これで何ができるか

副業を始めようとして、最初に詰まるのが「自分に何が売れるのか分からない」です。ここでAIに相談する人は多いはずです。

答えは返ってきます。しかも、それらしく返ってきます。問題は、聞いていないものまで一緒に返ってくることです。

架空の会社員(中小メーカーの経理・12年目)の箇条書き21行で実測しました。

架空の会社員の箇条書き21行を渡して、頼み方だけを変えたときに、返りに金額がいくつ出るかを比べた表。私は何で稼げますかと一言で聞いた場合、金額を書くなとは言っておらず、返りに金額が3件出た。売れそうなものを挙げてと頼んだ場合も、言っておらず、金額が4件出た。募集されている仕事の名前に対応づけてくださいと頼み、実際に募集ページを見て確かめた数字でない限り金額を書かないでくださいと足した場合は、0件だった。相場を自分で確かめる手順を書いてくださいと頼み、同じ禁止を足した場合も0件だった。頼んでいないのに出てきた金額は次のとおり。単価が時間2,000から3,000円のあたりから始まるとして、最初の数ヶ月は月2から5万円。雛形づくりが1件1から3万円、リストの整理が1,000件で1から3万円あたりから。引き継ぎ書の代行は1本5から15万円くらいのレンジ。金額を禁じた側は、断ったうえで理由まで書いた。推測の数字は、当てにできる数字と見た目が同じだから混ぜないのが安全だ、という理由である。どの数字にも出どころが書かれておらず、募集ページを開いて確かめた数字ではない。
相場は聞いていません。それでも付いてきます。

頼んでもいないのに、単価と月収が返ってきました。「あくまで相場感です」と断りながら並びます。どれにも出どころが書かれていません。募集ページを開いて確かめた数字ではないからです。

もうひとつ、もっと大きいものが見つかりました。「勤務先のデータ・書式・システムを一切使わずに作り直せるか」で候補を判定させたときです。

架空の会社員の箇条書き21行から作った売り物の候補14件を、勤務先のデータ・書式・システムを一切使わずに自分でゼロから作り直せるか、という基準で判定させた結果の図。作り直せるものが4件で、会社のものを使わずに自分で作れるという意味。一部だけ作り直せるものが6件で、やり方は再現できるが現物は会社のものだという意味。作り直せないものが3件で、中身が会社そのものなので手元では再現できないという意味。判定以前のものが1件で、資格の領域である確定申告の相談だった。そのまま売れるものは0件で、一部だけ作り直せるものは、作り直すと実績のほうが消えるという構造になっている。持ち出しの問題がない候補は1つだけで、会社の外で7年続けた無償のチーム会計だった。本人が一番あっさり書いた行である。なお冒頭でAI自身が書いた数は作り直せるものが5つだったが、本文を数えると4件だった。判定そのものは合っていて、まとめの数だけが合わない。
12年ぶんの経験を並べても、そのまま持ち出せるものは1つも残りませんでした。

候補14件のうち、そのまま売れるものは0件でした。返ってきた説明が的確でした。

持ち出せない部分(実績・現物・データ)= 売り物としての強さの源 持ち出せる部分(やり方・知識)= 誰でも作れる普通のもの

この記事は、AIに決めさせずに棚卸しをする頼み方をまとめます。

前提

かかる時間 30分(棚卸し1回ぶん)
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
用意するもの 自分がやっていることを並べた箇条書き(20行くらい)
プログラミング 不要

この記事は、収入や受注を約束するものではありません。棚卸しは、稼ぐ前の準備の話です。

⚠️ 法律・税務の判断はしません。この記事の筆者は弁護士でも税理士でもありません。実測の中で「資格が要る領域がある」という返りが出ますが、当てはまるかどうかは自分で確認してください(返りの中で挙がった確認先は、税理士会の相談窓口や、勤務先の人事・総務でした)。

⚠️ 勤務先の就業規則を先に読んでください。許可が要るなら、案件を取る前に申請します。

以下の実測は、架空の会社員の箇条書き21行で行いました。試した記録は docs/evidence/sell-what-you-already-do.md に全部あります。

AIへの頼み方

1. 「私は何で稼げますか」は、答えが返ってくる質問ではない

まず、いちばん聞きたい形から確かめます。

私のことを箇条書きにして貼ります。私は何で稼げますか。一言で教えてください。

返ってきたのは、一言ではありませんでした。長い返答の冒頭と末尾に、こう書いてあります。

一言でいうと、「小さな会社の“毎月くり返す経理・Excel作業”を引き受けて、ついでに手順書にして渡すこと」です。

あなたが稼げるのは、「小さな会社の毎月の経理・Excel作業を引き受けて、手順書にして渡すこと」です。

中身は悪くありません。ただ、これは「あなたが渡した21行を読んだ感想」であって、市場を見た結果ではありません。買う人に聞いていないのですから、当然です。

そして金額が3件付いてきました。「単価が時間2,000〜3,000円のあたりから始まるとして、最初の数ヶ月は月2〜5万円」。聞いていません。

⚠️ この記事の別の実測では、勧誘を受けたときにうまい話は、AIに「詐欺?」と聞かずに「確かめる手順」に変える——判定させると断定に振れる、という同じ形が出ています。自分のことを聞くときも同じでした。

2. 金額は、AIに出させない

金額を止める一文は、これで効きました。

私のことを箇条書きにして貼ります。この中の作業が、すでに仕事として募集されている形に対応するかを知りたいです。作業ごとに、どういう名前の仕事として募集されていそうかを書いてください。 ただし、単価・相場・月収の数字は書かないでください。あなたが実際に募集ページを見て確かめた数字でない限り、金額を書かないでください。 根拠にした行の番号を、1件ずつ書いてください。

実測では金額0件。しかも、断る理由を自分から書きました。

私は今回、実際の求人サイトや募集ページを開いて確認していません。ですから単価も相場も、書けば私の推測になります。推測の数字は、当てにできる数字と見た目が同じなので、混ぜないのが安全だと考えました。

「推測の数字は、当てにできる数字と見た目が同じ」——これが、金額を止める理由のすべてです。

「金額を書かないで」だけでは足りません。「実際に見て確かめた数字でない限り」と条件を付けると、確かめていないという事実のほうが表に出ます

3. 「売れるか」ではなく「どういう名前で募集されているか」を聞く

同じ指示文の、もう半分の効果です。返ってきたのは判定ではなく、検索に使える言葉でした。

  • 顧客リスト450社の重複削除 → リスト整理/名寄せ/データクレンジング/名簿 整理
  • 領収書と申請書の突き合わせ → 経費精算代行/証憑チェック/領収書 データ化

自分の言葉のままでは、募集は1件も見つかりません。買う側は、まったく違う名前でその作業を呼んでいます

⚠️ この対応づけも推測です。返り自身がそう書いていました——「実際に今この名前で何件出ている、と確認したものではありません」。言葉を受け取って、募集があるかは自分で見に行きます。

4. 相場は、自分で確かめる手順にさせる

数字を出させないなら、代わりに手順をもらいます。

私のことを箇条書きにして貼ります。この中の作業について、いくらで売れるのかを私が自分で確かめたいです。確かめるための手順を書いてください。 あなたは金額を書かないでください。相場・単価・月収を推測して書かないでください。どこを見れば実際の金額が分かるか、その見方だけを書いてください。

実測でも金額0件のまま、見に行く順番が返りました。前置きが効いています。

値段は調べて分かるものではなく、買い手が払って初めて確定するものです。

この返りの中に、思いつかなかった一手がありました。

(11)販売管理システムは、まずそのシステムの正式な製品名を確認してください。(中略)自社専用に作られたものなら、社外に買い手はいません。製品名を確認する、それだけで売り物かどうかが決まります。

調べる前に、調べる価値があるかが決まる——机の前で5分で分かることです。

5. 始める前に確認が要るものを、3つに分けさせる

売れるかどうかより先に片付けるものがあります。

私のことを箇条書きにして貼ります。この中に、はじめる前に確認が要るものがあれば、名指しで挙げてください。次の3つに分けてください。 (1)資格や届出が要る可能性があるもの (2)勤務先との関係で問題になりうるもの(就業規則・競業・会社の情報) (3)この箇条書きだけでは判断できないもの どれにも当てはまらないものは、挙げなくてかまいません。それぞれ、根拠にした行の番号を書いてください。法律の判断はしないでください。

実測では、21行すべてがどこかの根拠として引かれ、行番号つきの引用18件に本当の食い違いは0件でした。仕込んでおいた「確認が要る行」6件は、6件とも拾われました。

拾い方が細かいところがあります。

行7は「自分で作り直した」とありますが、業務時間中に会社の業務のために作ったものであれば、成果物の帰属が会社側にある可能性があります。

そして(3)の筆頭がこれでした。

M. そもそも、何を副業にするつもりなのか いちばん大きな空白です。(中略)ここが決まらないと、確認すべき相手も決まりません。

「判断できない」という行き先を作ると、いちばん大事な空白がそこに出ます。2択で聞いていたら、この行は(1)か(2)に押し込まれて消えていました。

⚠️ 「法律の判断はしないでください」は必ず入れてください。判断が返ってきたら、それは確認先ではなく答えになってしまいます。

6. 自分で書いた評価と、自分で書いた行動を突き合わせさせる

棚卸しでいちばん邪魔をするのは、自分の思い込みです。これは機械的に見つかります。

私のことを箇条書きにして貼ります。私が自分について書いた評価(得意・苦手・好きなど)と、私が実際にやっていると書いた行動とが食い違っているところがあれば、行の番号を並べて挙げてください。どちらが正しいかは決めないでください。私が書いていないことは足さないでください。

実測では、行の番号の組で返りました。

17「文章を書くのは苦手だと思っている」 7「社内の経理マニュアルを自分で作り直した。30ページある」 苦手と書いた対象について、30ページ分の作り直しを実際にやり切ったと書かれています。

「どちらが正しいかは決めないでください」を入れておくのが大事です。入れないと「あなたは実は文章が得意です」と判定されます。事実は「食い違っている」までで、そこから先は自分で決めます。

おまけがありました。頼んでいない指摘です。

11「販売管理システムの操作は、社内の誰よりも知っている」は評価ですが、この評価に対応する行動(そのシステムを使って何をしているか)を書いた行が、21行の中にありません。

評価だけあって、裏づけの行動が1行も無い項目が見つかりました。棚卸しの穴は、こういう形で空いています。

7. 「会社のものを使わずに作り直せるか」で判定させる

ここが、この記事でいちばん効いた一文です。

私のことを箇条書きにして貼ります。売り物の候補それぞれについて、勤務先のデータ・書式・システムを一切使わずに、私が自分でゼロから作り直せるかどうかを書いてください。作り直せないものには「作り直せない」と書いて、その理由を書いてください。根拠にした行の番号を書いてください。

候補14件が○△×で判定され、そのまま売れるものは0件でした。理由の書き方が具体的です。

会社で使っている雛形そのもの → × 作り直せない。(中略)自社のロゴ、自社の住所、自社の取引先名、自社の商品コード、自社の勘定科目が入っています。

一般的な請求書テンプレート → ○ ゼロから作れる。(中略)ただし正直に書きます。請求書テンプレートは、無料のものがネット上に大量にあります。

そして、持ち出しの問題がない候補が1つだけ残りました。会社の外で7年続けていた、無償のチーム会計です。

あなたは行15を「無償で7年目」と書きました。リストの中で、これを一番あっさり書いています。

自分の資産を、自分で一番低く見積もっているところに出ます。会社の中の12年は立派でも、外に出せる形にはなっていません。

⚠️ 数だけは信じないでください。この返りは、冒頭のまとめで「○が5つ」と書きました。本文を数えると4件です。判定そのものは全部合っているのに、まとめた数だけがずれます。同じことが副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるでも起きています。

8. 1件だけ試す手順を、やめる条件つきで作らせる

棚卸しは、机の上では終わりません。1件だけ試します。

私のことを箇条書きにして貼ります。この中から売り物の候補を1つ選んで、それを1件だけ試すための手順を作ってください。私が使えるのは、箇条書きに書いた時間だけです。 ・かかる時間を、手順ごとに書いてください ・これ以上かかったらやめる、という条件も書いてください ・箇条書きに書いていない持ち物・環境が必要なら、それも書いてください

実測では、合計約5時間の手順が返り、やめる条件が6か所付きました。

本番の45分 | 45分たったら、解決していなくても終了 | 「今日はここまでにします」と言って切る。延長しない

45分で終わらない仕事なら、それは「45分では売れない」という正しい発見です。時間を延ばして隠さないでください。

「箇条書きに書いていない持ち物」を聞いたのが効きました。いちばん転ぶ場所を、始める前に指してきました

21番に「ExcelとWordは会社の環境でしか使ったことがない」とあります。つまり自宅のパソコンにExcelが入っていない可能性が高い。当日になって気づくと全部おじゃんです。

さらに、許可が未申請だという行を読んで、今回は無償でやる設計にしていました。

今回のテストでは、お金を受け取らないでください。(中略)お金は、許可が下りてから取ればいい。順番を逆にすると、いちばん失いたくないもの(本業)を失います。

うまくいかないときの言い直し方

候補が多すぎて、どれから手をつければいいか分からない

7番の判定を先にかけてください。○が付いたものだけが、今日から動かせる候補です。△と×は、作り直す時間がそのまま費用になります。

実測の返りは、順番についてこう書いていました。

今すぐやるべきことは候補選びではありません。行21です。自宅にExcelを入れて、請求書を1枚、会社のファイルを一切見ずにゼロから作ってみる。これに何時間かかるかで、△の候補が全部生きるか死ぬかが決まります。

選べないのは候補が多いからではなく、まだ1件も動かしていないから、ということがあります。

「あなたは◯◯で稼げます」と言い切られた

1番で見たとおり、聞けば言い切ります。言い切りの根拠は、自分が渡した箇条書きだけです。

受け取り方はひとつです。断定はそのまま予定に変えず、確かめる手順に変える。4番の指示文で「どこを見れば分かるか」に、8番の指示文で「1件試す手順」に変えてください。

棚卸しに書くことが、そもそも思い出せない

21行を自分で並べるのが、いちばん大変です。ここは1週間ぶんの作業を書き出すところから始めます。手順はAIに何を頼めばいいか分からない人のための、渡せる作業の見つけ方にあります。

⚠️ あちらは「AIに渡せる作業」を探す記事です。この記事は「人に売れる作業」を探しています。渡す先が違うだけで、洗い出す材料は同じものが使えます。

会社のことを書いてしまいそうで怖い

箇条書きに書くのは、やった作業の種類と量までにしてください。取引先名・システムの固有名・実際の数字は要りません。

実測の材料でも「顧客リスト450社」までで、社名は1つも書いていません。それでも判定はできました。貼ってよい範囲の決め方はAIに「ついでに整理しておきました」と言わせないための頼み方にあります。

資格が要るかどうかを、はっきりさせたい

AIにはっきりさせないでください。5番の指示文に「法律の判断はしないでください」を入れているのは、そのためです。

返ってくるのは確認先までです。実測では、税理士会の相談窓口と、勤務先の人事・総務が挙がりました。そこから先は人に聞きます。

応用・次の一手

候補が決まったら、応募文を作る。素材(自分の事実の箇条書き)は、そのまま提案文の材料になります。ただし作らせ方に注意が要ります——応募文・提案文をAIと作ると、盛られるのは実績ではなく「約束」のほうの実測では、素材のどこにも無い約束が4件入りました。

受けたあとの検品も、同じ線で分ける。納品前のチェックは副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるにあります。判定はさせる、直させないという分け方は、棚卸しから納品まで一貫します。

棚卸しは、年に何回か作り直す。箇条書きは1回作って終わりではありません。3番で手に入れた「募集の名前」で毎朝の巡回を作れば、自分の候補に募集があるかを見続けられます(「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。⚠️ ただし応募まで自動にしないでください。決めるところが残ります。


⚠️ この記事の実測は、架空の箇条書きで行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、こちらが渡した箇条書きしかAIは見ていないという点のほうです。だから相場も、資格の可否も、AIの側には確かめようがありません。棚卸しでAIに任せてよいのは、並べ替えと、突き合わせと、質問を作ることまでです。決めるのは自分で、確かめに行くのも自分です。