これで何ができるか

メールやニュースを毎日自動で仕分けさせると、必ず「どちらとも取れるもの」が出ます。そこでどちらへ倒れてほしいかを先に書いておくと、日によって結果が入れ替わるのを防げます。1回だけ手でやる人には起きませんが、毎日回すと必ず効いてきます。

ここで測ったのは、その一歩先です。倒す方向を書いた判定の効き目が、書いていない別の判定にまで漏れるのか。

架空の30件(明らかに重要8件・明らかに重要でない10件・どちらとも取れる境界12件)を2種類つくり、4通りの頼み方を全16回通しました。同じ回の中に、倒す方向を一度も書いていない第2の判定を混ぜてあります。

結果は「漏れる」でした。第2の判定の指示は1文字も変えていないのに、その判定の結果が29件から21件へ減りました。ただし漏れ方は回ごとにばらつきます。だから漏れを当てにはできません。

迷ったときに倒す方向を指示すると、指示していない別の判定まで影響を受けるかを頼み方4通りで並べた表。架空の30行を2本作り、明らかに重要8件、明らかに重要でない10件、境界12件を仕込み、倒す方向を一度も書いていない第2の判定として、いますぐ知らせたいものに感嘆符を付ける指示を混ぜてある。1つの頼み方につき4回、全16回。倒す方向を言わない4回は感嘆符が合計29件。迷ったら重要ではない側に倒してくださいの1文を足した4回は、感嘆符の指示を変えていないのに合計21件まで減った。理由を2文足した4回も合計20件でほとんど変わらず、同じ材料の2回転で6件と4件になり中身も2件ちがった。感嘆符の判定にも倒す方向を書いた4回だけ、境界の割り当ても感嘆符の集合も2回転で4組とも完全に一致した。
倒す方向は、書いた判定の外へ漏れる。ただし漏れ方は安定しない。全16回の実測。

前提

プログラミングは要りません。一覧を貼って頼むだけです。

  • 毎日または毎週、同じ形で仕分けさせている一覧があること
  • 1回の仕分けの中に判定が2つ以上あること(重要かどうか/すぐ知らせるか、など)
  • 判定の結果を機械で数えられる形(番号を付けさせる)にしておくこと

この記事は「何が重要か」の基準そのものは扱いません。それはあなたの仕事によって変わります。扱うのは、基準が決めきれないところで、どちらへ倒れるかだけです。

AIへの頼み方

1. まず、判定の形を決める

土台はこれです。ここには倒す方向を1文字も書いていません。

下の一覧を、「重要」と「重要ではない」の2つに分けてください。 【重要】【重要ではない】の2つの見出しを立て、1行に1件ずつ並べてください。 各行の先頭に、元の一覧の番号をそのまま書いてください。番号をまとめたり、飛ばしたりしないでください。 30件すべてを、どちらかに必ず入れてください。 いますぐ知らせたいものには、番号の前に ! を付けてください。

なぜこの言い方か。番号を書かせるのは、後で自分が数えられるようにするためです。番号があれば「昨日と今日で何番の行き先が変わったか」を目で追えます。

この土台だけで4回通したところ、既定の倒れ方が材料によって正反対になりました。境界12件のうち「重要ではない」に入ったのは、メールの一覧では1件・1件、ニュースの一覧では11件・10件です。

同じ指示文で、ここまで割れます。書かない=どちらでもない、ではありません。材料の顔つきで勝手に決まります。

2. 倒す方向を1文足す

判定に迷ったときは、必ず「重要ではない」側に倒してください。

これを足すと、境界12件のうち「重要ではない」に入った数が 11・6・12・12 になりました。材料による正反対は消えます。

そして、ここからが本題です。この文は「重要」の判定についてしか言っていません。! を付ける判定については、一言も倒す方向を書いていません。

3. 理由まで書く——効いたのは「安定」のほう

判定に迷ったときは、必ず「重要ではない」側に倒してください。重要ではない扱いになっても翌朝のまとめには必ず載るので、情報は失われず最大24時間遅れるだけです。逆に「重要」を出しすぎると全部読まなくなって、そちらのほうが実害が大きいです。

理由の2文を足すと、境界12件は 12・11・12・12。§2の 11・6・12・12 にあった6という外れ値が消えました。理由が効いたのは、書いた判定の効き目をそろえるほうです。

なぜこの言い方か。「情報は失われず最大24時間遅れるだけ」「出しすぎると全部読まなくなる」は、どちらの側に倒すと何を失うかを言っています。損得が書いてあると、迷いの深さが違う項目でも同じ方針を当てはめられます。

4. 🚨 書いていない判定にまで漏れる

ここが測りたかったところです。! の指示は4通りのどれでもまったく同じ1文です。にもかかわらず、! の件数はこう動きました。

  • 倒す方向を書かない:8・7・7・7(合計29件)
  • 「重要ではない側に倒して」を足す:5・5・5・6(合計21件)
  • 理由まで書く:5・5・6・4(合計20件)

! については何も言っていないのに、29件が21件に減りました。倒す方向は、書いた判定の外へ漏れます。

ただし漏れ方は安定しません。理由まで書いた版は、同じ材料の2回転で6件と4件で、中身も2件ちがいました。§2の版も5件と6件でずれています。

つまり「1か所書けば全体に効く」とは言えません。平均としては効いていても、今日の1回がどちらに転ぶかは分かりません。毎日自動で回すなら、これは効いていないのと同じです。

5. だから、効かせたい判定ごとに書く

2つめの判定にも、その判定のための倒す方向を書きます。

! を付けるかどうかで迷ったときも、必ず ! を付けない側に倒してください。! が多いと、いますぐ見るべきものが埋もれます。

これを足した4回だけ、境界12件の割り当ても ! の集合も、2回転で4組とも完全に一致しました。ほかの3通りはどれも4組中2組です。! の件数は 5・5・3・3 でした。

なぜこの言い方か。理由の部分(「! が多いと、いますぐ見るべきものが埋もれます」)が、§3の理由と別の損得になっている点が要です。「翌朝のまとめに載るから遅れるだけ」は重要判定の損得で、! の損得ではありません。判定が違えば失うものも違うので、理由もその判定のものを書きます。

6. 明らかなものが落ちていないか、必ず見る

倒す方向を書いた回で、「明らかに重要」に入れておいた1件が「重要ではない」に落ちました。6回とも同じ1件です。

正直に書きます。これはAIの間違いとは言い切れません。落ちたのは「為替が急変動し、取引所が注文受付を止めた」という見出しで、6回とも「外貨のやりとりが無ければ自分の作業に効かないので落とした」という趣旨の理由が添えられていました。外貨建ての支払いが無い読者にとっては、そちらの判断のほうが正しいです。

分かったのは、AIが倒しすぎたということではありません。「明らかに重要」かどうかが読み手の事情で決まる項目を、こちらが「明らかな側」に入れてしまっていた、ということです。残る17件は16回とも1件も動いていません。

30件すべてを、どちらかに必ず入れてください。

だから、倒す方向を書いたあとは明らかなものが落ちていないかを数件だけ見てください。全部を読み直す必要はありません。自分の事情に依存する項目は、倒す方向を書いた瞬間に落ちる側にいます。

うまくいかないときの言い直し方

番号がまとまって、何が動いたか追えない

「1〜5は重要ではありません」のように範囲でまとめられると、昨日との差が取れません。

各行の先頭に、元の一覧の番号をそのまま書いてください。番号をまとめたり、飛ばしたりしないでください。

16回とも30件すべてを1行ずつ読み取れました。ここが崩れると、以降の数え直しが全部できなくなります。

日によって結果が入れ替わる

同じ一覧を2回渡して結果が変わるなら、まず倒す方向を書いていない判定が残っていないかを疑ってください。この記事の実測では、書いていない判定だけが2回転でずれました。

すべての判定に倒す方向を書いてもまだ揺れるなら、揺れているのは指示ではなく一覧のほうです。差の見つけ方は同じ頼みを2回して、自分で見比べるにまとめてあります。

「重要」が多すぎて全部読まなくなる

倒す方向が「重要ではない」側に書けているか確かめてください。§4のとおり、倒す方向を書かないと材料の顔つきで勝手に決まります。ニュースの見出しのように「未定」「不明」と書いてある一覧は自然に落ちますが、メールの件名のようにどれも返事が要りそうに見える一覧では、境界12件のうち11件が「重要」に入りました。

応用・次の一手

この記事は、1回ぶんの仕分けを毎日の自動運転に上げるときの話です。手で1回だけ仕分けさせる型は返信が必要なメールだけを、朝いちで拾わせるにあります。あちらで「迷った実例を2つ入れる」と書いた部分の、その先がこの記事です。

自動で毎日集める仕組みそのものの作り方はAIニュースを自動で集めて、重要なものだけメールで受け取るにあります。この記事は、あちらの「判定の倒す方向を指定する」の節を実際に測ったものです。測ってみると、あちらが書いていた「理由なしに倒す方向だけ言うと別の場所では逆に倒れる」は、この材料では起きませんでした。逆に同じ向きに漏れました。ただし出口は変わりません——漏れ方がばらつく以上、判定ごとに書くのが結論です。

AIに触らせる範囲を先に決める話はAIに触らせる範囲を先に決めるに、前日の結果を渡して差分だけ仕分けさせる話は毎朝のメールを「昨日から増えたぶんだけ」仕分けさせるにあります。

毎日決まった時刻に自動で回す形にするなら毎日決まった時刻にAIを動かすが入口です。自動で回すほど、この記事の話が効いてきます。手で回している間は、おかしな回を人が見て直せます。自動になると、倒す方向を書いていない判定が日によって逆に倒れても、誰も気づきません。

この記事の数字はすべて架空データでの実測です。架空の30件を2本(問い合わせメールの件名/ニュースの見出し)作り、4通りの頼み方を材料2本 × 各2回、全16回通しました。明らかに重要8件・明らかに重要でない10件・境界12件という内訳は先に決めてあり、判定はすべてPythonで機械的に照合しています。生の返り16本と判定コードは、リポジトリの docs/evidence/tilt-direction-per-judgment.md に全文置いてあります。

📌 この記事は、同じ1つの判定基準を単独で使ったときの倒れ方の話でした。複数の相手(送り手)からの連絡を1つの基準で仕分ける場合は、核が別です。複数の相手の緊急度を仕分けるは、相手ごとに緊急の伝え方の型が違うと、1つの基準では8件中4件を見落とすことを実測しています。