これで何ができるか

頼んだことだけをやってもらえるようになります。

AIに何かを直させると、こういう報告が返ってきます。

  • 「ついでに周辺も整理しておきました」
  • 「他にも改善できる箇所があったので直しました」
  • 「より良い設計を提案します」

善意です。そして動いているものが壊れる原因の、かなり上位です。頼んだ1箇所は直っているので、壊れたことにその場では気づきません。

実際にあった例を1つ。このサイトのトップページから文章を1つ消してほしいと頼みました。返ってきたのは、記事ごとに3段階のラベルを付ける仕組みの設計でした。記事の設定に項目を足し、テンプレートを直し、検査も足す——という提案です。頼んだのは、一文の削除だけです。

提案そのものは筋が通っていました。ただこちらが求めていたのは「軽くすること」で、提案は逆方向でした。「そこまで重要ではないので、作業が重くなるのを避けたい」と伝えたら、テキスト4か所の書き換えだけで終わりました。5分の作業が、放っておけば半日の作業になっていました。

この記事は、そうならないための一文を集めたものです。

前提

かかる時間 5分
費用 無料
必要なもの ファイルを触れるAI
プログラミング 不要

ひとつ誤解を解いておきます。これはAIを萎縮させる話ではありません。範囲を区切ると、AIは「範囲外だが気になること」を提案として出してくるようになります。勝手にやられるのと、提案として聞けるのとでは、後者のほうが圧倒的に扱いやすいです。

AIへの頼み方

1. 範囲を先に区切る

作業を頼むときに、最初から付けておく一文です。

いま頼んだのは○○だけです。それ以外は触らないでください。 範囲外で気になったことがあれば、直さずに指摘だけしてください。

「触るな」とだけ言うと、AIは気づいたことを黙ります。後半の一文が本体です。指摘する場所を用意しておくと、黙らずに、しかし手は出さない形になります。

2. 作る前に、全体の構成を出させる

大きいものを頼むときは、これが一番効きます。

まず全体の構成を説明してから、作り始めてください。

たった一文ですが、いきなり作らせると、意図と違うものが出来上がったときに全部やり直しになります。構成を先に聞けば、違ったその場で直せます。AIの最新情報を自動で集める の仕組みも、この一文から始めました。

3. 「いきなり直さず、案を見せて」

直させるとき、必ず付けます。

いきなり直さず、案を見せてください。 案は2つ出して、それぞれ何が良くなって何が犠牲になるかを書いてください。

案を2つ求めるのがコツです。1つだと、AIはそれを通そうとして良い面だけ書きます。2つ並べさせると、比較のために犠牲のほうも書かざるを得なくなります。

4. 触ってはいけない場所を、先に宣言する

その場で言うのではなく、作業を始める前に渡しておきます。

このプロジェクトで、触ると壊れるところを先に共有します。 (ファイル名や設定を挙げて、それぞれ「なぜ触ると壊れるのか」を1行で書く) ここを変更する必要が出たら、変更せずに先に相談してください。

「なぜ壊れるか」を書くのが重要です。理由が無いと、AIは「これは例外だろう」と判断して触ります。理由があると、似た場所でも同じ判断をしてくれます。

5. 迷ったときにどちらへ倒すか、理由ごと指定する

範囲の判断は必ず迷います。迷ったときの倒し方を決めておきます。

やるかやらないか迷ったら、やらない側に倒してください。 やらなかったことは報告してもらえれば私が判断できますが、やられてしまったものは元に戻す手間がかかります。

理由なしに「勝手にやらないで」とだけ言うと、別の場面では逆に倒します。理由を書くと、指示していない場面でも同じ方針で動いてくれます。

6. 変えたものを、一覧で報告させる

作業が終わったときに必ず聞きます。

今回の作業で変更したものを、すべて一覧にしてください。 頼んだ範囲に含まれないものが混ざっていたら、それも正直に挙げてください。

「正直に挙げてください」と許可を出すと、素直に出てきます。AIに「たぶん動きます」と言わせない と同じ考え方で、逃げ道を先に用意すると正直な報告が返ります

うまくいかないときの言い直し方

すでに広い範囲を変えられてしまった

慌てて元に戻させる前に、まず全体像を出させます。

いま何をどう変えたか、ファイルごとに一覧にしてください。 そのうえで、私が頼んだ範囲と、それ以外を分けて示してください。まだ何も戻さないでください。

「まだ戻さないで」を必ず入れてください。戻す作業でさらに触られると、何が元の状態か分からなくなります。

頼んだより重い設計を提案してくる

冒頭の実例がこれです。悪意はなく、丁寧にやろうとした結果です。

その案は、私が求めているものより重いです。 いま解きたい問題は○○だけです。それを一番軽く済ませる方法を教えてください。あとから拡張できるかどうかは、いまは考えなくて構いません。

「あとから拡張できるように」と考えさせると、必ず重くなります。先に切っておくと、素直に軽い案が出てきます。

範囲は守るが、必要な指摘までしなくなった

区切りすぎると起きます。

範囲を守ってもらえて助かっています。ただ、範囲外で気づいたことは遠慮なく指摘してください。 手を出さずに言うだけなら、いくらでも歓迎します。

「言うだけなら歓迎」と明示すると、指摘と実行が切り離されます。

会話が長くなると、最初の範囲を忘れる

この会話の最初に決めた作業範囲を、もう一度声に出して確認してください。 そのうえで、いまやろうとしていることがその範囲に入っているか答えてください。

長い作業では、途中で一度これを挟むだけで戻ります。毎回言うのが面倒になったら、次の節へ進んでください。

「良かれと思って」が繰り返される

頼んでいないことをやってしまう傾向があるようです。 次からは、作業を始める前に「これから何をするか」を一行で宣言してから始めてください。宣言に無いことはやらないでください。

宣言させると本人が範囲を意識しますし、宣言と違うことをやれば、こちらもすぐ気づけます。

応用・次の一手

まず1だけ試してください。「いま頼んだのは○○だけです。それ以外は触らないでください」の一文で、大半は防げます。

毎回言うのが面倒になったら、覚えさせます。

「頼んだ範囲の外は、直さずに指摘だけする」を、この先ずっと守ってほしいです。毎回言わなくて済むように、理由も含めて覚えておいてください。

やり方は AIに「記憶」を持たせる に書きました。ただし記憶は「お願い」なので破れます。本当に守らせたいものは、仕組みで止めてください。

このファイルは変更してほしくありません。うっかり変更されたら気づけるように、機械的にチェックする仕組みを作ってください。

静かに壊れたのを見つけさせる と同じ考え方です。気をつけるのではなく、気をつけなくても壊れない形にします。

最後に、冒頭の実例の続きを。重い提案を断って軽く済ませたあと、そのぶん空いた時間で別の問題が1つ片付きました。断ったことで失ったものは、何もありませんでした。提案が良いかどうかと、いまそれをやるべきかどうかは、別の話です。