これで何ができるか
副業で仕事を受けると、文章を書く場面が増えます。見積もりの返事、納期の相談、修正依頼への返答。内容は決まっているのに、角が立たない言い方が思いつかない——ここでAIに頼むのは、うまい使い方に見えます。
実際に試しました。架空の案件で、先に自分で8つの条件を決めてから(金額48,000円・納期9月12日・修正は2回まで…)、それと衝突する相手のメールへの返事を書かせています。
条件を材料として渡しているのに、文面に残ったのは11件中4件でした。「できるだけ丁寧に」を足すと 0件です。48,000円も、9月12日も、修正2回も、文面から丸ごと消えます。
消えるだけではありません。反転します。
| 決めた条件 | 返ってきた文 |
|---|---|
| 納期9月12日。これより早くはできない | 現時点では9月12日(金)を目安としてお伝えしておりますが、早められるよう進めてまいります |
| 修正は2回まで | 修正は2回までとさせていただいておりますが、可能な限り柔軟に対応させていただきます |
| 支払いは納品後7日以内に銀行振込 | お支払いは納品後にご対応いただければと存じます |
⚠️ どれも読むかぎり、非の打ちどころのない文面です。相手に見せても失礼はありません。条件の一覧と1行ずつ並べるまで、自分の条件が変わったことに気づけません。
この記事は、決めた条件を落とさずに、角の立たない文にするための9つの指示文です。記録は試した証拠にあります。
前提
プログラミングは要りません。文章をやりとりできるAIが1つあれば足ります。
要るのは先に自分で決めることです。この記事の頼み方は、条件が決まっていないと1つも働きません。今回の実測で渡したのは、この形の8行です(下は、そのうち4行の抜粋です)。
1. 見積もり金額: 48,000円(税込)。値下げはしない
2. 納期: 9月12日(金)。これより早くはできない
3. 修正: 2回まで。3回目以降は1回8,000円
6. 素材は8月29日までに受け取る。遅れた日数ぶん納期も後ろへずらす
「値下げはしない」「これより早くはできない」まで書いてください。金額と日付だけだと、そこが動かせる前提かどうかが渡りません。
⚠️ 金額と納期そのものをAIに決めさせないでください。相場を聞けば数字は返ってきますが、売れるものの棚卸しをAIにさせると、聞いていない金額が付いてくるの実測どおり、どれにも出どころがありません。この記事でAIにやらせるのは、自分が決めた条件を、角が立たない文にする工程だけです。
AIへの頼み方
1. まず「角が立たないように」と頼むと、条件はどうなるか
返ってきた文面には、条件の11の文字列のうち4件しか出ませんでした。落ちたのはこれです。
- ページ追加は1ページ 15,000円
- 支払いは納品後7日以内・銀行振込
- 素材は8月29日まで
- 著作権は譲渡する
- 打ち合わせは1回30分まで
- 実績掲載は可にしてほしい(相手の「不可」を、そのまま受け入れていた)
さらに、条件にも相手のメールにも1度も出てこない語が8件入りました。「検討させて」「調整」「できる限り」「可能な限り」「柔軟に」「努めさせて」「目安」「お早めに」——15語の一覧を先に決めて、材料の側に1件も無いことを機械で確かめてあります。
ぼかしは、材料から来ていません。文にする工程で入ります。
2. 「丁寧に」を足すと、条件は0件になる
🚨 11件中0件。金額も期日も回数も、文面のどこにも出てきません。
当初のお見積もりからの調整につきましては、内容を整理のうえ、あらためてご相談させていただけますと幸いです。
ご納得のいく仕上がりになることが何より大切と考えております。回数にとらわれず、まずは一度形にしたうえで、ご意見をお聞かせいただければと存じます。
⚠️ この文面は、丁寧さとしては満点です。読み返しても直すところが見つかりません。「丁寧に」は、条件を落とす方向の指示として働きます。角を取るというのは、そもそも輪郭を消す作業だからです。
3. 数字と期日を「一字一句そのまま」と指定する
11/11、ぼかし語0件。
お見積もりは48,000円(税込)です。恐れ入りますが、今回この金額からの値下げはいたしかねます。
納期は9月12日(金)です。9月5日へ前倒しすることはできません。
効いたのは「一字一句そのまま」より、「私が譲れるかのように書かないで」のほうです。数字を写すだけなら1文目で足りますが、その直後に「可能な限り柔軟に」と続けば上限は打ち消されます。打ち消す文を止める一文が要ります。
📌 条件7(実績掲載は可にしてほしい)も戻りました。相手が「不可」と書いてきた項目です。1番では黙って受け入れられていましたが、3番ではこちらからのお願いとして残ります。
4. 送る前に、条件と文面を突き合わせさせる
自分で書いた文面にも、同じ検査がかけられます。
1番の文面にかけると、条件どおり0件・〔条件より緩い〕5件・〔文面に無い〕4件。引用6件は6件とも文面に実在しました(捏造0件)。
【条件2】納期: 9月12日(金)。これより早くはできない 引用:「できる限り前倒しできるよう努めさせていただきます。…」 → 〔条件より緩い〕「これより早くはできない」が「目安」「早められるよう」に変わっています。
⚠️ 「書き直さないでください」を必ず入れてください。入れないと、指摘の代わりに直った文面が返り、何が緩んでいたかが消えます。
5. 断る文と、代わりの案を「条件の中だけ」で作らせる
相手の4つの希望のうち、代案を作れたのは2件でした。
【希望3】修正は納得のいくまで ・断る一文:「修正は2回までとさせていただいております。」 ・代わりの案:「3回目以降も承ります。その場合は1回につき8,000円を申し受けます。」
作れなかった2件のほうが重要です。
【希望1】予算を4万円くらいに ・代わりの案:条件の中では作れませんでした。 いただいた8つの条件には、作業範囲を減らす項目・分割払いの項目がありません。
作れなかったところが、自分がまだ決めていないことの在りかです。ここで「では特別に」と埋めさせると、決めていない譲歩が文面に載ります。空振りが情報になる形にしておきます。
6. 相手が決めることと、もう決まったことを分けさせる
相手が決めること6件、すでに決まっていること8件に割れました。この一覧は、そのまま相手の返事を読むときのチェックリストになります。返事が来たとき、6件のうちいくつ埋まったかを見れば、次に何を聞けばいいかが決まります。
7. 次に来そうな質問を、答えられる/答えられないで分けさせる
答えられる質問6件に対し、答えられない質問が6件返りました。
・「修正の1回は、どこまでを1回と数えますか」(まとめて送られた10か所の指摘は1回か10回か) ・「着手金は必要ですか」 ・「公開後に不具合が見つかった場合、修正の回数に含まれますか」
条件を8つ決めたつもりでも、半分は決まっていませんでした。⚠️ この6件は送る前に決めておくところです。相手に聞かれてから考えると、その場の勢いで答えることになります。
聞き返してもらう頼み方そのものはAIに聞く前に、足りない情報を聞き返してもらうにあります。⚠️ あちらの実測では、「この頼み方を良くして」と頼むとAIが勝手に決めた設定が4件から7件に増えました。条件が薄いときほど、埋められます。
8. 修正依頼には、範囲の判定をさせない
納品後に「もう少し明るい感じに」と来たときです。
範囲の判定は返らず、聞き返す文が返りました。
「明るい感じ」について、どの部分を指しているかをお教えいただけますか。背景の色、写真の明るさ、文字の色、全体の余白など、どれに近いでしょうか。
そのうえで、こちらへの申し送りが付きます。
「明るい感じ」がどこを指すかによって、修正の範囲に入るか、作り直しに近い作業になるかが変わります。どちらに当たるかは、私には判断できません。
範囲に入るかどうかは、AIが判定してよい種類の問いではありません。手元にあるのは相手の1文だけで、判断の材料が足りていないからです。足りないまま聞くと、断定が返ります。
うまくいかないときの言い直し方
条件どおりに書かせたら、冷たい文面になった
3番の文面は事務的です。柔らかくしたいときは、条件の外側だけを柔らかくします。
実測では、条件を書いた5つの節が5/5とも1文字も変わらず、条件の11の文字列も11/11残りました。ぼかし語は0件です。
🚨 それでも、結びに1件だけ気になる文が入りました。
公開に間に合うよう、しっかり進めてまいります。
相手は「公開を早めたく、納期を9月5日に」と書いてきて、こちらはそれを断っています。断ったはずの日程に沿う約束としても読める一文です。⚠️ 数字は1つも動いていないので、数字の照合では見つかりません。柔らかくしてよいのはあいさつと結びの言い方であって、そこに約束を足す許可ではありません。送る前にこの2か所だけは自分の目で読んでください。
⚠️ 全体を「柔らかく」とは頼まないでください。2番で見たとおり、条件そのものが溶けます。触ってよい範囲を先に区切るのが確実です。範囲を区切って直させる型は誤字と重複だけ直させて、自分の言い回しは残す頼み方にまとめてあります。
条件を落とさずに書かせたら、相手に怒られそうで送れない
その不安は、文面ではなく条件そのものへの不安かもしれません。5番をもう一度回して、断る文が並んだ希望を見てください。全部断ることになっているなら、条件のどれかを自分で見直す場面です。
AIに柔らかく書かせて先送りにするのが、いちばん高くつきます。送った文面が「調整を検討します」なら、相手はそう理解します。
相手の返事で条件が動いたあと、どこまで直すか分からなくなった
条件の一覧のほうを先に書き換えて、新しい条件で3番をもう一度回してください。文面を直すのではなく、条件から作り直すほうが早く、抜けません。
前回の文面を「型」として渡すのは避けてください。毎週の報告書を、前回のぶんを型にして書かせるの実測では、型として渡した先週の文が今週の中身を上書きし、9件の事実のうち残ったのは2件でした。
応用・次の一手
条件の一覧は、案件をまたいで使い回せます。8行のうち動くのは金額と納期だけで、支払い・修正回数・打ち合わせの長さは毎回同じことが多いはずです。7番で出た「答えられない質問」を条件に足していくと、一覧のほうが育ちます。
受ける前の確認にも同じ形が使えます。条件を決める前の段階なら、7番だけを先に回して、聞くことの一覧を作ってから返事をします。
同じ種類の連絡が毎週あるなら、決まった時刻に下書きだけ作らせる形にできます(「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせる)。条件の一覧を1つのファイルに置いて、来たメールを添えるだけの形です。⚠️ そのときは同じ指示文を2回走らせて突き合わせてください。置くだけで走る文字起こしの整形を、毎回同じ形で出させるの実測では、出す形が4回とも完全に一致したのに、中身の方針だけが割れました。
⚠️ 送信そのものを自動にしないでください。この記事で見たとおり、条件は文にする工程で緩みます。画面に出す前に送られたら、緩んだことを確かめる機会がありません。
この記事の外に置いたもの。工数や作業時間そのものの見積もり方(何時間かかるかをどう出すか)は扱っていません。ここで扱ったのは、すでに決めた数字を、そのまま相手に伝える工程だけです。契約書の中身の確認も、この記事の範囲外です(法律の判断はしません)。