これで何ができるか

領収書とレシートを、月末にまとめてAIに投げて費目ごとに分けさせる。これは1回やるとかなり気持ちよく決まります。全部の行が拾われて、費目ごとの合計まで付いてきます。

問題は2か月目からです。1か月ぶんの一覧は、どの月を見てもそれらしく整っています。おかしいことが分かるのは、3か月ぶんを縦に並べたときだけです。

この記事は、架空の領収書メモを3か月ぶん(7月・8月・9月)、種類の違う材料2本(家計簿アプリからの書き出しのような表形式と、手帳の走り書き)で作り、3か月とも1文字も同じ文字列で出てくる行を材料ごとに5件仕込んで、6個の指示文を全56回通した記録です。判定はすべて Python の文字列照合で、仕込みが成立していることも走らせる前にコードで確かめてあります。

4通りの頼み方で、同じ店・同じ用途の行が月をまたいで違う費目に入った数を並べた横棒グラフ。1つの頼み方につき4系列ぶんの棒があり、棒1本の最大は5件。そのまま費目ごとに分けてと頼んだ4系列は3件・3件・3件・2件で、のべ20件中11件。費目の一覧9つを固定して受け皿を付けた4系列は3件・1件・1件・0件で、のべ5件。そこに毎月かならず同じ費目にという一文を足した4系列は0件・1件・0件・2件で、のべ3件。こちらが持つ店名とメモと費目の対応表を渡した4系列は4系列とも0件で、のべ0件。頼み方を変えるほど揺れは減るが、0になったのは対応表を渡した回だけだった。
棒が短いほど、月をまたいでそろっています。0になったのは、いちばん下の1通りだけでした。

分かったことは3つです。

① 行は落ちません。ばらけるのは費目の名前のほうです。178行のうち返りに出てこなかった行は、56回を通して0行でした。かわりに、費目の名前が毎月ゼロから作り直されます。3か月ぶんを合わせるとのべ18〜20種の費目が出てきて、3か月とも出てきた費目は2〜4種しかありません。「教養・娯楽」だった本が、翌月は「書籍」になります。

② そろう行とそろわない行が、きれいに分かれました。電気料金・ガス・交通系ICのチャージのような行は、費目がメモの中で決まります費目がメモの中で決まる行は、そのまま頼んだだけで、のべ8回とも3か月そろいました。いっぽう、コンビニのコピー代・文庫本・のど飴とマスクは、費目を決める人が自分しかいません費目を決める人が自分しかいない行は、のべ12件中11件が月によって違う費目に入りました(費目名のかっこ書きを無視して数えると10件です)。

③ 0になったのは、AIに選ばせるのをやめた回だけでした。費目の一覧を9つに固定するとのべ11件→5件、そこに「毎月かならず同じ費目に」を足すと3件こちらが「店名/メモ/費目」の対応表を持って「あなたが選び直さないでください」と書いた12回だけが、0件でした。

前提

かかる時間 最初に40分。2か月目からは貼るだけです
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、日付・店名・金額・メモが並んだテキスト
プログラミング 不要。表計算ソフトも要りません

🚧 この記事は税金の話をしません。扱うのは「自分のメモを、自分が決めた費目に分けて数える」ところまでです。どの費目で申告してよいか、経費に入れてよいかは税務の判断なので、必要なら税理士に聞いてください。ここで確かめたのは同じものが毎月同じ欄に入るかどうかだけです。

⚠️ レシートの写真は扱いません。この記事の材料はテキストで打ったメモです(7/9 ダイソー 660円 収納ケースとペン のような1行)。

📌 貼る前に、AIに触らせる範囲を先に決めるを読んでおいてください。家計のメモは、店名と生活のリズムがそのまま出ます。

AIへの頼み方

1. まず、いまのまま1か月ぶんを分けさせてみる

出発点はここです。材料2本 × 3か月 × 各2回=12回通しました。

下は、先月ぶんの領収書とレシートのメモです。費目ごとに分けて、費目ごとの合計金額も出してください。

12回とも、全部の行が拾われました。取りこぼしは 0/178行です。合計も出ますし、たいてい「分け方で迷ったところ」まで自分から付けてきます。1か月だけ見るなら、これで文句はありません。

なぜここから始めるか=この記事のいちばん大事な前提が「AIは仕分けを間違えているわけではない」だからです。この頼み方が壊れているのは、1か月ぶんの返りを見ているかぎり絶対に分かりません。先に凝った指示文を渡すと、効いているのが指示文なのか、もともとそうなのかが分からなくなります。

2. 3か月ぶんを縦に並べて、はじめて見える

12回ぶんを3か月ずつ並べ直すと、こうなっていました。すべて同じ金額・同じメモの行です。

3か月とも同じ文字列で出た行 7月 8月 9月
丸善ジュンク堂書店/文庫本2冊 教養・娯楽 書籍 書籍
マツモトキヨシ/のど飴とマスク 日用品 日用品・医薬品 医薬品・衛生
セブン-イレブン/コピー代 20枚 雑費 雑費 消耗品・事務用品
ドトールコーヒー/朝のコーヒー 外食・中食 食費(外食・カフェ) 外食・カフェ

1か月ぶんだけを見れば、どの月の分類も正しく見えます。おかしいのは月と月のあいだにしかありません。だから「今月の一覧を確認する」という運用では、永久に気づけないのです。

これは自動化のいちばん多い壊れ方です。自動処理を置く前に2回ぶんを見比べるが同じ材料を2回通したときの話で、この記事は材料が毎月入れ替わるときの話です。

3. 費目の一覧を、先にこちらが渡す

いちばん効く一手はこれです。同じく12回通しました。

下は、先月ぶんの領収書とレシートのメモです。次の9つの費目だけを使って分けてください。 食費 / 日用品 / 交通費 / 水道光熱費 / 通信費 / 医療費 / 交際費 / 趣味・娯楽 / その他 この9つに当てはめられない行は、費目を「決められない」にして、なぜ決められないかをメモの言葉を引用して1行で書いてください。新しい費目を作らないでください。

ずれは のべ11/20 → 5/20 に減りました。費目名のほうは劇的で、4系列とも「3か月とも出た費目」が7種でそろいます。

なぜ「決められない」を足すか=「9つ以外を作るな」だけを渡すと、どこにも当てはまらない行が黙って「その他」に流れ込みます。行き先を用意しないと、迷った行と本当に雑費の行が同じ欄で混ざり、毎月「その他」だけが太っていきます。実際、この受け皿には毎月1〜3行が入りました。入った行は月ごとに違います。そこが自分で決めるべき場所です。

📌 意外だったのは、交通系ICのチャージが4系列中2系列で3か月とも「決められない」に入ったことです。理由も3か月とも同じで、「チャージした残高を運賃に使ったのか買い物に使ったのかが書かれていない」。私が「明白」だと思って仕込んだ行でした。

4. 「毎月かならず同じ費目に」と書き足すと、表が返ってくる

上の3番に、この一文だけを足します。同じく12回

下は、先月ぶんの領収書とレシートのメモです。次の9つの費目だけを使って分けてください。 食費 / 日用品 / 交通費 / 水道光熱費 / 通信費 / 医療費 / 交際費 / 趣味・娯楽 / その他 この9つに当てはめられない行は、費目を「決められない」にして、なぜ決められないかをメモの言葉を引用して1行で書いてください。新しい費目を作らないでください。 同じ店の同じ用途のものは、毎月かならず同じ費目に入れてください。

ずれは 3/20 まで減りました。ただし本当に効いたのは、そこではありません。

🚨 12回とも、頼んでいない「来月以降のルール案」の表が返ってきました。この一文が無い3番の頼み方では 1/12回、対応表を渡した5番でも 1/12回ですから、引き金はこの一文です。返ってきたのは、たとえばこういう表です。

店・支払先 用途 費目
セブン-イレブン 弁当・飲み物 食費
セブン-イレブン コピー・印刷 その他
スギ薬局/マツモトキヨシ 洗剤・紙類・マスク・のど飴 日用品
スギ薬局/マツモトキヨシ 処方箋の薬 医療費

なぜこうなるかAIは、自分が先月の会話を見られないことを分かっています。「毎月かならず同じに」と言われても実行しようがないので、判断のかわりに、判断の元になる表をこちらへ返してくるわけです。試す前の私の見立ては「この一文は効かないはず」でしたが、外れました。効きます。ただし効き方が、こちらが期待したものと違いました。

5. 対応表を持つのは自分。AIには選び直させない

前の節でAIが返してきた表を、こんどはこちらから渡します。同じく12回

下は、先月ぶんの領収書とレシートのメモです。費目は下の対応表で決まっています。対応表の「店名」と「メモ」の両方が一致する行は、対応表の費目をそのまま使ってください。あなたが選び直さないでください。 [対応表]店名 / メモ / 費目 東京電力エナジーパートナー / 電気料金 / 水道光熱費 東京メトロ 新宿駅 / ICカードチャージ / 交通費 セブン-イレブン 北口店 / コピー代 20枚 / その他 丸善ジュンク堂書店 池袋本店 / 文庫本2冊 / 趣味・娯楽 マツモトキヨシ 中央店 / のど飴とマスク / 医療費 対応表に無い行だけ、次の9つから選んでください。 食費 / 日用品 / 交通費 / 水道光熱費 / 通信費 / 医療費 / 交際費 / 趣味・娯楽 / その他 この9つに当てはめられない行は、費目を「決められない」にして、なぜ決められないかをメモの言葉を引用して1行で書いてください。新しい費目を作らないでください。

4系列とも 0/5。のべ 0/20 です。3か月とも同じ文字列で出る5件は、12回すべてで同じ費目に入りました。

効いたのは「禁止」でも「受け皿」でもなく、答えそのものを渡したことです。対応表に載っている行について、AIはもう何も決めていません。決めていないので、ぶれようがありません。

⚠️ 対応表は5行で足ります。全部の店を載せる必要はありません。載せるのは毎月出てきて、しかも費目が自分にしか決められない行だけです。それ以外はAIが決めても揺れませんでした(下の図)。

3か月とも同じ文字列で出てくる10件の行が、4通りの頼み方でどれだけ月をまたいで同じ費目に入ったかを並べた表。ひとつの枠の菱形の数が、2回のうち3か月ともそろった回の数を表す。電気料金・ガス・交通系ICのチャージという、メモを読めば費目が決まる4行は、そのまま頼んだ回でも8回中8回そろった。コピー代・文庫本・のど飴とマスク・収納ケース・子どもの上履き・カフェでの作業という6行は、そのまま頼むと12回中11回がずれた。費目の一覧を固定すると多くがそろいはじめ、こちらが対応表を渡した列では10行すべてが2回とも3か月そろっている。そろうかどうかを分けたのは、費目がメモの中で決まるか、決めるのが自分しかいないかだった。
対応表に載せるべき行は、この図の黒い6行です。青い4行は放っておいてもそろいました。

6. 対応表のたたき台は、1か月ぶんから作らせる

ゼロから表を書くのは面倒なので、1か月ぶんの返りを貼って作らせます。材料2本 × 各2回=4回通しました。

下は、1か月ぶんの領収書とレシートのメモに費目を付けた結果です。来月からも同じ費目に入るように、「店名」「メモ」「費目」の3つだけを並べた対応表にしてください。来月も同じ文字列で出てくると思われる行だけを入れて、1回きりだと思われる行は入れないでください。

7〜9行の表が返ってきます。よかったところが2つあります。①メモを条件にすると当たらないことを、自分から見抜きます——「西友は『米と調味料』『週末の買い出し』『夕飯の買い物』と3回とも文言が違いました。メモを条件に入れると来月は1件も当たりません」。②多目的の店を、理由つきで外します——「イオンは食品も衣料も日用品も買える店なので、店名で費目を固定すると誤って振り分けます」。

🚨 ただし、これをそのまま採用してはいけません。3か月とも1文字も同じで出てくる5件のうち、そのまま使える形で表に載ったのは 3件・2件・3件・4件=のべ12/20でした。落ちた8件は、AIが「メモが毎回変わりそう」「1回きりだろう」と見立てて外したもので、この材料では外れています。文庫本もコピー代も、3か月とも同じ文字列で出ていました。

なぜ外すか1か月ぶんの紙の上には「来月も出るか」の手がかりが無いからです。これは自動処理を置く前に2回ぶんを見比べるで出た境目と同じで、そこに書いてあることは当てられても、これから起きることは当てられません。表は必ず自分で1回読んでください。

7. 3か月ぶんを並べて、揺れている組を挙げさせる

もう何か月か動かしてしまった人向けです。指示文1で返ってきた3か月ぶんを、新しい会話にまとめて貼ります。4回通しました。

下は、同じ家計簿の3か月ぶんを、月ごとに別々にAIへ渡して費目を付けさせた結果です。同じ店の同じ用途のものが、月によって違う費目に入っている組だけを挙げてください。何組あったかも書いてください。

見落としはしません。ただし数え方が合いません。AIの申告は 4組・2組・2組・2組、こちらが Python で数えると 4組・7組・8組・7組(費目名のかっこ書きと中黒以降を無視して数えると 4・3・4・4組)。揺れの組数は、4回ともAIの申告のほうが機械より少なく出ます

理由ははっきりしていて、AIは「費目そのものが変わった組」と「中身は同じで名前だけ違う組」を分けて数えているからです。実際、1回目はそう書いてきました——「費目の中身は同じ考え方なのですが、名前が月ごとに違うので、3か月ぶんを縦に並べると別の行として集計されてしまいます」。言い分としては正しいのですが、表計算ソフトに貼るなら名前が違えば別の行です。

📌 だからこの節は入口として使ってください。数を信じるのではなく、挙がってきた組をそのまま対応表の行にします。この会話は、月ごとの仕分けを走らせた会話とは別に開いてください(自分の出力を自分で採点させないため)。

うまくいかないときの言い直し方

「その他」だけが毎月ふくらむ

費目の一覧を渡したのに受け皿を作らなかった場合に起きます。上の3番の、後半の2文を落とさないでください。

この9つに当てはめられない行は、費目を「決められない」にして、なぜ決められないかをメモの言葉を引用して1行で書いてください。新しい費目を作らないでください。

「決められない」に入る行は、毎月1〜3行でした。その行こそ、対応表に足すべき行です。

対応表を渡したのに、一致しない行がある

⚠️ AIが作った対応表の店名は、メモの店名と違う文字列になっていることがあります。実測では ガス都市ガス に、東京メトロ 新宿駅東京メトロ に書き換わっていました。読み物としては親切ですが、照合には使えません。対応表の店名は、必ず自分のメモからコピーして貼り直してください。

同じ店なのに、月によって用途が違う

コンビニで昼食を買った月と、コピーを取った月があります。これは揺れではなく正しく別の費目です。対応表を店名だけで作ると、この2つをまとめて壊します。実測では、AIのほうが自分で気づいて2行に分けてきました(「セブン-イレブン/弁当・飲み物/食費」と「セブン-イレブン/コピー・印刷/その他」)。店名だけの行を作るのは、その店で買うものが1種類のときだけにしてください。

費目の合計が、先月と比べられない

これがこの記事の症状そのものです。合計金額は毎月正しく出ます。合っていないのは金額ではなく「何を足したか」のほうなので、数字を見比べても見つかりません。見るのは金額ではなく費目の名前の一覧です。先月の費目名と今月の費目名を並べて、同じ顔ぶれかどうかだけ確かめてください。

メモが0行の月がある

引っ越しや入院で、その月だけ記録が無いことがあります。この受け皿は月をまたぐ集計を毎月回すで扱っているので、そちらを見てください。

応用・次の一手

毎月やっているなら、決まった時刻に動かせます。対応表がテキストで固定できた時点で、この作業は自動化の形に乗ります。仕掛けの作り方は毎日決まった時刻にAIを動かす仕掛けを作らせるにあります。

置く前に、この記事の結果を一般化しておくと迷いません。回をまたいでそろえたいものは、先に2つに仕分けてください。

どうするか
費目がメモの中で決まる 電気料金・ガス・ICカードのチャージ AIに任せてよい(のべ8回とも3か月そろった)
決めるのが自分しかいない コピー代・文庫本・のど飴とマスク 対応表に書く(そのまま頼むと のべ12件中11件がずれた)

この線引きは、入力の見張りを作るときの線引きと同じものです。毎朝のAIは材料が1日古い日も同じ顔で結果を返すでは、材料の中で決まる異常は頼まなくても出て、材料の外にしか根拠が無い異常は8回とも出ませんでした。扱っているものが違うのに、境目が同じところに来ます。

隣にある記事はこう分かれています。

次の一手は、対応表を1つのファイルに置くことです。毎月そこへ1〜2行足すだけになります。⚠️ ただし、その表をAIに書き換えさせないでください。書き換えた月から、この記事の症状が静かに戻ります。