これで何ができるか

AIに毎回同じ説明をしなくて済むようになります。

AIとの会話は、ウィンドウを閉じた瞬間に全部忘れられます。翌日には「このプロジェクトは何で」「私はこういう方針で」を最初から説明し直しです。相談相手としては、これは致命的に不便です。

やることは単純で、覚えておいてほしいことをファイルに書いておくだけです。しかも書くのはAI自身にやらせます。それだけで、

  • 「いつもの書き方で」が通じる
  • 3ヶ月前に決めた方針を蒸し返されない
  • 一度指摘したことを二度言わなくて済む

置き場所は3つに分けます。

記憶の置き場所の全体像。CLAUDE.mdは毎回そのまま読み込まれるので、プロジェクトの前提・開発のルール・触ると壊れるところを書く。memoryフォルダは1ファイル1事実で、自分がどういう人間か・こう働いてほしい・過去に決めたことを書く。SESSION_HANDOFF.mdは今どこにいるかと次にやることを書き、次の会話の最初に読ませる。索引のMEMORY.mdには1メモリ1行の見出しだけを書く。
混ぜると腐ります。「変わらないこと」は記憶に、「今どこにいるか」は引き継ぎメモに分けると、どちらも古くなりにくくなります。

仕組みを作るのは20分です。この記事の本題は、何を覚えさせ、何を覚えさせないかです。ここを間違えると逆効果になります。

前提

かかる時間 20分
費用 無料
必要なもの Claude Code など、ファイルを作れるAI
プログラミング 不要

AIへの頼み方

1. まず土台のファイルを作らせる

一番簡単で、一番効果が大きいのがこれです。

このプロジェクトのフォルダに CLAUDE.md というファイルを作ってください。次の会話からは、これを自動で読んでから作業を始めてほしいです。 中身は、リポジトリを読んで分かることではなく、読んでも分からないことを書いてください。具体的には: - このプロジェクトが何のためにあるか - 開発のときに守ってほしいルール - 触ると壊れるところと、その理由 まず案を見せてください。私が確認してから確定します。

「触ると壊れるところ」が一番効きます。AIは善意で親切に、壊してはいけないものを整理してくれます。先に線を引いておくと事故が減ります。

2. 何を書かないかを、先に約束させる

これを言わないと、AIは張り切ってリポジトリを読めば分かることを大量に書きます

記憶に書くものと書かないものを、次のように分けてください。 書く(変わらないこと): - なぜその方式を選んだか - 何を試して駄目だったか - 私がどう働いてほしいか - 外部の事情・制約 書かない(すぐ変わること): - どういう作りになっているか - 何が実装されているか - 過去の修正履歴 - ファイル一覧 コードは変わりますが記憶は変わりません。作りを書くと、数ヶ月後に記憶のほうが嘘になります。
記憶に書くことと書かないことの対比。書くのは、なぜその方式を選んだか、何を試して駄目だったか、自分がどう働いてほしいか、外部の事情や制約。書かないのは、どういう作りになっているか、何が実装されているか、過去の修正履歴、ファイル一覧。前者は変わらないが、後者はすぐ変わって記憶のほうが嘘になる。
「なぜ」は変わりません。「何」はすぐ変わります。嘘の記憶は、何も書いていないより悪い状態です。

3. 記憶の書き方を固定させる

記憶は1ファイル1事実にしてください。1つのファイルに複数の事実を詰め込むと、そのうち1つが古くなった時点でファイル全体が信用できなくなります。 各ファイルには必ず次を書いてください。 - 何が起きたか(日付は「先週」ではなく絶対日付で) - Why: なぜそうするのか - How to apply: 次にどうするのか
記憶ファイル1枚の構造。上に名前・一行説明・種別を書き、その下に何が起きたかを絶対日付で書く。さらにWhyとしてなぜそうするのかを書き、How to applyとして次にどうするかを書く。WhyとHow to applyが無いと、半年後に読んだときにまだ有効なルールか判断できない。
「なぜ」が無い記憶は、古くなったとき捨てていいのか残すべきか判断できず、結局どれも信用できなくなります。

「先週」「来月まで」「最近」を禁止してください。AIにとって「先週」は読んだ時点から見た先週です。これは実際に事故になりました。会話が数日中断して再開したとき、冒頭で取った日付をそのまま使って、間違った日付で公開してしまったことがあります。

4. 索引には中身を書かせない

記憶が増えてきたので索引を作ってください。ただし、索引には1つにつき1行だけ書いてください。 中身を索引に書くと、結局毎回全部読み込むのと同じになって、分けた意味が無くなります。

5. 「次に何をするか」は別のファイルにさせる

記憶とは別に、作業の引き継ぎメモを作ってください。次の会話の最初にこれを読めば、続きから始められるようにしたいです。 書いてほしいこと: - いまどこまで進んでいるか - 次にやること - 設計上、触ると壊れるところ 最終更新の日時も入れてください。

記憶は「変わらないこと」、引き継ぎメモは「今どこにいるか」と分けると、どちらも腐りにくくなります。翌日は「引き継ぎメモを読んで続きをやって」の一言で再開できます。

6. 記憶を使うときの態度も決めさせる

記憶に書いてあることは、書いた時点のスナップショットです。 ファイル名・設定値・手順が書いてある記憶を使うときは、そのまま信じずに、実物を確認してから使ってください。記憶と実物が食い違っていたら、実物を優先して、記憶のほうを直してください。

これを言っておかないと、半年前の設定値を今の事実として扱われます。

うまくいかないときの言い直し方

記憶が増えすぎて、どれが本当か分からない

記憶を全部読んで、次を報告してください。 - 内容が矛盾しているもの - もう当てはまらなくなっているもの - 同じことを2つ以上のファイルに書いているもの そのうえで、統合案・削除案を出してください。いきなり消さず、案を見せてください。

追加するばかりで消さないと、矛盾した記憶が同居します。AIはどちらを信じればいいか分からず、状況によって挙動が変わります。

覚えさせたはずのことが守られていない

○○という方針を覚えてもらったはずですが、守られていません。 該当する記憶を読み返して、指示として不明確な部分がないか点検してください。曖昧なら、迷わない書き方に直してください。

守られない記憶は、たいてい書き方が曖昧です。「丁寧に書く」ではなく「見出しは必ず入れる」のように、判定できる形に直させてください。

方針が変わったのに、古い方針で動く

○○の方針は△△に変わりました。古い記憶を書き換えてください。 「以前はAだったが今はB」ではなく、Bだけが書いてある状態にしてください。Aを残すと、そちらを拾われる余地が残ります。

会話の中だけの話まで記憶に書かれる

「さっきの件」「この修正について」のような、その会話でしか通じない内容は記憶に書かないでください。 書く前に「3ヶ月後の私が読んで意味が分かるか」を判定して、分からないなら分かる形に書き直してから保存してください。

何を覚えさせるべきか分からない

迷ったときの目安はこれです。同じ指摘を2回したら、記憶に書く。

いま指摘したことは、前にも言った覚えがあります。次から言わなくて済むように、理由も含めて記憶に残してください。

1回目は偶然かもしれませんが、2回言ったなら3回目もあります。3回目を言わずに済ませるのが、この仕組みの目的です。

応用・次の一手

まず CLAUDE.md を1枚だけ作ってください。「触ると壊れるところ」を3行書くだけでも、その日から効果が出ます。

記憶ファイルまで作るのは、同じ説明を繰り返している自覚が出てきてからで十分です。先に立派な仕組みを作っても、書く中身がなければ空箱です。

慣れてきたら、作業のやり方そのものを覚えさせると効きます。

公開前に必ず確認してほしいことが3つあります。これを毎回の手順として覚えてください。 (確認したいことを書く)

ただし、本当に守らせたいルールは、記憶ではなく仕組みで止めてください。

いまのルールは、うっかり破れてしまいます。破れないように、機械的にチェックして止める仕組みを作ってください。

記憶は「お願い」ですが、仕組みは「保証」です。この考え方を実際に形にしたのが 静かに壊れたのを見つけさせる と、AIの最新情報を自動で集める の初期化の安全装置です。どちらも「気をつける」ではなく「気をつけなくても壊れない」形にしてあります。