これで何ができるか
毎朝の仕事をAIに任せるとき、よく勧められる形があります。一度に全部やらせず、工程に分けて頼む。前の工程の答えを次の工程に渡していく。前の工程の誤りは後ろに連鎖するから、1つずつ確かめられるほうがよい——という理屈です。
このサイトも2か所でそう書いています。要約で落としてはいけない情報を守るは「2回に分けて頼むのがコツです」と書き、同じ処理をまとめて渡すは「1回で全部やらせようとせず、区切って渡すほうが結果は安定します」と書いています。この2記事とも、分けたほうがよい理由を一度も測っていませんでした。
測りました。架空の問い合わせ24件を2本作り(A=事務機器メーカーの窓口・丁寧な長文/B=地域の公共施設の窓口・短い口語)、やらせる中身は同じにして、工程の切り方だけを4通りに振っています。やらせたのは①期限が書いてあるものだけ抜く ②「見積もり/不具合/日程」の3つに分ける ③1件を3行にまとめる、の3つ。抜くべきは12件で、走らせる前にコードで確かめてあります。4版 × 材料2本 × 各2回 = 16通し・のべ40回です。
分かったことは3つです。
① 分けても精度は上がりませんでした。1回で全部やらせた4回は、4回とも12件ちょうど。欠落0・混入0です。この材料・この回数では、定説どおりの結果になりませんでした。
② 分けた版が崩れたのは、判定を間違えたからではありません。3回に分けただけの版は、短い口語の材料での2回とも、下流が「材料が足りない」と断りました(断り方の文面は2回で違い、一覧は1回が0件、もう1回は1件だけでした)。毎朝ひとりでに走らせていれば、その朝はほとんど何も出ません。
③ 犯人は、工程のあいだで何を渡すかを誰も決めていなかったことです。工程1に頼んだのは「期限が書いてあるものだけ抜き出して」だけで、何を添えるかは書いていません。同じ指示文なのに、工程1が渡した量は220字から875字まで開きました。
前提
| かかる時間 | 30分。工程の切り方を決めるときに1回だけやります |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、毎朝処理したいテキスト |
| プログラミング | 不要。前の工程の答えをコピーして、次の会話に貼るだけです |
⚠️ 「分けるな」という話ではありません。この材料・この回数での実測です。分けたほうがよい仕事は当然あります。測ったのは「分ければ勝手に良くなるわけではない」というところまでです。
📌 数字はすべて架空データでの実測です。問い合わせ24件のうち12件にだけ期限を書き、24件ぜんぶに重複しない型番(受付番号)を1つずつ入れてあります。型番は「どこで消えたか」を機械で追うための目印です。
AIへの頼み方
1. まず、1回で全部やらせてみる
このあとに 【問い合わせ 24件】 として24行を貼ります。
4回とも12件ちょうどでした。欠落も混入も0件、型番も12件とも正しく残っています。3つの分け方(見積もり4/不具合5/日程3)も4回とも真値どおりでした。
🔑 書き始める前の見立ては「一括はいちばん雑になる」でしたが、外れました。
2. 3回に分けて、前の工程の答えだけを次に渡す
定説どおりの形です。工程1をこう頼みます。
返ってきたものを、そのまま次の会話に貼って工程2を頼みます。
さらにその答えを貼って工程3です。
丁寧な長文の材料では、2回とも12件ちょうどでした。工程1がこういう形で返したためです。
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🚨 短い口語の材料では、2回とも工程1がこう返しました。
M-01(R-3041)今週中 M-02(R-3078)8月28日(金)まで M-03(R-3105)今週中
間違ってはいません。「期限が書いてあるものだけ抜き出して」に対して、期限を抜き出しています。番号も12件とも正しい。ところが用件がどこにもありません。
その先で工程2は、2回目でこう返しました。
分類できません。前の工程の結果に、問い合わせの「中身」が含まれていないためです。
同じ回の工程3も同じです。
3行のまとめは作れません。前の工程の結果に、3行のうち2行分の材料が入っていないためです。
1回目は文面が違い、工程2が「分けられませんでした。理由を先に書きます。」、工程3が「3行のまとめは作れませんでした。理由を先に書きます。」で始まっています。その朝の一覧は、1回目が0件、2回目が1件(M-01だけ・残り11件は欠落)でした。断り方は正しく、推測で埋めた回は0回です。それでも、毎朝ひとりでに走らせていれば、出てくるのはほとんど断り文だけです。
3. 毎回、もとの24件も一緒に渡す
前の工程の答えが痩せているなら、もとの材料も添えればいい——と考えたくなります。工程2と工程3で、前の工程の答えのあとに 【問い合わせ 24件】 をもう一度貼りました。指示文は2番とまったく同じものです。
🚨 これは効きませんでした。逆でした。4回のうち3回で、最終の一覧に24件全部が出ました。下流が上流の絞り込みを捨てて、24件をゼロからやり直しています。期限の書いていない12件が、そのまま毎朝の一覧に並ぶことになります。
📌 1回だけ、良いほうに働きました。短い口語の材料の1回目は、工程1が12件中7件しか抜きませんでした(不具合の5件を「返事の期限ではなく、直してほしい期限だ」と判断して外した)。もとの24件を貼り直したので、外された不具合の5件は最終には戻っています。ただし引き換えに、絞り込みそのものが消えて24件になりました。
🔑 上流で落ちたものが下流で戻ったのは、16通しでこの1回だけです。そしてそれは、連鎖が直したのではなく、もとの材料をもう一度渡したからでした。
4. 各工程の冒頭に、受け取った件数を書かせる
工程1・2・3のそれぞれで、指示文の頭にこの2行を足します。中身の頼み方は2番とまったく同じです。
工程2はこうです。
工程3も同じ2行を頭に付けます。
4回とも12件ちょうどでした。止まった回0、24件に膨らんだ回0です。受け取った件数の申告は、12回(4通し×3工程)とも実際に受け取った件数と一致しました(工程1は24件を受け取って12件に絞り込むので、申告する「受け取った件数」と、絞り込んだあとに並ぶ件数は別物です)。減った理由も自分から書いてきます。
前の工程では24件でしたが、今回実際に並んでいたのは「いつまでに返事が要るかが本文に書いてあるもの」12件(M-01〜M-12)だけでした。残る12件(期限の記載がないもの)は本文に載っていないため、こちらでは扱えていません。12件ぶんの減少はこの絞り込みによるものです。
⚠️ なぜ効いたのかは、この実測からは言い切れません。件数を数えるために、工程1が用件も添えるようになった回がある一方で、用件を8件ぶんしか渡さなかった回も最終は12件そろっています。4回とも通ったという事実だけが確かなところです。
📌 この形は渡した材料を毎回数えさせるを、入り口ではなく工程の継ぎ目に置いたものです。あちらは「今朝の材料は何行あったか」を数えさせる話でした。
うまくいかないときの言い直し方
分けたら、途中の工程で止まった
直すのは工程2ではなく、工程1です。止まった2回は、どちらも工程1が用件を1件も渡していませんでした。工程2をどう言い直しても、渡ってきていないものは出せません。
📌 手当ての候補は「工程1に、何を添えて渡すかまで書く」ことです——「抜き出した行は、もとの本文をそのままコピーして添えてください。言い換えないでください」のように。⚠️ ただし、この一文を足した版は40回のどこにも入っていません。この記事で試したのは①〜④の4つの切り方だけです。試すなら、それは次の実測になります。
📌 実測で通った側の手当ては、④(各工程に受け取った件数を書かせる)です。4回とも止まらず12件そろいました。⚠️ ただしなぜ通ったのかは言い切れません(用件を8件ぶんしか渡さなかった回も通っているため)。
これは止まった日のメモだけで再開するで出たのと同じ形です。あちらは回をまたいで渡す話でしたが、1回の仕事の中の工程の継ぎ目でも同じことが起きました。
もとの材料も渡したら、絞り込みが消えた
4回中3回で最終が24件になりました。何も書かずに2つ並べると、下流はやり直せるほうを選びます。
📌 「これは参考です。対象は前の工程が選んだ◯件だけです」と書き足す手が考えられます。⚠️ この一文も40回のどこにも入っていません。実測から言えるのは「何も書かないと3/4回で絞り込みが消える」までで、書けば直るかは分かりません。📌 通ったのは、もとの材料を渡さない④のほうでした(4回とも12件)。
一覧は出たが、3行目が全部「記載なし」になった
件数を書かせた版の1回で起きました。工程1は期限を渡していたのに、工程2が「番号と用件」の形に整え直したので、期限のほうが落ちて工程3に届きませんでした。返り自身がこう断っています。
⚠️ お断り: 3行目に書くべき「いつまでに返事が要るか」は、いただいた一覧の本文には1件も書かれていません(前の工程の説明では「期限の記載があるもの12件」とされていますが、実際に渡ってきた行には番号・型番・用件しかありません)。推測で日付を書くことはできないため、3行目はすべて「本文に記載なし」としています。
🔑 落ちるものは工程ごとに変わります。工程1は用件を落とし、工程2は期限を落としました。1回書けば最後まで残る、にはなりません。
📌 手当ての候補は「最後まで持っていってほしい項目を、各工程の指示文に毎回書く」ことです。⚠️ これも40回では試していません(工程2の指示文に「期限もそのまま残して」と書いた版は無い)。実測から言えるのは、同じ項目が工程ごとに違うところで落ちたという事実までです。
同じ指示文なのに、工程1の返し方が毎回違う
工程1の出力は220字から875字まで開きました。長いほうは本文をそのまま添え、短いほうは番号と期限だけに畳んでいます。⚠️ 材料の文が短いほど、畳まれやすくなりました(短い口語の材料の6回のうち3回で用件が0〜1件しか残らず、丁寧な長文の材料では6回とも8件以上残りました)。
自動実行に置くなら、工程1の出力の形を決めて、2回走らせて突き合わせてください。やり方は2回ぶんの出力を自分で見比べるにあります。
真値のほうが割れることもある
正直に書きます。この実測の真値も、完全ではありませんでした。「今週中に見てもらえませんか」のような不具合の5件は、返事の期限とも直してほしい期限とも読めます。16通しのうち1回はこの5件を外して7件に絞り、もう1回は12件を出したうえで「この5件は返事の期限ではありません」と注記しました。
📌 AIの側が間違えたのではなく、こちらの線引きが粗かったということです。⚠️ 工程に分ける前に、工程1の判定が1通りに決まる書き方になっているかを確かめてください。決まらないまま分けると、下流は上流の判定を疑いません。
応用・次の一手
まず1回で全部やらせて、それで足りるなら分けないでください。この実測では、分けないほうが崩れませんでした。分けるのは、1回では材料が入りきらないときや、途中の結果を人が見たいときです。
分けると決めたら、決めることが2つ増えます。① 各工程が次へ何を渡すか(用件・期限・型番のうちどれを添えるか)。② 各工程が受け取った件数を書くか。この2つを書かないまま毎朝走らせると、画面には整った一覧が出ているのに、中身が別物になっている朝が混ざります。
📌 この記事は、うちの既存の記事を訂正する側に立ちます。要約で落としてはいけない情報を守るの「2回に分けて頼むのがコツです」は、分ければ良くなるという意味ではありません。あちらが効いているのは、番号付きの台帳を先に作らせて、次の工程がその番号を使う形——つまり渡すものを決めているからです。渡すものを決めずに分けただけの版は、この実測では2回止まりました。
同じ晩に公開した毎朝の出来ばえを3件で見張るも、同じ「定説を実測する」型です。あちらは自動点検の見せ方(3件見せれば足りる、という定説)を測り、この記事は自動処理の分け方(工程を分けたほうがよい、という定説)を測っています。
⚠️ 測っていないことも書いておきます。工程を4つ以上に増やしたらどうなるかは試していません。上流が判定を間違えた回も、16通しで1回(7件に絞った回)しか起きなかったので、「上流の誤りが下流で直るか」はほとんど測れていません。ここは次に測るところです。