これで何ができるか

上司や他部署に出す前に、下書きをAIに見てもらう——ここでほとんどの人が「添削して」「校正して」と頼みます。返ってくる文面はたしかに立派になります。ただ、立派になったことと、直ったことは別です。

架空の社内メール(283字)に欠陥を10件仕込んで、8通りの頼み方を試しました。仕込みは2種類に分けてあります。下書きの文の中にある欠陥(根拠のない断定・説明なしの社内用語など)が5件と、下書きに一度も書かれていない欠陥(期限・連絡先・依頼内容など)が5件です。

同じ下書きを8通りのやり方で批評させ、仕込んだ欠陥10件のうち何件が指摘されたかを比べた横棒グラフ。欠陥は、文の中にある欠陥5件と、下書きに一度も書かれていない欠陥5件に分けてある。「批評してください」だけだと、文の中にある欠陥は5件中4件拾うのに、書かれていない欠陥は5件中1件しか出ない。「添削してください」は指摘としては5件中1件と0件しか出ない。「直さずに批評してください」で文の中の欠陥が5件中5件、書かれていない欠陥は5件中2件。「書かれていないことを挙げて」で書かれていない欠陥が5件中3件。一文を引用させると5件中5件と5件中3件。読み手を名指しして何が分からないまま残るかを聞くと、書かれていない欠陥が5件中5件になる代わりに、文の中の欠陥は5件中0件になる。返信で最初に聞かれる質問を出させると5件中0件と5件中4件。段落ごとに割り当てさせると5件中5件と5件中4件で、1つの指示文としては最も広く拾った。読み手を名指しする聞き方は、書かれていない欠陥を全部拾う代わりに文の中の欠陥が見えなくなるので、2回に分けて聞く必要がある。
「批評してください」は指摘を6件も出すので十分に見えます。ですが書かれていない欠陥は5件中1件しか出ていません。

はっきり出たのは、批評は「指させる文」がある欠陥に偏るということです。文の中にある欠陥は4/5拾うのに、書かれていない欠陥は1/5しか出ません。指させる文が無いものは、話題にすらならないからです。

そして期限・連絡先・工数のような「書かれていないもの」こそ、実測では相手が動けなくなる原因の上位を占めました。この記事は、そこを引き出すための頼み方です。

なお、誤字や表記ゆれのような機械的に正誤が決まるものは誤字だけ直させて、言い回しには触らせない頼み方に分けてあります。この記事が扱うのは中身のほうです。

前提

かかる時間 15分
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、自分の下書き
プログラミング 不要。下書きを貼って、指示文をコピーするだけです

社外秘や個人情報を含む下書きは、そのまま貼らないでください。名前と数字を伏せても、この記事の頼み方は同じように効きます。

AIへの頼み方

1. まず「添削して」がどうなるかを見る

いちばん自然に出てくる頼み方から確かめます。

この下書きを添削してください。

返ってきたのは、見出しで整理された完成度の高い文面でした。ところが機械で照合すると、中身は思っていたものと違いました。

「この下書きを添削してください」と頼んだときに下書きに起きたことを示した図。本文10行のうち、そのまま残ったのは宛名と名乗りの2行だけで、残り8行は消えた。消えた8行には「大幅にコストが下がります」という根拠のない断定が含まれるが、これは指摘されずに削除された。AIが申告した変更点は3件。仕込んだ欠陥10件のうち指摘として挙がったのは1件。原文に根拠のない記述が書き直し本文に5件足された。期限・連絡先・主管・工数といった、下書きに書かれていない欠陥が埋まったものは0件。書き直し本文には、下書きの持ち主が決めていない内容が5件入っていた。根拠のない断定は指摘ではなく削除で処理されるので、書いた本人は自分の断定に根拠が無かったことを知らないまま終わる。
申告された変更点は3件でしたが、原文10行のうちそのまま残ったのは2行だけでした。

いちばん重いのは、根拠のない断定が「指摘」ではなく「削除」で処理されることです。「新システムを導入すれば、大幅にコストが下がります」という数字のない一文は、変更点の申告にも出てこないまま、本文から消えていました。書いた本人は自分の断定に根拠が無かったことを知らないまま、その一文だけ落ちた文面を受け取ります。

もう1つ、書き直し本文には、下書きの持ち主が決めていない内容が5件入っていました。「申請者・確認者の双方に負担が生じている」「一部部署での試験導入」などです。そのまま送れば、自分が決めていないことを自分の名前で送ることになります。

2. 直すことを禁じて、代わりに何を書くかまで指定する

「直さないで」だけでは足りません。止めた先の受け皿を一緒に渡します。

この下書きを、直さずに批評してください。 書き直した文や修正案は書かないでください。代わりに、下書きのどこが、読む人にどう伝わってしまうかを書いてください。

これで文の中にある欠陥は5件中5件まで上がり、修正案は1件も混ざりませんでした。効いているのは後半です。「どう伝わってしまうか」と指定すると、指摘の粒度が「良くない」ではなく「読み手はこう受け取る」になります。前者では直しようがありませんが、後者なら何を足せばいいかが決まります。

範囲を先に区切る考え方そのものは「ついでに整理しておきました」と言わせない頼み方にまとめてあります。

3. 「書かれていないこと」を、独立して1回聞く

ここが分かれ目です。上の指示文でも、書かれていない欠陥は5件中2件しか出ていません。別の質問として立てる必要があります。

この下書きに書かれていないことを挙げてください。書かれている内容への指摘は要りません。

これで3/5まで上がりました。「書かれている内容への指摘は要りません」を付けるのは、付けないと指させる文がある指摘のほうに戻っていくからです。

4. 読む人を名指しして、その席から聞く

3番でも出てこない欠陥が2件残りました。「なぜ自分に頼むのか」と「自分が何時間取られるのか」です。この2つは、下書きを外から眺めている限り出てきません。読み手の席に座って初めて生まれる問いだからです。

この下書きを読む人は、経費精算システムを実際に運用している総務部の担当者です。この人はPJ-Kに関わっていません。 この読み手が、この下書きを最後まで読んだあとに、何が分からないまま残るかを挙げてください。下書きは直さないでください。

書かれていない欠陥は5件中5件になりました。「なぜ総務部に来たのか」を拾ったのは、8通り試してこの頼み方だけです。

ただし引き換えがあります。この聞き方では、文の中にある欠陥が5件中0件になりました。読み手の席からは「分からないこと」しか見えないので、「書いてあるが根拠が無い」は視界に入りません。2番と4番は、どちらか一方では足りません。2回に分けて聞いてください。

読み手が誰かを一段深く決めたいときは、AIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうが使えます。あちらは書く前、この記事は書いたあとです。

5. 指摘ごとに、下書きの一文をそのまま引用させる

指摘が本当にその文についてのものかを、自分で確かめられる形にします。

この下書きを、直さずに批評してください。 指摘ごとに、下書きの中の一文をそのまま引用してから書いてください。下書きの中に引用できる文が無い指摘は、「下書きに該当箇所なし」と書いてください。

引用は6件すべてが原文と1文字も違いませんでした。引用があると、指摘をそのまま検索して現物に当たれます。AIの言い換えを一度も経由しないぶん、指摘の当たり外れを自分で判定できます。

後半の一文も効きます。「該当箇所なし」という行き先を作ると、指させる文が無い指摘がそこに溜まります。これだけで書かれていない欠陥が2/5から3/5に増えました。

6. 段落を全部並べさせて、取りこぼしを消す

下書きが長くなると、指摘が目立つ段落に集まります。全段落に行き先を作ります。

下書きを段落ごとに番号を振って引用し、段落ごとに指摘を書いてください。指摘が無い段落は「なし」と書いてください。 最後に、どの段落にも対応しない指摘を別に並べてください。

本文8段落が8段落とも返り、指摘の無い3段落にはきちんと「なし」が入りました。仕込み10件のうち9件を拾っていて、1つの指示文としてはこれが最も広く拾いました。最後の一文が、期限・連絡先・工数の受け皿になっています。

7. 返信で最初に聞かれる質問を出させる

指摘の形より、質問の形のほうが直しやすいことがあります。

この下書きを受け取った人が、返信で最初に聞いてくるであろう質問を5つ、聞かれる順に書いてください。答えは書かないでください。

5件に絞らせても、書かれていない欠陥が4件出ました。「〜が書かれていません」と言われるより、質問に答えを書き足すだけで直せるぶん手が動きます。

最後の「答えは書かないでください」は外さないでください。これが無いと質問と一緒に想定回答が返り、AIが決めた答えをそのまま下書きに写してしまいます

8. 「相手が動けなくなる順」に並べ直させる

指摘が10件出ても、全部直す時間は無いのが普通です。並べ替えは重要度ではなく相手の動作で頼みます。

いま挙げた指摘を、「これが無いと相手が動けない」順に並べ直してください。 順位ごとに、その指摘に対応しなかった場合に何が起きるかを1行で書いてください。

返ってきた並びは、上位5件が全部「書かれていない欠陥」でした。文の中にある欠陥(根拠のない断定・他社を理由にしている)は6位以下です。直す順番は、足りないものが先だと分かります。

9. 直したあと、同じ指摘で答え合わせをさせる

直した版を自分で読み返すと、新しく書き足した部分に目が行って、直さずに残した部分を見落とします。

下書きを直しました。直す前の版と、直した後の版を並べます。 さきほど挙げた指摘のうち、どれが解消され、どれが残っているかを一覧にしてください。新しい指摘は出さないでください。

10件のうち8件を直し、2件をわざと残した版で試したところ、解消8件・未解消2件が正しく返りました。残っている2件は、引用まで原文と一致していました。

「新しい指摘は出さないでください」が要ります。これが無いと直した版への新しい指摘が混ざり、解消したのかどうかが分からなくなります

うまくいかないときの言い直し方

文章の書き方の一般論しか返ってこない

「結論を冒頭に」「一文が長い」——どの文書にも言える話ばかりが返ってくるときは、範囲を文に固定します。

文章の書き方についての一般的な助言は要りません。この下書きの中の、この一文がこう読まれる、という形だけで書いてください。

実測では、素朴に頼んだときに3件出ていた一般論が0件になりました。

指摘のはずが、直した文が混ざっている

書き直した文が混ざっています。修正案の部分をすべて取り消して、指摘だけを残してください。 この会話では、私が「直してください」と言うまで書き直さないでください。

直後の返答では守られました。ただしその次の返答で、修正案が1件だけ戻りました。しかも「書き直しはしません」と書き添えたうえで、書き換え文そのものは出ています。宣言があるので読み流すと気づけません。長く続けるなら、指示文のたびに付け直してください。

これで送っていいのか、結局判断がつかない

指摘が並んでも、どれが本当に困るのかが分からないときの聞き方です。

良い点は書かなくて構いません。この下書きをそのまま送った場合に、返信で一往復増える箇所だけを挙げてください。

「一往復増える箇所」という言い方は、重要度を相手の動作に紐づけます。返ってきた5件のうち3件は、書かれていない欠陥でした。

指摘が本当か、自分で確かめたい

いまの指摘のうち、下書きの文をそのまま引用して示せるものと、あなたの推測にすぎないものを分けてください。推測のほうには、そう考えた理由を書いてください。

推測と実測を書き分けさせる考え方は「たぶん動きます」と言わせないための頼み方と同じです。

応用・次の一手

出た指摘は、その下書き1本で使い捨てにしないでください。同じ種類の文書では同じ欠け方をします。

いま挙がった指摘を、次に私が同じ種類の文書を書くときに使えるチェックリストにしてください。 指摘そのものではなく、「書き終えたあとに自分で確かめる問い」の形にしてください。10個以内でお願いします。

仕込んだ10件が、そのまま10個の問いになりました。「期限を日付で書いたか」「相手が使う時間の見込みを書いたか」といった形です。ただしこのリストは、その会話で挙がった指摘の裏返しなので、4番(読み手を名指し)まで通していないと「なぜこの相手に頼むのか」が抜けたリストになります。

もう1つ、全部直そうとしないための問いがあります。

挙げてもらった指摘のうち、直さなくても実害が出ないものはどれですか。理由も書いてください。

返ってきた答えには「ただし決裁を取る文書では残ります」と条件が付いていました。宛先が変われば判定も変わるので、そこまで読んでから落としてください。

下書きを直すより前に、そもそも何を書くべきか自体が固まっていないと感じるなら、AIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうから始めるほうが早く済みます。