(遅れた原因)は、私もまだ社内で確認できていません。 そこは埋めずに、〔原因を確認して記入〕という印を残しておいてください。

⚠️ 空欄より、印のほうが安全です。空欄は埋め忘れて出してしまいますが、〔 〕は目に付きます。

5. 答えたら、こちらの答えだけで作らせる

質問に答えた後がもう一段あります。答えていない部分をまた埋められないようにします。

いま答えた3つだけを使って書いてください。 私が言っていないことを足さないでください。 足す必要があると思ったら、書く前に聞いてください。

6. 完成品を受け取る前に「何を仮定したか」を出させる

それでも仮定は入ります。入るのは仕方ないので、見えるようにします。

この文章を書くにあたって、私が言っていないのに あなたが決めたことを全部挙げてください。

この確認は報告を鵜呑みにしない頼み方と同じ考え方です。AIの自己申告は完全ではありませんが、挙げさせないよりは確実に見えます。

7. 「良くして」を使ってよい場面もある

⚠️ 「頼み方を良くして」が常に駄目なわけではありません。材料が全部そろっているなら有効です。

下の情報は全部そろっています。これ以外の設定を足さないでください。 この情報だけを使って、頼み方を整えてください。 (材料をここに全部貼る)

「これ以外の設定を足さないでください」が無いと、実測どおり設定が増えます

うまくいかないときの言い直し方

質問ではなく、完成品が返ってきた

「まだ書き始めないでください」が効かなかった場合は、出力の形を指定します。

質問だけを箇条書きで出してください。 文章・メール・提案などの成果物は、一切出さないでください。

質問が多すぎて答えられない

質問を3つに絞ってください。 これが分からないと書きようがない、という順で3つだけ挙げてください。

質問が抽象的で、何を答えればいいか分からない

「目的は何ですか」のような質問は、答えにくいだけです。

質問に、選択肢を付けてください。 私が選ぶだけで答えられる形にしてください。

選ぶだけの形にすると、答えるのが速くなります。選択肢に無いものは、自分で足せば済みます。

何度も聞き返されて、いつまでも作ってくれない

質問はこれで最後にしてください。 残りは仮で埋めて、仮で埋めた箇所を〔 〕で囲って教えてください。

短い依頼のほうが良い結果になることもある気がする

その感覚は正しいことがあります。長く書けば良いわけではありません——長い依頼は、条件どうしが矛盾しやすくなります。矛盾する条件の扱いは翻訳させるときの頼み方にも出てきます。

いま渡した条件の中に、互いに矛盾しているものはありませんか。 あれば挙げて、どちらを優先すべきか聞いてください。

応用・次の一手

この形は、メール以外にも同じように使えます。

この作業を頼むために、私が伝えるべき情報を挙げてください。 まだ作業しないでください。

調べもの・資料作り・表の整理——成果物を作らせる前に「足りないものを挙げて」を1回挟む、という形は変わりません。

よく頼む種類が決まってきたら、質問の一覧を保存します。

今後この種類の依頼をするとき、私が最初から書いておくべき項目を チェックリストにしてください。

チェックリストを手元に置けば、次からは質問される前に書けます。これが「丸投げの質が上がる」の中身です。

⚠️ この記事は聞く前の段階だけを扱いました。返ってきたものに違和感があるときの対処は違和感を言葉にする頼み方、そもそも何を任せられるかの見つけ方は渡せる作業の見つけ方にあります。

📌 覚えておくと役に立つのは1つだけです。「良くして」ではなく「足りないものを挙げて。まだ書かないで」。この10文字ほどの違いで、AIが勝手に決める設定が7件から0件になりました。