これで何ができるか

副業で仕事を受けると、文章を書く場面が増えます。見積もりの返事、納期の相談、修正依頼への返答。内容は決まっているのに、角が立たない言い方が思いつかない——ここでAIに頼むのは、うまい使い方に見えます。

実際に試しました。架空の案件で、先に自分で8つの条件を決めてから(金額48,000円・納期9月12日・修正は2回まで…)、それと衝突する相手のメールへの返事を書かせています。

取引先への返事の文面を、頼み方を3通りに変えて機械で照合した図。先に自分で決めた条件8件を11の文字列に分解し、文面にそのまま残った数を数えた。あわせて、条件を緩めるぼかし語15語が何件出たかも数えている。角が立たないように書いてくださいと頼むと、残った条件は11のうち4件で、ぼかし語は8件だった。できるだけ丁寧に、相手の気分を害さないようにと足すと、残った条件は0件になり、ぼかし語は9件に増えた。48,000円も9月12日も修正2回も、文面から丸ごと消えている。私が決めた条件の数字と期日は一字一句そのまま文面に書いてください、言い換えやぼかしをしないでください、と足すと、11件すべてが残り、ぼかし語は0件になった。消えたのは、ページ追加1ページ15,000円、支払いは納品後7日以内、銀行振込、素材は8月29日まで、著作権の譲渡、打ち合わせは1回30分まで、などである。消えるだけでなく反転もしており、これより早くはできないという条件が、早められるよう進めてまいりますという文になった。ぼかし語15語は先に決めたもので、条件にも相手のメールにも1件も出てこない。つまり書く工程で入っている。どの返事も読むかぎり礼儀正しく、条件と並べるまで緩んだことに気づけない。
条件は「材料」として渡してあります。それでも、文面に残るのは一部です。

条件を材料として渡しているのに、文面に残ったのは11件中4件でした。「できるだけ丁寧に」を足すと 0件です。48,000円も、9月12日も、修正2回も、文面から丸ごと消えます。

消えるだけではありません。反転します。

決めた条件 返ってきた文
納期9月12日。これより早くはできない 現時点では9月12日(金)を目安としてお伝えしておりますが、早められるよう進めてまいります
修正は2回まで 修正は2回までとさせていただいておりますが、可能な限り柔軟に対応させていただきます
支払いは納品後7日以内に銀行振込 お支払いは納品後にご対応いただければと存じます

⚠️ どれも読むかぎり、非の打ちどころのない文面です。相手に見せても失礼はありません。条件の一覧と1行ずつ並べるまで、自分の条件が変わったことに気づけません

この記事は、決めた条件を落とさずに、角の立たない文にするための9つの指示文です。記録は試した証拠にあります。

前提

プログラミングは要りません。文章をやりとりできるAIが1つあれば足ります。

要るのは先に自分で決めることです。この記事の頼み方は、条件が決まっていないと1つも働きません。今回の実測で渡したのは、この形の8行です(下は、そのうち4行の抜粋です)。

1. 見積もり金額: 48,000円(税込)。値下げはしない
2. 納期: 9月12日(金)。これより早くはできない
3. 修正: 2回まで。3回目以降は1回8,000円
6. 素材は8月29日までに受け取る。遅れた日数ぶん納期も後ろへずらす

「値下げはしない」「これより早くはできない」まで書いてください。金額と日付だけだと、そこが動かせる前提かどうかが渡りません。

⚠️ 金額と納期そのものをAIに決めさせないでください。相場を聞けば数字は返ってきますが、売れるものの棚卸しをAIにさせると、聞いていない金額が付いてくるの実測どおり、どれにも出どころがありません。この記事でAIにやらせるのは、自分が決めた条件を、角が立たない文にする工程だけです。

AIへの頼み方

1. まず「角が立たないように」と頼むと、条件はどうなるか

取引先とのやりとりです。相手から来たメールと、私が決めた条件を貼ります。角が立たないように、返事の文面を書いてください。

返ってきた文面には、条件の11の文字列のうち4件しか出ませんでした。落ちたのはこれです。

  • ページ追加は1ページ 15,000円
  • 支払いは納品後7日以内銀行振込
  • 素材は8月29日まで
  • 著作権は譲渡する
  • 打ち合わせは1回30分まで
  • 実績掲載は可にしてほしい(相手の「不可」を、そのまま受け入れていた)

さらに、条件にも相手のメールにも1度も出てこない語が8件入りました。「検討させて」「調整」「できる限り」「可能な限り」「柔軟に」「努めさせて」「目安」「お早めに」——15語の一覧を先に決めて、材料の側に1件も無いことを機械で確かめてあります。

ぼかしは、材料から来ていません。文にする工程で入ります

2. 「丁寧に」を足すと、条件は0件になる

取引先とのやりとりです。相手から来たメールと、私が決めた条件を貼ります。できるだけ丁寧に、相手の気分を害さないように、返事の文面を書いてください。

🚨 11件中0件。金額も期日も回数も、文面のどこにも出てきません。

当初のお見積もりからの調整につきましては、内容を整理のうえ、あらためてご相談させていただけますと幸いです

ご納得のいく仕上がりになることが何より大切と考えております。回数にとらわれず、まずは一度形にしたうえで、ご意見をお聞かせいただければと存じます。

⚠️ この文面は、丁寧さとしては満点です。読み返しても直すところが見つかりません。「丁寧に」は、条件を落とす方向の指示として働きます。角を取るというのは、そもそも輪郭を消す作業だからです。

3. 数字と期日を「一字一句そのまま」と指定する

取引先とのやりとりです。相手から来たメールと、私が決めた条件を貼ります。返事の文面を書いてください。 私が決めた条件の数字と期日は、一字一句そのまま文面に書いてください。言い換え・ぼかし・「ご相談させてください」への置き換えをしないでください。条件に無いことを、私が譲れるかのように書かないでください。

11/11、ぼかし語0件。

お見積もりは48,000円(税込)です。恐れ入りますが、今回この金額からの値下げはいたしかねます。

納期は9月12日(金)です。9月5日へ前倒しすることはできません。

効いたのは「一字一句そのまま」より、「私が譲れるかのように書かないで」のほうです。数字を写すだけなら1文目で足りますが、その直後に「可能な限り柔軟に」と続けば上限は打ち消されます。打ち消す文を止める一文が要ります。

📌 条件7(実績掲載は可にしてほしい)も戻りました。相手が「不可」と書いてきた項目です。1番では黙って受け入れられていましたが、3番ではこちらからのお願いとして残ります

4. 送る前に、条件と文面を突き合わせさせる

自分で書いた文面にも、同じ検査がかけられます。

返事の文面と、私が決めた条件の一覧を貼ります。条件1つずつについて、文面のどこに出ているかを、文面の一文をそのまま引用して書いてください。文面に出ていない条件には〔文面に無い〕、条件より緩く書いてある箇所には〔条件より緩い〕と付けてください。文面は書き直さないでください。

1番の文面にかけると、条件どおり0件・〔条件より緩い〕5件・〔文面に無い〕4件。引用6件は6件とも文面に実在しました(捏造0件)。

【条件2】納期: 9月12日(金)。これより早くはできない 引用:「できる限り前倒しできるよう努めさせていただきます。…」 → 〔条件より緩い〕「これより早くはできない」が「目安」「早められるよう」に変わっています。

⚠️ 「書き直さないでください」を必ず入れてください。入れないと、指摘の代わりに直った文面が返り、何が緩んでいたかが消えます。

5. 断る文と、代わりの案を「条件の中だけ」で作らせる

相手から来たメールと、私が決めた条件を貼ります。相手の希望のうち受けられないものについて、断る一文と、代わりに私が出せる案を1つずつ書いてください。代わりの案は、私が決めた条件の中だけで作ってください。条件を超える案を作らないでください。作れないものは「条件の中では作れませんでした」と書いてください。

相手の4つの希望のうち、代案を作れたのは2件でした。

【希望3】修正は納得のいくまで ・断る一文:「修正は2回までとさせていただいております。」 ・代わりの案:「3回目以降も承ります。その場合は1回につき8,000円を申し受けます。」

作れなかった2件のほうが重要です。

【希望1】予算を4万円くらいに ・代わりの案:条件の中では作れませんでした。  いただいた8つの条件には、作業範囲を減らす項目・分割払いの項目がありません。

作れなかったところが、自分がまだ決めていないことの在りかです。ここで「では特別に」と埋めさせると、決めていない譲歩が文面に載ります。空振りが情報になる形にしておきます。

6. 相手が決めることと、もう決まったことを分けさせる

返事の文面と、私が決めた条件を貼ります。この文面を送ったあとに、相手に決めてもらう必要があることだけを箇条書きにしてください。私がすでに決めたこととは分けて書いてください。

相手が決めること6件、すでに決まっていること8件に割れました。この一覧は、そのまま相手の返事を読むときのチェックリストになります。返事が来たとき、6件のうちいくつ埋まったかを見れば、次に何を聞けばいいかが決まります。

7. 次に来そうな質問を、答えられる/答えられないで分けさせる

私が決めた条件を貼ります。この返事のあとに相手から来そうな質問を挙げて、条件の中で答えられるものと、条件の中では答えられないものに分けてください。答えられるものには、条件のどれを使ったかを書いてください。

答えられる質問6件に対し、答えられない質問が6件返りました。

・「修正の1回は、どこまでを1回と数えますか」(まとめて送られた10か所の指摘は1回か10回か) ・「着手金は必要ですか」 ・「公開後に不具合が見つかった場合、修正の回数に含まれますか」

条件を8つ決めたつもりでも、半分は決まっていませんでした。⚠️ この6件は送る前に決めておくところです。相手に聞かれてから考えると、その場の勢いで答えることになります。

聞き返してもらう頼み方そのものはAIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうにあります。⚠️ あちらの実測では、「この頼み方を良くして」と頼むとAIが勝手に決めた設定が4件から7件に増えました。条件が薄いときほど、埋められます。

8. 修正依頼には、範囲の判定をさせない

納品後に「もう少し明るい感じに」と来たときです。

納品後に、相手から次のメールが来ました。私が決めた条件を貼ります。返事の文面を書いてください。修正の範囲に入るかどうかを、私の代わりに判断しないでください。判断に必要なことを相手に聞く形にしてください。

範囲の判定は返らず、聞き返す文が返りました。

「明るい感じ」について、どの部分を指しているかをお教えいただけますか。背景の色、写真の明るさ、文字の色、全体の余白など、どれに近いでしょうか。

そのうえで、こちらへの申し送りが付きます。

「明るい感じ」がどこを指すかによって、修正の範囲に入るか、作り直しに近い作業になるかが変わります。どちらに当たるかは、私には判断できません。

範囲に入るかどうかは、AIが判定してよい種類の問いではありません。手元にあるのは相手の1文だけで、判断の材料が足りていないからです。足りないまま聞くと、断定が返ります。

うまくいかないときの言い直し方

条件どおりに書かせたら、冷たい文面になった

3番の文面は事務的です。柔らかくしたいときは、条件の外側だけを柔らかくします

条件を書いた部分は1文字も変えないでください。あいさつと結びの文だけ、柔らかい言い方に直してください。

実測では、条件を書いた5つの節が5/5とも1文字も変わらず、条件の11の文字列も11/11残りました。ぼかし語は0件です。

🚨 それでも、結びに1件だけ気になる文が入りました。

公開に間に合うよう、しっかり進めてまいります。

相手は「公開を早めたく、納期を9月5日に」と書いてきて、こちらはそれを断っています。断ったはずの日程に沿う約束としても読める一文です。⚠️ 数字は1つも動いていないので、数字の照合では見つかりません。柔らかくしてよいのはあいさつと結びの言い方であって、そこに約束を足す許可ではありません。送る前にこの2か所だけは自分の目で読んでください。

⚠️ 全体を「柔らかく」とは頼まないでください。2番で見たとおり、条件そのものが溶けます。触ってよい範囲を先に区切るのが確実です。範囲を区切って直させる型は誤字と重複だけ直させて、自分の言い回しは残す頼み方にまとめてあります。

条件を落とさずに書かせたら、相手に怒られそうで送れない

その不安は、文面ではなく条件そのものへの不安かもしれません。5番をもう一度回して、断る文が並んだ希望を見てください。全部断ることになっているなら、条件のどれかを自分で見直す場面です。

AIに柔らかく書かせて先送りにするのが、いちばん高くつきます。送った文面が「調整を検討します」なら、相手はそう理解します。

相手の返事で条件が動いたあと、どこまで直すか分からなくなった

条件の一覧のほうを先に書き換えて、新しい条件で3番をもう一度回してください。文面を直すのではなく、条件から作り直すほうが早く、抜けません。

前回の文面を「型」として渡すのは避けてください。毎週の報告書を、前回のぶんを型にして書かせるの実測では、型として渡した先週の文が今週の中身を上書きし、9件の事実のうち残ったのは2件でした。

応用・次の一手

条件の一覧は、案件をまたいで使い回せます。8行のうち動くのは金額と納期だけで、支払い・修正回数・打ち合わせの長さは毎回同じことが多いはずです。7番で出た「答えられない質問」を条件に足していくと、一覧のほうが育ちます

受ける前の確認にも同じ形が使えます。条件を決める前の段階なら、7番だけを先に回して、聞くことの一覧を作ってから返事をします。

同じ種類の連絡が毎週あるなら、決まった時刻に下書きだけ作らせる形にできます「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。条件の一覧を1つのファイルに置いて、来たメールを添えるだけの形です。⚠️ そのときは同じ指示文を2回走らせて突き合わせてください置くだけで走る文字起こしの整形を、毎回同じ形で出させるの実測では、出す形が4回とも完全に一致したのに、中身の方針だけが割れました

⚠️ 送信そのものを自動にしないでください。この記事で見たとおり、条件は文にする工程で緩みます。画面に出す前に送られたら、緩んだことを確かめる機会がありません

この記事の外に置いたもの。工数や作業時間そのものの見積もり方(何時間かかるかをどう出すか)は扱っていません。ここで扱ったのは、すでに決めた数字を、そのまま相手に伝える工程だけです。契約書の中身の確認も、この記事の範囲外です(法律の判断はしません)。