これで何ができるか
副業を続けていると、AIに送る指示文を保存して使い回すようになります。「納品の連絡メールを作って」「納品前の確認項目を出して」——毎回打ち直すのは面倒だからです。
そして案件が2件、3件と増えると、貼り忘れではなく「隣の案件の発注書を貼る」ほうが起きます。材料の欄は埋まっているので、画面は正常に見えます。
架空の副業案件を2組(記事執筆/商品ページ制作)作り、それぞれに「保存した指示文が想定している発注元」と「うっかり貼ってしまう別案件の発注書」を用意して、8個の指示文を合わせて44回通しました。食い違いは6項目(発注元名・担当者名・納期・分量・修正対応・納品形式)で、すべて機械で判定できるようにしてあります。
- 食い違いは、そのまま頼んだ8回とも指摘されました。書く前の見立て(気づかない)は外れています
- 🚨 それでも8回とも、成果物を作りました。納品メールの4回は、別案件の6項目が4回とも6項目そのまま入っていました。正しい案件の値は、社名がひとつ出てくるだけです
- 指摘の文は、メールの本文の外にあります。あなたがコピーするのは本文だけです
- 止める条件を先に渡した20回は、1つも成果物を作りませんでした
材料そのものが無いときの止まり方は材料を貼り忘れたまま、AIに書かせないにあります。この記事が扱うのは、材料はそろっているのに中身が別の案件だったときです。
前提
| かかる時間 | 10分(保存してある指示文を直すだけ) |
| 費用 | 無料。ブラウザのチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 案件ごとの発注書と、保存して使い回している指示文 |
| プログラミング | 不要。指示文の先頭に1行足すだけです |
発注元がAIの利用を禁じている場合があります。規約や指示書を先に確かめ、禁じられているなら使わないでください。この記事の使い方は「自分が受け取った発注書を自分で読み解く」ところまでで、AIに成果物を書かせて納品する話ではありません。
複数の案件の資料を、同じ会話にまとめて貼らないでください。この記事の結論は逆で、案件ごとに会話を分けたうえで、貼った材料が本当にその案件のものかを機械的に確かめるという形です。どこまでAIに触らせるかはAIに見せる範囲を、先に区切るにまとめてあります。
AIへの頼み方
1. そのまま頼むと、指摘したうえで作ってしまう
実測に使った架空の発注書はこの形です。読者が自分で試すときは、ここを自分の発注書に置き換えてください。
【発注書】テラス出版 御中/記事執筆のご依頼
発注元: テラス出版
担当者: 白石
案件名: 地方移住の住まい探し
納期: 2026年10月2日
分量: 5,000字
修正対応: 1回まで
納品形式: Wordファイル
支払い: 検収後、翌月末に指定口座へ振込
連絡先: 白石(テラス出版 制作部)
保存してある指示文は「みどり通信社」の案件用です。そこへ、上のテラス出版の発注書を貼りました。指示文のすぐ下に発注書を貼りつけて送ります。
4回とも、食い違いを指摘しました。「ご依頼文には『みどり通信社の案件』とありますが、発注書の発注元は『テラス出版』、担当者は『白石』様となっています」。ここまでは期待どおりです。
数え方は2通りで確かめました。保存側の会社名が返りに出てくるかで数えると8回中8回、2つの会社名が同じ一文に並ぶかで数えると8回中7回です(残る1回は、2つの社名が続けて別の文に置かれていました)。どちらの数え方でも、黙って別案件の発注書を使った回は0回でした。
🚨 そのうえで、4回ともメールを完成させました。宛名はテラス出版の白石様、本文には納期2026年10月2日・5,000字・修正1回まで・Wordファイルが並びます。6項目が4回とも6項目そのまま入り、正しい案件の値はどこにも出てきません(社名が指摘の文に1度出るだけです)。
そして指摘の文は、メールの外に置かれます。ある回は本文の上、別の回は本文の下です。あなたがコピーするのは、けい線で区切られたメールの部分だけです。
2. 指示文の先頭に、受け皿を1行足す
足すのはこれだけです。〔 〕の中を自分の案件名にします。
受け皿の1行を先頭に足した4回は、メールを1文字も書かずに止まりました。止まったあとに返ってくるのは「発注書の貼り間違いではないか」「案件指定の書き間違いではないか」という2択で、どちらが正しいかをAIが決めた回は0回です。
🔑 効いているのは「気づかせる」ことではありません。気づいてはいたのです。足りなかったのは、気づいたときに何をするか(作らない)を、こちらが先に決めておくことでした。
3. 検品の一覧でも、同じ1行が効く
作らせるものがメールでなくても同じです。保存してある確認用の指示文でも試しました。
そのままだと4回とも一覧を作ります。「本文が5,000字ある」「修正依頼は1回まで」——別案件の数字が入ったチェックリストが、そのまま作業に使える形で出てきます。
同じ1行を先頭に足した版は、4回とも作らずに止まりました。
4. 迷うなら、作る前に「一致するかどうかだけ」聞く
保存した指示文を直すのが面倒なら、先に照合だけさせる手もあります。
4回とも、メールを作らずに違いを表で並べました。ただしこの形は、毎回自分で打つ必要があります。使い回すなら次の§5にしてください。
5. 保存する形は、指示文の上に1枚かぶせる
保存してある指示文を書き直さずに、上に1枚かぶせる形です。案件が増えても、〔 〕の中を変えるだけで使い回せます。
別案件を貼った4回は4回とも止まり、正しい発注書を貼った4回は4回とも普通にメールを作りました(誤って止まった回は0回)。
3つの部品が効いています。①照合するのは「発注元:」の行の会社名だけ、②止まったら、発注書に書かれていた発注元と担当者を書き写させる(何を貼ったのかが画面に残ります)、③分からないことを自分で決めて先へ進まない。③は材料を貼り忘れたまま、AIに書かせないでも効いた一文です。
うまくいかないときの言い直し方
正しい発注書なのに止まってしまう
いちばん起きやすい失敗です。照合させる項目を増やすと、こうなります。実測では、次の版が正しい発注書を貼った4回のうち3回で止まりました。
理由は、「案件名」という言葉が2つの意味で使われていたからです。こちらが書いた案件名は仕事の種類(記事執筆・商品ページ制作)で、発注書の「案件名:」欄に入っているのは記事の題(在宅勤務の光熱費・秋の保存容器)でした。返り自身がこう書いています——「どちらを案件名として扱うべきか、私の側では決められません」。
止める基準にしてよいのは、発注書の中に1通りの形でしか出てこない項目だけです。会社名は1通りですが、「案件名」は書き手によって中身が変わります。照合を厳しくする方向に進むと、正しい材料まで止まります。§5の形に戻して、会社名だけを見させてください。
止まってくれたが、そのまま進めてよいか分からない
止まった回の返りは、たいてい「1. 発注書の貼り間違い/2. 案件指定の書き間違い」の2択で返ってきます。ここで「2でいいです」と答えると、その会話はそのまま別案件の条件で走り出します。
決めるのはあなたです。会話を続けて直さず、正しい発注書を貼り直した新しい会話で始めてください。前の会話の内容が次に持ち越される事故は、前回の週報を渡して今週ぶんを作らせないに実測があります。
案件が3件以上あって、どれを貼ったか自分でも分からない
照合の相手(〔 〕の中)を、その場で思い出して打っていると、そこ自体が間違います。
これを案件ごとに1回だけ走らせて、返ってきた6行を自分のメモに保存します。以後はそのメモの1行目(発注元)を〔 〕にコピーするだけです。毎回の材料を数え直す形は毎回、材料の件数と日付をこちらから渡すにあります。
応用・次の一手
案件ごとにファイルを1つ作って、指示文の1行目を固定する。〔 〕に入る会社名は案件ごとに1つしかないので、ファイルの1行目に書いておけば、毎回思い出す必要がなくなります。
毎週・毎月やる仕事なら、決まった時刻に動かす。同じ照合を毎回手で貼るより、決まった形で走らせるほうが確実です。仕組みの作り方はGitHub Actionsで、毎日決まった時刻に動かすにまとめてあります。
貼る前の点検と、貼ったあとの点検は別物です。この記事は「貼ったものが正しい案件か」だけを扱いました。貼った材料が足りているかは材料を貼り忘れたまま、AIに書かせない、できあがった文面に確かめていない申告が混ざっていないかはAIに任せた作業は、報告ではなく現物で確かめるにあります。
今回の数字はすべて架空データでの実測(材料2組 × 各2回 = 1つの頼み方につき4回、全44回)です。生の返りと判定コードは docs/evidence/wrong-client-material.md に全文置いてあります。