これで何ができるか
上司や他部署に出す前に、下書きをAIに見てもらう——ここでほとんどの人が「添削して」「校正して」と頼みます。返ってくる文面はたしかに立派になります。ただ、立派になったことと、直ったことは別です。
架空の社内メール(283字)に欠陥を10件仕込んで、8通りの頼み方を試しました。仕込みは2種類に分けてあります。下書きの文の中にある欠陥(根拠のない断定・説明なしの社内用語など)が5件と、下書きに一度も書かれていない欠陥(期限・連絡先・依頼内容など)が5件です。
はっきり出たのは、批評は「指させる文」がある欠陥に偏るということです。文の中にある欠陥は4/5拾うのに、書かれていない欠陥は1/5しか出ません。指させる文が無いものは、話題にすらならないからです。
そして期限・連絡先・工数のような「書かれていないもの」こそ、実測では相手が動けなくなる原因の上位を占めました。この記事は、そこを引き出すための頼み方です。
なお、誤字や表記ゆれのような機械的に正誤が決まるものは誤字だけ直させて、言い回しには触らせない頼み方に分けてあります。この記事が扱うのは中身のほうです。
前提
| かかる時間 | 15分 |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、自分の下書き |
| プログラミング | 不要。下書きを貼って、指示文をコピーするだけです |
社外秘や個人情報を含む下書きは、そのまま貼らないでください。名前と数字を伏せても、この記事の頼み方は同じように効きます。
AIへの頼み方
1. まず「添削して」がどうなるかを見る
いちばん自然に出てくる頼み方から確かめます。
返ってきたのは、見出しで整理された完成度の高い文面でした。ところが機械で照合すると、中身は思っていたものと違いました。
いちばん重いのは、根拠のない断定が「指摘」ではなく「削除」で処理されることです。「新システムを導入すれば、大幅にコストが下がります」という数字のない一文は、変更点の申告にも出てこないまま、本文から消えていました。書いた本人は自分の断定に根拠が無かったことを知らないまま、その一文だけ落ちた文面を受け取ります。
もう1つ、書き直し本文には、下書きの持ち主が決めていない内容が5件入っていました。「申請者・確認者の双方に負担が生じている」「一部部署での試験導入」などです。そのまま送れば、自分が決めていないことを自分の名前で送ることになります。
2. 直すことを禁じて、代わりに何を書くかまで指定する
「直さないで」だけでは足りません。止めた先の受け皿を一緒に渡します。
これで文の中にある欠陥は5件中5件まで上がり、修正案は1件も混ざりませんでした。効いているのは後半です。「どう伝わってしまうか」と指定すると、指摘の粒度が「良くない」ではなく「読み手はこう受け取る」になります。前者では直しようがありませんが、後者なら何を足せばいいかが決まります。
範囲を先に区切る考え方そのものは「ついでに整理しておきました」と言わせない頼み方にまとめてあります。
3. 「書かれていないこと」を、独立して1回聞く
ここが分かれ目です。上の指示文でも、書かれていない欠陥は5件中2件しか出ていません。別の質問として立てる必要があります。
これで3/5まで上がりました。「書かれている内容への指摘は要りません」を付けるのは、付けないと指させる文がある指摘のほうに戻っていくからです。
4. 読む人を名指しして、その席から聞く
3番でも出てこない欠陥が2件残りました。「なぜ自分に頼むのか」と「自分が何時間取られるのか」です。この2つは、下書きを外から眺めている限り出てきません。読み手の席に座って初めて生まれる問いだからです。
書かれていない欠陥は5件中5件になりました。「なぜ総務部に来たのか」を拾ったのは、8通り試してこの頼み方だけです。
ただし引き換えがあります。この聞き方では、文の中にある欠陥が5件中0件になりました。読み手の席からは「分からないこと」しか見えないので、「書いてあるが根拠が無い」は視界に入りません。2番と4番は、どちらか一方では足りません。2回に分けて聞いてください。
読み手が誰かを一段深く決めたいときは、AIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうが使えます。あちらは書く前、この記事は書いたあとです。
5. 指摘ごとに、下書きの一文をそのまま引用させる
指摘が本当にその文についてのものかを、自分で確かめられる形にします。
引用は6件すべてが原文と1文字も違いませんでした。引用があると、指摘をそのまま検索して現物に当たれます。AIの言い換えを一度も経由しないぶん、指摘の当たり外れを自分で判定できます。
後半の一文も効きます。「該当箇所なし」という行き先を作ると、指させる文が無い指摘がそこに溜まります。これだけで書かれていない欠陥が2/5から3/5に増えました。
6. 段落を全部並べさせて、取りこぼしを消す
下書きが長くなると、指摘が目立つ段落に集まります。全段落に行き先を作ります。
本文8段落が8段落とも返り、指摘の無い3段落にはきちんと「なし」が入りました。仕込み10件のうち9件を拾っていて、1つの指示文としてはこれが最も広く拾いました。最後の一文が、期限・連絡先・工数の受け皿になっています。
7. 返信で最初に聞かれる質問を出させる
指摘の形より、質問の形のほうが直しやすいことがあります。
5件に絞らせても、書かれていない欠陥が4件出ました。「〜が書かれていません」と言われるより、質問に答えを書き足すだけで直せるぶん手が動きます。
最後の「答えは書かないでください」は外さないでください。これが無いと質問と一緒に想定回答が返り、AIが決めた答えをそのまま下書きに写してしまいます。
8. 「相手が動けなくなる順」に並べ直させる
指摘が10件出ても、全部直す時間は無いのが普通です。並べ替えは重要度ではなく相手の動作で頼みます。
返ってきた並びは、上位5件が全部「書かれていない欠陥」でした。文の中にある欠陥(根拠のない断定・他社を理由にしている)は6位以下です。直す順番は、足りないものが先だと分かります。
9. 直したあと、同じ指摘で答え合わせをさせる
直した版を自分で読み返すと、新しく書き足した部分に目が行って、直さずに残した部分を見落とします。
10件のうち8件を直し、2件をわざと残した版で試したところ、解消8件・未解消2件が正しく返りました。残っている2件は、引用まで原文と一致していました。
「新しい指摘は出さないでください」が要ります。これが無いと直した版への新しい指摘が混ざり、解消したのかどうかが分からなくなります。
うまくいかないときの言い直し方
文章の書き方の一般論しか返ってこない
「結論を冒頭に」「一文が長い」——どの文書にも言える話ばかりが返ってくるときは、範囲を文に固定します。
実測では、素朴に頼んだときに3件出ていた一般論が0件になりました。
指摘のはずが、直した文が混ざっている
直後の返答では守られました。ただしその次の返答で、修正案が1件だけ戻りました。しかも「書き直しはしません」と書き添えたうえで、書き換え文そのものは出ています。宣言があるので読み流すと気づけません。長く続けるなら、指示文のたびに付け直してください。
これで送っていいのか、結局判断がつかない
指摘が並んでも、どれが本当に困るのかが分からないときの聞き方です。
「一往復増える箇所」という言い方は、重要度を相手の動作に紐づけます。返ってきた5件のうち3件は、書かれていない欠陥でした。
指摘が本当か、自分で確かめたい
推測と実測を書き分けさせる考え方は「たぶん動きます」と言わせないための頼み方と同じです。
応用・次の一手
出た指摘は、その下書き1本で使い捨てにしないでください。同じ種類の文書では同じ欠け方をします。
仕込んだ10件が、そのまま10個の問いになりました。「期限を日付で書いたか」「相手が使う時間の見込みを書いたか」といった形です。ただしこのリストは、その会話で挙がった指摘の裏返しなので、4番(読み手を名指し)まで通していないと「なぜこの相手に頼むのか」が抜けたリストになります。
もう1つ、全部直そうとしないための問いがあります。
返ってきた答えには「ただし決裁を取る文書では残ります」と条件が付いていました。宛先が変われば判定も変わるので、そこまで読んでから落としてください。
下書きを直すより前に、そもそも何を書くべきか自体が固まっていないと感じるなら、AIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうから始めるほうが早く済みます。