これで何ができるか
フリマアプリやハンドメイドの販売サイトに出品するとき、商品説明文を書きます。写真を撮って、サイズを測って、あとは文章——ここでAIに頼むのは自然な流れです。
心配なのは「盛られること」でしょう。使っていない素材名を書かれたり、確かめていない性能を書かれたりするのが怖い。
架空の出品メモ(手縫いの革のキーケース・事実だけを19行)で実測しました。盛りは、たしかに起きます。ただ、それだけではありませんでした。
盛りが入ったぶんだけ、メモに書いた事実のほうが落ちていました。そのまま頼んだ回は、メモから取り出した23項目のうち14項目しか残っていません。
落ちた9項目を並べると、偏りが見えます。
- なめし方と産地は不明
- 金具の材質は不明
- 水濡れは試していない
- 金具の耐久は試していない
- 普通郵便なので追跡なし
- 色ムラは1mm(「ごく小さな」に置き換わった)
- 同じ型のものを、これまでに3個作った
全部、買う人が知りたい側です。しかも書き上がった説明文は、読んでも一切おかしくありません。文章としてはむしろ良くできています。メモと1行ずつ突き合わせるまで、何が抜けたか分かりません。
この記事は、メモにある事実だけで説明文を書かせるための8つの指示文と、それぞれを実際に試した結果です。記録は試した証拠にあります。
前提
プログラミングは要りません。ChatGPT・Claude・Gemini のような、文章をやりとりできるAIが1つあれば足ります。
用意するのは出品メモだけです。商品を目の前に置いて、測ったこと・見たこと・分からなかったことを箇条書きにします。文章にしなくてかまいません。今回の実測で使ったのは、こういう形の19行です。
- 革: 牛革。国内の革屋のはぎれ。なめし方・産地は表示がなかったので不明
- サイズ: 縦9.5cm × 横6cm × 厚み2cm(定規で測った)
- 傷: 角に1mmほどの色ムラが1か所。写真3枚目に写っている
- 水濡れ: 試していない
- 発送: 普通郵便。追跡なし。1〜3日以内に発送
「不明」「試していない」も、そのまま1行にしてください。あとで見るとおり、この行があるかどうかが結果を分けます。
⚠️ 誇大な表示は、景品表示法などの問題になり得ます。この記事は法律の判断をしません(書いている側は弁護士ではありません)。やっているのは、書いた内容に手元の記録が対応しているかを確かめる作業だけです。判断が必要な場面では、専門の窓口に相談してください。
AIへの頼み方
1. まず、そのまま頼むと何が返るかを見る
返ってきた説明文には、メモに1度も出てこない語が14件入りました。書く前に49語の一覧を決めておき、その49語がメモに1件も無いことを機械で確かめてから数えています。
国内の革屋さんで仕入れた上質な牛革を使い、ミシンを使わずすべて手縫いで仕立てました。一針一針手作業で縫っているため丈夫で、型崩れしにくく、長くお使いいただけます。
強度は一度も試していません。メモには「金具の耐久: 引っぱって試したことはない」とあります。
使うほどに愛着がわく一点物です。世界にひとつだけのキーケースを、
メモには「同じ型のものを、これまでに3個作った」とあります。書いてある事実と、正面から食い違っています。
⚠️ ここで注意したいことがあります。数字は1つも書き換わっていません。9.5cm も 40g もメモどおりです。嘘の数字を探す検査をすると、全部通ります。動くのは数字ではなく、数字の周りの言葉のほうです。
2. 禁止だけを足しても、止まるのは片側だけ
盛り語は 14件 → 0件。ここまでは狙いどおりです。
ところが、メモの事実は 17/23 にしかなりませんでした。落ちた6項目のうち5項目がこれです。
| 落ちた項目 | メモの行 |
|---|---|
| なめし方・産地 | 表示がなかったので不明 |
| 金具の材質 | 表示がなく不明 |
| 水濡れ | 試していない |
| 金具の耐久 | 引っぱって試したことはない |
| 発送 | 普通郵便。追跡なし |
「書かないでください」は、不利なことを書かない理由にもなります。禁止だけを渡すと、盛りと一緒に「言いにくいこと」が消えます。これは応募文・提案文をAIと作ると、盛られるのは実績ではなく「約束」のほうで、募集要項が必須にしている欄まで空欄になったのと同じ形です。
禁止には、行き先を付けます。
3. 評価の言葉に「引用できるときだけ」の条件を付ける
事実は 21/23 まで戻り、本文の盛り語は 1件になりました。〔私が確かめること〕欄はこう返ります。
・金具の材質(メモでは「仕入れ先の表示がなく不明」) ・「一点物」「世界にひとつ」(メモに「同じ型を3個作った」とあるため書いていません)
書かなかった理由まで残るので、後から自分で足すかどうかを決められます。効いているのは「使うな」ではなく「引用できるときだけ使え」という条件のほうです。同じ形は売れるものの棚卸しをAIにさせると、聞いていない金額が付いてくるにもあり、あちらでは「実際に募集ページを見て確かめた数字でない限り金額を書かないで」で金額が0件になりました。
🚨 ただし、この頼み方には大きな穴があります。〔私が確かめること〕は売り手あての欄です。不明の情報は消えたのではなく、買う人に見えない場所へ移っただけでした。ここは5番で戻します。
4. 状態の「程度をまとめる言葉」を、名指しで止める
3番の本文に1件だけ残った盛り語がこれでした。
角に1mmほどの色ムラが1か所あります(写真3枚目)。それ以外に目立った傷や汚れはありません。
メモにあるのは色ムラ1か所だけです。他の箇所を確認した記録はどこにもありません。
状態を丸める言い方は0件になり、「1mm」「1か所」「写真3枚目」がメモどおり残りました。返り自身が理由を書いてきます。
「それ以外に傷はありません」と書くと、確かめていない箇所まで含めて言い切ることになるためです。
効いたのは禁止語の一覧ではなく、「書いていない箇所については状態に触れないで」のほうです。禁止語は並べても抜け道が残りますが、触れる範囲を決めると、抜け道のほうが消えます。
5. 「不明」を、買う人が読む場所に置かせる
3番で〔私が確かめること〕へ移った項目を、本文へ戻します。
盛り語0件のまま、23項目すべてが説明文に残りました。
革:牛革(国内の革屋のはぎれ)。なめし方と産地は、仕入れ時に表示がなかったため分かりません。
■ 確かめていないこと ・水に濡れたときにどうなるかは、試していません。
■ 発送 普通郵便でお送りします。追跡番号はつきません。
「確かめていないこと」という見出しは、こちらが指定していません。置き場所を指定したら、返りのほうが見出しを作りました。
📌 名指ししたのは不明4項目と追跡の5つだけですが、「同じ型を3個作った」も一緒に本文へ上がってきました。3番で「一点物と書かなかった理由」として欄に置かれていた行です。23件のうち1件は、こちらが指定した結果ではありません。そのまま記録しておきます。
6. 書き上がった説明文を、語ごとに検査させる
自分で書いた説明文にも、人からもらった雛形にも同じ検査がかけられます。
1番の説明文にかけると、15行の表が返り、根拠を示せたのは3件だけでした。しかもその3件のうち2件は、程度を表す語だけが〔根拠なし〕です。
| 抜き出した言葉 | 根拠になるメモの行 |
|---|---|
| ほのかに香る革の匂い | 「匂い: 革の匂いがする」→ 根拠あり。ただし「ほのかに」は程度の評価で〔根拠なし〕 |
| ごく小さな色ムラ | 「傷: 角に1mmほどの色ムラが1か所」→ 根拠あり。ただし「ごく小さな」は程度の評価 |
「1mm」を「ごく小さな」と書くと、そこだけ根拠が消えます。数字は測れば出せますが、「小さい」は買う人が決めることです。
⚠️ この検査にも穴があります。こちらの49語と突き合わせると、14件のうち12件しか拾っていません。落ちた2件は「クッション封筒で丁寧に梱包して」と「大切な方への贈り物にも」——どちらも状態でも品質でもないので、こちらが切った問いの外にあります。
検査は、聞いた範囲しか見ません。逆に、こちらの49語に無い「多少の個体差がございます」は返りのほうが拾いました(メモに個体差の記録はありません)。どちらの物差しも、単独では穴があります。
7. タイトルも、メモにある語だけで作らせる
3案とも 21〜26字、メモに無い語は0件でした。面白いのは最後の1行です。
「ハンドメイド」も、メモには「作った人: 自分。手縫い」とあるだけで語そのものが無いため、「手縫い」に置き換えました。
1番のタイトルは「【ハンドメイド】牛革 4連キーケース/…」でした。検索で使われる語ほど、メモの外から入ってきます。使うなら、自分で決めて足すぶんには問題ありません。AIが黙って足すのを止めるだけです。
8. 言い切っている箇所を、引用で挙げさせる
1番の説明文から4件が引用で返り、4件とも原文に実在しました(引用の捏造は0件)。
【状態について言い切っている箇所】 ・「試作を兼ねて2週間ほど自分で使用しましたが、目立った傷や汚れはない美品です。」 → 色ムラ1か所以外に傷や汚れが無いことを言い切っています。
「判断はしないでください」と書くと、判断は返ってきません。返ってきたのは「その言い切りを裏づける記録が手元にあるか」という確認の観点でした。⚠️ 「これは景品表示法に触れますか」と聞かないでください。答えは返りますが、根拠のない断定になります。この線の引き方は「AIで簡単に稼げる」を、AIに判定させずに確認手順へ変えると同じです。
うまくいかないときの言い直し方
説明文が短すぎて、売れる気がしない
事実だけにすると、たしかに素っ気なくなります。足していい形が2つあります。
1つは自分の言葉で足すこと。「使ってみて気に入っている」は、自分が言うぶんには事実です。AIに書かせると、その気持ちが「上質」「丈夫」という商品の性質の断定に化けます。
もう1つは確かめてから足すこと。「丈夫」と書きたいなら、金具を引っぱって試して、メモに1行足します。指示文を変えるのではなく、メモを増やすほうが確実です。メモが増えれば、書ける範囲は自動的に広がります。
〔私が確かめること〕が長くなりすぎる
そのメモが薄いということです。3番の欄を次に測る項目の一覧として使ってください。上から3つ測ってメモに足し、もう一度3番を回すと、欄はそのぶん短くなります。
説明文を「直して」と頼んだら、別物になった
⚠️ 「直して」と言うと、AIは空欄を埋めるほうへ回ります。副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるの実測では、「確認して」のときは存在しないURLを補うのを断ったのに、「直して」に変えた瞬間に4件のURLを立てました。元原稿28文のうち残ったのは1文です。
検査は6番と8番でやらせて、直すのは自分の手にしてください。
何度書き直しても、同じ表現が戻ってくる
丸める癖は、指示文を変えるたびに戻ります。実測でも、3番で本文に残った「目立った傷や汚れはありません」は、2番では出ていませんでした。各指示文に毎回入れ直すのがいちばん確実です。
応用・次の一手
中古品の出品にも、そのまま使えます。ハンドメイドで盛られるのは品質の形容ですが、中古では状態の程度(美品・使用感少なめ)が同じ場所に入ります。4番の指示文がそこを止めます。メモには「どこを見たか」を書いてください——「内側は見ていない」も1行です。
出品が続くなら、メモの形を固定します。測る項目(サイズ・重さ・傷・確かめていないこと・発送)を並べた空のメモを1つ作っておき、毎回それを埋めます。説明文の質は、指示文ではなくメモの形で決まります。
毎週まとめて出品しているなら、頼むこと自体を自動にできます。メモを1つのファイルに書き溜めて、決まった時刻に下書きだけ作らせる形です(「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。⚠️ そのときは同じ指示文を2回走らせて突き合わせてください。置くだけで走る文字起こしの整形を、毎回同じ形で出させるの実測では、出す形が4回とも完全に一致したのに、中身の方針だけが割れました。1回では「毎回同じ形で出る」と言えません。
⚠️ 出品そのものを自動にしないでください。この記事で見たとおり、決めるところが残ります。追跡なしで送ってよいか、色ムラをどう書くか——買う人と揉めたときに答えるのは自分です。
最後に、この記事の外に置いたもの。販売プラットフォームの規約(禁止出品物・AI生成物の扱い)はサービスごとに違い、変わります。ここでは扱っていません。出す前に、使っているサービスのヘルプで確かめてください。