これで何ができるか
副業を始めようとして、最初に詰まるのが「自分に何が売れるのか分からない」です。ここでAIに相談する人は多いはずです。
答えは返ってきます。しかも、それらしく返ってきます。問題は、聞いていないものまで一緒に返ってくることです。
架空の会社員(中小メーカーの経理・12年目)の箇条書き21行で実測しました。
頼んでもいないのに、単価と月収が返ってきました。「あくまで相場感です」と断りながら並びます。どれにも出どころが書かれていません。募集ページを開いて確かめた数字ではないからです。
もうひとつ、もっと大きいものが見つかりました。「勤務先のデータ・書式・システムを一切使わずに作り直せるか」で候補を判定させたときです。
候補14件のうち、そのまま売れるものは0件でした。返ってきた説明が的確でした。
持ち出せない部分(実績・現物・データ)= 売り物としての強さの源 持ち出せる部分(やり方・知識)= 誰でも作れる普通のもの
この記事は、AIに決めさせずに棚卸しをする頼み方をまとめます。
前提
| かかる時間 | 30分(棚卸し1回ぶん) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 用意するもの | 自分がやっていることを並べた箇条書き(20行くらい) |
| プログラミング | 不要 |
この記事は、収入や受注を約束するものではありません。棚卸しは、稼ぐ前の準備の話です。
⚠️ 法律・税務の判断はしません。この記事の筆者は弁護士でも税理士でもありません。実測の中で「資格が要る領域がある」という返りが出ますが、当てはまるかどうかは自分で確認してください(返りの中で挙がった確認先は、税理士会の相談窓口や、勤務先の人事・総務でした)。
⚠️ 勤務先の就業規則を先に読んでください。許可が要るなら、案件を取る前に申請します。
以下の実測は、架空の会社員の箇条書き21行で行いました。試した記録は docs/evidence/sell-what-you-already-do.md に全部あります。
AIへの頼み方
1. 「私は何で稼げますか」は、答えが返ってくる質問ではない
まず、いちばん聞きたい形から確かめます。
返ってきたのは、一言ではありませんでした。長い返答の冒頭と末尾に、こう書いてあります。
一言でいうと、「小さな会社の“毎月くり返す経理・Excel作業”を引き受けて、ついでに手順書にして渡すこと」です。
あなたが稼げるのは、「小さな会社の毎月の経理・Excel作業を引き受けて、手順書にして渡すこと」です。
中身は悪くありません。ただ、これは「あなたが渡した21行を読んだ感想」であって、市場を見た結果ではありません。買う人に聞いていないのですから、当然です。
そして金額が3件付いてきました。「単価が時間2,000〜3,000円のあたりから始まるとして、最初の数ヶ月は月2〜5万円」。聞いていません。
⚠️ この記事の別の実測では、勧誘を受けたときにうまい話は、AIに「詐欺?」と聞かずに「確かめる手順」に変える——判定させると断定に振れる、という同じ形が出ています。自分のことを聞くときも同じでした。
2. 金額は、AIに出させない
金額を止める一文は、これで効きました。
実測では金額0件。しかも、断る理由を自分から書きました。
私は今回、実際の求人サイトや募集ページを開いて確認していません。ですから単価も相場も、書けば私の推測になります。推測の数字は、当てにできる数字と見た目が同じなので、混ぜないのが安全だと考えました。
「推測の数字は、当てにできる数字と見た目が同じ」——これが、金額を止める理由のすべてです。
「金額を書かないで」だけでは足りません。「実際に見て確かめた数字でない限り」と条件を付けると、確かめていないという事実のほうが表に出ます。
3. 「売れるか」ではなく「どういう名前で募集されているか」を聞く
同じ指示文の、もう半分の効果です。返ってきたのは判定ではなく、検索に使える言葉でした。
- 顧客リスト450社の重複削除 → リスト整理/名寄せ/データクレンジング/名簿 整理
- 領収書と申請書の突き合わせ → 経費精算代行/証憑チェック/領収書 データ化
自分の言葉のままでは、募集は1件も見つかりません。買う側は、まったく違う名前でその作業を呼んでいます。
⚠️ この対応づけも推測です。返り自身がそう書いていました——「実際に今この名前で何件出ている、と確認したものではありません」。言葉を受け取って、募集があるかは自分で見に行きます。
4. 相場は、自分で確かめる手順にさせる
数字を出させないなら、代わりに手順をもらいます。
実測でも金額0件のまま、見に行く順番が返りました。前置きが効いています。
値段は調べて分かるものではなく、買い手が払って初めて確定するものです。
この返りの中に、思いつかなかった一手がありました。
(11)販売管理システムは、まずそのシステムの正式な製品名を確認してください。(中略)自社専用に作られたものなら、社外に買い手はいません。製品名を確認する、それだけで売り物かどうかが決まります。
調べる前に、調べる価値があるかが決まる——机の前で5分で分かることです。
5. 始める前に確認が要るものを、3つに分けさせる
売れるかどうかより先に片付けるものがあります。
実測では、21行すべてがどこかの根拠として引かれ、行番号つきの引用18件に本当の食い違いは0件でした。仕込んでおいた「確認が要る行」6件は、6件とも拾われました。
拾い方が細かいところがあります。
行7は「自分で作り直した」とありますが、業務時間中に会社の業務のために作ったものであれば、成果物の帰属が会社側にある可能性があります。
そして(3)の筆頭がこれでした。
M. そもそも、何を副業にするつもりなのか いちばん大きな空白です。(中略)ここが決まらないと、確認すべき相手も決まりません。
「判断できない」という行き先を作ると、いちばん大事な空白がそこに出ます。2択で聞いていたら、この行は(1)か(2)に押し込まれて消えていました。
⚠️ 「法律の判断はしないでください」は必ず入れてください。判断が返ってきたら、それは確認先ではなく答えになってしまいます。
6. 自分で書いた評価と、自分で書いた行動を突き合わせさせる
棚卸しでいちばん邪魔をするのは、自分の思い込みです。これは機械的に見つかります。
実測では、行の番号の組で返りました。
17「文章を書くのは苦手だと思っている」 7「社内の経理マニュアルを自分で作り直した。30ページある」 苦手と書いた対象について、30ページ分の作り直しを実際にやり切ったと書かれています。
「どちらが正しいかは決めないでください」を入れておくのが大事です。入れないと「あなたは実は文章が得意です」と判定されます。事実は「食い違っている」までで、そこから先は自分で決めます。
おまけがありました。頼んでいない指摘です。
11「販売管理システムの操作は、社内の誰よりも知っている」は評価ですが、この評価に対応する行動(そのシステムを使って何をしているか)を書いた行が、21行の中にありません。
評価だけあって、裏づけの行動が1行も無い項目が見つかりました。棚卸しの穴は、こういう形で空いています。
7. 「会社のものを使わずに作り直せるか」で判定させる
ここが、この記事でいちばん効いた一文です。
候補14件が○△×で判定され、そのまま売れるものは0件でした。理由の書き方が具体的です。
会社で使っている雛形そのもの → × 作り直せない。(中略)自社のロゴ、自社の住所、自社の取引先名、自社の商品コード、自社の勘定科目が入っています。
一般的な請求書テンプレート → ○ ゼロから作れる。(中略)ただし正直に書きます。請求書テンプレートは、無料のものがネット上に大量にあります。
そして、持ち出しの問題がない候補が1つだけ残りました。会社の外で7年続けていた、無償のチーム会計です。
あなたは行15を「無償で7年目」と書きました。リストの中で、これを一番あっさり書いています。
自分の資産を、自分で一番低く見積もっているところに出ます。会社の中の12年は立派でも、外に出せる形にはなっていません。
⚠️ 数だけは信じないでください。この返りは、冒頭のまとめで「○が5つ」と書きました。本文を数えると4件です。判定そのものは全部合っているのに、まとめた数だけがずれます。同じことが副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるでも起きています。
8. 1件だけ試す手順を、やめる条件つきで作らせる
棚卸しは、机の上では終わりません。1件だけ試します。
実測では、合計約5時間の手順が返り、やめる条件が6か所付きました。
本番の45分 | 45分たったら、解決していなくても終了 | 「今日はここまでにします」と言って切る。延長しない
45分で終わらない仕事なら、それは「45分では売れない」という正しい発見です。時間を延ばして隠さないでください。
「箇条書きに書いていない持ち物」を聞いたのが効きました。いちばん転ぶ場所を、始める前に指してきました。
21番に「ExcelとWordは会社の環境でしか使ったことがない」とあります。つまり自宅のパソコンにExcelが入っていない可能性が高い。当日になって気づくと全部おじゃんです。
さらに、許可が未申請だという行を読んで、今回は無償でやる設計にしていました。
今回のテストでは、お金を受け取らないでください。(中略)お金は、許可が下りてから取ればいい。順番を逆にすると、いちばん失いたくないもの(本業)を失います。
うまくいかないときの言い直し方
候補が多すぎて、どれから手をつければいいか分からない
7番の判定を先にかけてください。○が付いたものだけが、今日から動かせる候補です。△と×は、作り直す時間がそのまま費用になります。
実測の返りは、順番についてこう書いていました。
今すぐやるべきことは候補選びではありません。行21です。自宅にExcelを入れて、請求書を1枚、会社のファイルを一切見ずにゼロから作ってみる。これに何時間かかるかで、△の候補が全部生きるか死ぬかが決まります。
選べないのは候補が多いからではなく、まだ1件も動かしていないから、ということがあります。
「あなたは◯◯で稼げます」と言い切られた
1番で見たとおり、聞けば言い切ります。言い切りの根拠は、自分が渡した箇条書きだけです。
受け取り方はひとつです。断定はそのまま予定に変えず、確かめる手順に変える。4番の指示文で「どこを見れば分かるか」に、8番の指示文で「1件試す手順」に変えてください。
棚卸しに書くことが、そもそも思い出せない
21行を自分で並べるのが、いちばん大変です。ここは1週間ぶんの作業を書き出すところから始めます。手順はAIに何を頼めばいいか分からない人のための、渡せる作業の見つけ方にあります。
⚠️ あちらは「AIに渡せる作業」を探す記事です。この記事は「人に売れる作業」を探しています。渡す先が違うだけで、洗い出す材料は同じものが使えます。
会社のことを書いてしまいそうで怖い
箇条書きに書くのは、やった作業の種類と量までにしてください。取引先名・システムの固有名・実際の数字は要りません。
実測の材料でも「顧客リスト450社」までで、社名は1つも書いていません。それでも判定はできました。貼ってよい範囲の決め方はAIに「ついでに整理しておきました」と言わせないための頼み方にあります。
資格が要るかどうかを、はっきりさせたい
AIにはっきりさせないでください。5番の指示文に「法律の判断はしないでください」を入れているのは、そのためです。
返ってくるのは確認先までです。実測では、税理士会の相談窓口と、勤務先の人事・総務が挙がりました。そこから先は人に聞きます。
応用・次の一手
候補が決まったら、応募文を作る。素材(自分の事実の箇条書き)は、そのまま提案文の材料になります。ただし作らせ方に注意が要ります——応募文・提案文をAIと作ると、盛られるのは実績ではなく「約束」のほうの実測では、素材のどこにも無い約束が4件入りました。
受けたあとの検品も、同じ線で分ける。納品前のチェックは副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるにあります。判定はさせる、直させないという分け方は、棚卸しから納品まで一貫します。
棚卸しは、年に何回か作り直す。箇条書きは1回作って終わりではありません。3番で手に入れた「募集の名前」で毎朝の巡回を作れば、自分の候補に募集があるかを見続けられます(「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。⚠️ ただし応募まで自動にしないでください。決めるところが残ります。
⚠️ この記事の実測は、架空の箇条書きで行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、こちらが渡した箇条書きしかAIは見ていないという点のほうです。だから相場も、資格の可否も、AIの側には確かめようがありません。棚卸しでAIに任せてよいのは、並べ替えと、突き合わせと、質問を作ることまでです。決めるのは自分で、確かめに行くのも自分です。