これで何ができるか
クラウドソーシングでライティングの案件を受けると、発注書(レギュレーション)が付いてきます。文字数、見出しの数、入れるキーワード、使ってはいけない言葉、参考URLの書き方。10項目を超えることも珍しくありません。
書き上がったあと、この全部を自分で見直すのはつらい作業です。だからAIに検品させる——それは正しいのですが、どう頼むかで、返ってくるものの信用度がまるで変わります。
架空の発注書14項目と、違反を8件仕込んだ架空の原稿で実測しました。
素朴に「確認してください」と頼んだ返りは、とてもよくできていました。判定表は8件の違反を8件とも正しく並べ、誤検出は0件です。
ところが、その返りの冒頭の要約にはこう書いてありました。
修正が必要な項目が7つあり、(中略)そのまま出すと差し戻しになる可能性が高い箇所です。
表には8件並んでいるのに、自分の要約では「7つ」と書いています。文字数も「約814字」(実測823字)、最長の文も「47字」(実測46字)。判定は当たっているのに、数だけが合いません。そして読む人は、冒頭の要約から読みます。
もうひとつ。「直してください」と頼んだ場合はこうなりました。
元原稿28文のうち、そのまま残ったのは1文だけでした。しかも原稿に1件も無かった「参考にしたページ」が4件立ちました。自分は1つも開いていません。
この記事は、検品はAIに、直すのは自分に分ける頼み方をまとめます。
前提
| かかる時間 | 20分(原稿1本ぶん) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 用意するもの | 発注書(レギュレーション)と、自分で書いた原稿 |
| プログラミング | 不要 |
発注元がAIの使用を禁じている場合があります。まず発注元の指示に従ってください。禁止・制限・申告義務のいずれが書かれているかは案件ごとに違います。書かれていなければ、貼ってよい範囲を自分で決めてから始めてください(AIに触らせる範囲を先に絞る)。
⚠️ この記事は納品前の検品の話です。単価や受注件数が増えることを約束するものではありません。
以下の実測は、架空の発注書14項目と、違反を8件仕込んだ架空の原稿(28文・823字)で行いました。試した記録は docs/evidence/writing-check-against-spec.md に全部あります。
AIへの頼み方
1. 素朴に「確認して」でも、違反は見つかる
先に良い知らせから。実測では、これだけでも仕込んだ違反8件が8件とも出ました。
拾えたのは、文字数不足・見出し数・キーワードの回数・体言止め・禁止された断定表現・メーカー名・参考URLの欠落・健康効果の断定です。誤検出は0件でした。
問題は数のほうです。自分で並べた表にはNGが8件あるのに、要約は「7つ」。文字数は「約814字」、最長の文は「47字」で、どちらも実測とずれています。
判定を信じて、数字と件数は信じない。これが出発点です。
2. 「1つずつ順番に、項目を飛ばさないで」と足す
足すのは2つだけです。それで数字まで合いました。
実測の結果です。
| 素朴に「確認して」 | 1項目ずつ | |
|---|---|---|
| 違反8件の検出 | 8/8 | 8/8 |
| 本人が言った件数 | 「7つ」(表は8件) | 「8項目」 |
| 文字数の申告(実測823字) | 約814字 | 823字 |
| 最長の文(実測46字) | 47字 | 46字 |
「1つずつ順番に」「飛ばさないで」を足すだけで、件数も文字数も実測と一致しました。全部の項目を1つずつ相手にさせると、まとめて概算する余地が無くなります。
3つの選択肢を渡すのも大事です。「満たす/満たさない」の2択にすると、どちらとも決められない項目が、どちらかに寄せられます。「原稿からは判断できない」という行き先を作ると、そこに残ります。
そして「まだ原稿は直さないでください」。これが無いと、指摘の代わりに直った原稿が返ってきて、何が悪かったのかが消えます。
3. 判定の根拠に、原稿の一文をそのまま引用させる
判定が合っているかを、自分で確かめられる形にします。2番の指示文に、段落をひとつ足すだけです。
実測では、14項目のうち12項目に引用が付き、12件とも原稿に実在する文字列でした(捏造0件)。残る2項目には「引用できる箇所がない」と書かれました。
その2項目が面白いところです。参考URL(12番)と画像(14番)——どちらも「無いことが判定の根拠」の項目です。引用できないこと自体が、その項目の答えになっています。
「引用できる箇所がない」という逃げ道を用意しておかないと、数を埋めるためにそれらしい引用が作られます。禁止するときは、代わりに何を書くかまで渡します。
4. 数える項目は、AIに数えさせない
1番で見たとおり、数だけが合いません。なら数えさせないのが早いです。
実測では、抜き出された行は8件とも原稿に実在し、数そのものは1つも答えませんでした。見出しが3行並んでいれば、数えるのは一瞬です。文字数はエディタが数えてくれます。
おまけがありました。数えないことにしたら、代わりに「何を数えるべきか」の論点が出てきたのです。
1つ目は見出しの中にあるため、「本文中に3回以上」という条件で見出しを回数に含めてよいかは、発注元の解釈によって変わる可能性があります。
これは自分で数えていたら気づかない指摘です。数を出させると数が返り、抜き出させると論点が返ります。。
5. 発注書に無い指摘を、別枠に分けさせる
検品させると、発注書と関係ない改善案が混ざってきます。混ざったままだと、発注書を満たすための直しと、自分の判断で入れる直しが区別できません。
実測では、(2)に13件が挙がり、項目番号は1つも付いていませんでした。中身は捨てるようなものではありません。
箇条書きの3項目(座面の高さ調整・ひじ掛け・キャスター)のうち、ひじ掛けとキャスターは本文でまったく説明されていません。
「オカムラのような専門メーカーの椅子は〜」は、メーカー名を外しても「専門メーカーは作りが丁寧」という根拠のない優劣評価が残ります。
発注書を満たすことと、読めるものになっていることは別です。(1)は直さないと差し戻されるもの、(2)は次の依頼が来るかどうかに効くもの。分けて受け取ってください。
6. 「直してください」と言わない
ここが、この記事でいちばん言いたいところです。同じ原稿・同じ発注書で、頼み方だけを変えました。
返ってきた原稿は、発注書を全部満たしていました。2,000字を超え、見出しは9つ、キーワードは4回、禁止語も消えています。仕事としては完璧です。
その代わり、元原稿28文のうち、そのまま残ったのは1文だけでした。
そして参考URLです。原稿には1件もありませんでした。直した版には「## 参考にしたページ」という見出しが立ち、行政機関のガイドライン、業界団体の資料、規格のページなど4件のURLが並びました。
自分が1つも開いていないページが「参考にしたページ」として並ぶ——そのまま出せば、参考にしたと申告したことになります。
見逃せないのは、同じAIが、直させないときには埋めなかったことです。1番の素朴な確認では、こう返ってきていました。
存在しないURLを補うと出典の偽装になってしまうため、実際に参照したページのURLをご自身で列挙してください。
同じ材料でも、「直して」と言った瞬間に、断るほうから埋めるほうへ回ります。直した版には申し送りも付いていましたが、貼って出すのは自分です。読まなければ同じことです。
7. 案件が続くなら、検品の指示文を固定する
案件ごとに発注書は違いますが、検品の頼み方は毎回同じです。だから固定できます。
実測で返ってきたテンプレートは、項目数を数えさせない形になっていました。「発注書に書かれている要求を、書かれている順に上から抜き出す」「最初に総数を『全◯項目』と宣言する」——項目数を先に宣言させてから、その数だけ回させる作りです。「以下同様」「その他の項目も問題なし」の禁止まで入っていました。
思いつかなかった項目も足されていました。
原稿を読んでも確認できない項目(納期、提出形式、権利の扱いなど、原稿の中身では確かめようがないもの)は、無理に判定せず「原稿からは判断できない」にしてください。
発注書には、原稿を見ても判定しようがない項目が混ざっています。納期や提出形式がそれです。行き先を作っておかないと、そこに無理な判定が付きます。
貼り替える場所が1か所になったら、次はその1回を自動にできます。原稿と発注書を決まった場所に置くだけで検品が走る形は、「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせると気になったURLを1行足すだけで、AIに調べて下書きを書かせるの組み合わせで作れます。
⚠️ 自動にするときは、指示文を毎回同じ文字列で渡すこと。少しずつ言い換えていると、前の案件と結果を比べられなくなります。
うまくいかないときの言い直し方
「判断できない」に振られた項目が、決まらない
決まらないことがあります。実測では、「価格に触れる場合は時点を明記」という項目が、頼み方によって「原稿からは判断できない」と「違反の可能性が高い」に割れました。同じ原稿・同じ発注書です。
原稿には金額が1つも書かれていません。ただ「値段の高さは決め手になりません」という言い方はあります。これを「価格に触れた」と見るかどうかは、発注元しか決められません。
AIに何度聞いても決まらない項目は、聞き方の問題ではありません。こう言わせておくと、質問しやすくなります。
実測で返ってきた質問文は、こちらの解釈を2つ並べて、どちらかを選んでもらう形になっていました。「具体的な金額を伴わない言及も含まれますか。それとも実際の金額を記載した場合にのみ必要という理解でよろしいでしょうか」——相手が一言で答えられます。
おまけに、「満たしていない」に振った項目のうち2つも、参考として質問文が付いてきました(キーワードの回数に見出しを含めるか、箇条書きの語尾は文体に含めるか)。⚠️ そのまま全部送ると質問が多くなるので、本当に決められないものだけ送ってください。
指摘が多すぎて、どこから直せばいいか分からない
差し戻しになるものから先に片付けます。
実測では文字数不足が1位、次が健康効果の断定、メーカー名、参考URLの欠落と続きました。理由の付き方が参考になります。
文字数カウント一発で判定され、しかも規定の半分以下なので、他を全部直しても単独で差し戻しが確定する。
「機械で一発で判定できるもの」が上位に並びます。。逆に文体の乱れは「読み込まないと気づかれない可能性はあるが、指摘されれば確実に戻る」として8位でした。⚠️ これは差し戻しの確率の順で、作業が早く終わる順ではありません。1行で終わる直し(禁止語・メーカー名)を先に片付けてから書き足しに入るほうが、手は速く動きます。どちらの順で行くかは自分で決めてください。
直させていないのに、直した文が混ざってくる
「まだ原稿は直さないでください」は、その場では効きます。ただし次の返答で戻ることがあります。同じ現象は人に見せる前の下書きは、AIに直させずに「どこが伝わらないか」だけ言わせるでも起きていて、「書き直しはしません」と書き添えながら書き換え文を出すという形をとります。宣言があるぶん、読み流してしまいます。
指摘を受けるたびに、毎回付け直してください。
表記の直しまで自分でやるのが大変
誤字・重複・表記ゆれは、種類を限って直させるなら任せてよい領域です。ただし言い回しまで書き換えられるのが既定の挙動なので、守りたい言葉を先に宣言してください。頼み方は誤字と重複だけ直させて、自分の言い回しは残す頼み方にまとめてあります。
⚠️ その記事の実測では、AIの「直した箇所」の申告は7件、実際の差分は13件でした。直させたら、必ず差分を自分で見てください。
参考URLの欄が埋められない
埋められないのが正しい状態です。参考にしていないページを並べるのは、発注元に対する嘘になります。
やることは順番が逆で、先に読んでから書くしかありません。調べものを出典つきで受け取る形は調べものは「答え」ではなく「答えと出典」で受け取るに、AIが出したURLを鵜呑みにしないための確かめ方も同じ記事にあります。⚠️ URLは実際に開いてください。開いていないページを「参考にした」とは書けません。
応用・次の一手
中身の検品も、直させずに1回やる。この記事は発注書との突き合わせだけを扱いました。「読んで伝わるか」「順序は妥当か」は別の軸で、人に見せる前の下書きは、AIに直させずに「どこが伝わらないか」だけ言わせるにまとめてあります。⚠️ あちらの実測では、書かれていない欠陥は素朴な批評だと5件中1件しか出ません。この記事の(2)の枠と合わせて使ってください。
書き始める前の下調べも、同じ考え方でやる。上位記事の見出しを貼って、空いている論点を出させる形はブログ副業の下調べを、毎朝ひとりでに走らせるにあります。AIに書かせないという線は、下調べでも同じです。
数字を書くときは、出典ごと持つ。記事の中に数字を入れる案件では、AIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方が効きます。この記事で見たとおり、AIは空欄を埋めるほうへ回ります。
⚠️ この記事の実測は、架空の発注書と架空の原稿で行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、発注書という「照らし合わせる相手」が手元にあるという形のほうです。項目番号と引用が付いた返りなら、合っているかどうかを自分の目で確かめられます。そして最後に納品するのは自分です。