これで何ができるか

毎朝の仕事をAIに任せるとき、よく勧められる形があります。一度に全部やらせず、工程に分けて頼む。前の工程の答えを次の工程に渡していく。前の工程の誤りは後ろに連鎖するから、1つずつ確かめられるほうがよい——という理屈です。

このサイトも2か所でそう書いています。要約で落としてはいけない情報を守るは「2回に分けて頼むのがコツです」と書き、同じ処理をまとめて渡すは「1回で全部やらせようとせず、区切って渡すほうが結果は安定します」と書いています。この2記事とも、分けたほうがよい理由を一度も測っていませんでした。

測りました。架空の問い合わせ24件を2本作り(A=事務機器メーカーの窓口・丁寧な長文/B=地域の公共施設の窓口・短い口語)、やらせる中身は同じにして、工程の切り方だけを4通りに振っています。やらせたのは①期限が書いてあるものだけ抜く ②「見積もり/不具合/日程」の3つに分ける ③1件を3行にまとめる、の3つ。抜くべきは12件で、走らせる前にコードで確かめてあります。4版 × 材料2本 × 各2回 = 16通し・のべ40回です。

毎朝の処理を工程に分けて回したとき、最終に出た件数を4通りの切り方で並べた図。架空の問い合わせ24件を2本、事務機器メーカーの窓口の丁寧な長文と、公共施設の窓口の短い口語で用意した。やらせる中身は4版とも同じで、期限が書いてあるものだけ抜き、3つに分け、1件3行にまとめる。抜くべきは12件である。4版かける材料2本かける各2回で16通し、のべ40回。1回で全部やらせた版は4回とも12件で真値どおり。3回に分けた版は12件、12件、0件、1件で、短い口語の材料の2回は下流が中身が渡っていないと断って一覧を作らなかった。分けたうえで毎回もとの24件も渡した版は24件、12件、24件、24件で、4回中3回は下流が上流の絞り込みを捨てて24件全部をやり直している。分けたうえで各工程に受け取った件数を書かせた版は4回とも12件で真値どおり。材料に無い型番が出た回は40回で0件だった。
分けなかった版がいちばん崩れませんでした。

分かったことは3つです。

① 分けても精度は上がりませんでした。1回で全部やらせた4回は、4回とも12件ちょうど。欠落0・混入0です。この材料・この回数では、定説どおりの結果になりませんでした。

② 分けた版が崩れたのは、判定を間違えたからではありません。3回に分けただけの版は、短い口語の材料での2回とも、下流が「材料が足りない」と断りました(断り方の文面は2回で違い、一覧は1回が0件、もう1回は1件だけでした)。毎朝ひとりでに走らせていれば、その朝はほとんど何も出ません。

③ 犯人は、工程のあいだで何を渡すかを誰も決めていなかったことです。工程1に頼んだのは「期限が書いてあるものだけ抜き出して」だけで、何を添えるかは書いていません。同じ指示文なのに、工程1が渡した量は220字から875字まで開きました

前提

かかる時間 30分。工程の切り方を決めるときに1回だけやります
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、毎朝処理したいテキスト
プログラミング 不要。前の工程の答えをコピーして、次の会話に貼るだけです

⚠️ 「分けるな」という話ではありません。この材料・この回数での実測です。分けたほうがよい仕事は当然あります。測ったのは「分ければ勝手に良くなるわけではない」というところまでです。

📌 数字はすべて架空データでの実測です。問い合わせ24件のうち12件にだけ期限を書き、24件ぜんぶに重複しない型番(受付番号)を1つずつ入れてあります。型番は「どこで消えたか」を機械で追うための目印です。

AIへの頼み方

1. まず、1回で全部やらせてみる

下の24件の問い合わせについて、次の3つを順にやってください。 1. 本文に「いつまでに返事が要るか」が書いてあるものだけを抜き出してください。書いていないものは入れないでください。 2. 抜き出したものを「見積もり」「不具合」「日程」の3つに分けてください。 3. 分けたもの1件ずつを3行にまとめてください。1行目に問い合わせの番号と型番、2行目に用件、3行目にいつまでに返事が要るかを書いてください。 最後の3行のまとめだけを出してください。

このあとに 【問い合わせ 24件】 として24行を貼ります。

4回とも12件ちょうどでした。欠落も混入も0件、型番も12件とも正しく残っています。3つの分け方(見積もり4/不具合5/日程3)も4回とも真値どおりでした。

🔑 書き始める前の見立ては「一括はいちばん雑になる」でしたが、外れました。

2. 3回に分けて、前の工程の答えだけを次に渡す

定説どおりの形です。工程1をこう頼みます。

下の24件の問い合わせのうち、本文に「いつまでに返事が要るか」が書いてあるものだけを抜き出してください。書いていないものは入れないでください。抜き出したものだけを出してください。

返ってきたものを、そのまま次の会話に貼って工程2を頼みます。

下は、問い合わせの一覧です。これを「見積もり」「不具合」「日程」の3つに分けてください。分けた結果だけを出してください。

さらにその答えを貼って工程3です。

下は、3つに分けた問い合わせの一覧です。1件ずつを3行にまとめてください。1行目に問い合わせの番号と型番、2行目に用件、3行目にいつまでに返事が要るかを書いてください。3行のまとめだけを出してください。

丁寧な長文の材料では、2回とも12件ちょうどでした。工程1がこういう形で返したためです。

M-01 複合機 KX-2201 を3台追加したいので見積もりをお願いします。今週金曜までにいただけますか。設置は9月上旬を考えています。 → 今週金曜まで

🚨 短い口語の材料では、2回とも工程1がこう返しました。

M-01(R-3041)今週中 M-02(R-3078)8月28日(金)まで M-03(R-3105)今週中

間違ってはいません。「期限が書いてあるものだけ抜き出して」に対して、期限を抜き出しています。番号も12件とも正しい。ところが用件がどこにもありません。

その先で工程2は、2回目でこう返しました。

分類できません。前の工程の結果に、問い合わせの「中身」が含まれていないためです。

同じ回の工程3も同じです。

3行のまとめは作れません。前の工程の結果に、3行のうち2行分の材料が入っていないためです。

1回目は文面が違い、工程2が「分けられませんでした。理由を先に書きます。」、工程3が「3行のまとめは作れませんでした。理由を先に書きます。」で始まっています。その朝の一覧は、1回目が0件、2回目が1件(M-01だけ・残り11件は欠落)でした。断り方は正しく、推測で埋めた回は0回です。それでも、毎朝ひとりでに走らせていれば、出てくるのはほとんど断り文だけです。

毎朝の処理を3つの工程に分けて回したとき、工程1が下流へ「何についての問い合わせか」をどれだけ渡したかと、その先で起きたことを並べた横棒グラフ。工程1に頼んだのは期限が書いてあるものだけ抜き出してということだけで、何を添えるかは書いていない。棒は、工程1の出力にその1件にしか出てこない文字列が残っていた件数で、12件が満点である。分けただけの版は、丁寧な長文の材料で2回とも12件を渡して最終12件になったが、短い口語の材料では2回とも0件しか渡さず、2回とも下流が一覧を作らずに断った。毎回もとの24件も渡した版は12件、8件、1件、0件を渡し、最終はそれぞれ24件、12件、24件、24件で、3回は絞り込みが消えた。各工程に受け取った件数を書かせた版は8件、12件、12件、8件を渡し、4回とも最終12件で真値どおりだった。同じ指示文なのに、工程1が渡した量は220字から875字まで開いている。用件が8件ぶんしか渡らなかった回でも最終は12件そろっており、要旨のほうは残っていた。
止まった2回は、どちらも工程1が用件を1件も渡していません。

3. 毎回、もとの24件も一緒に渡す

前の工程の答えが痩せているなら、もとの材料も添えればいい——と考えたくなります。工程2と工程3で、前の工程の答えのあとに 【問い合わせ 24件】 をもう一度貼りました。指示文は2番とまったく同じものです。

🚨 これは効きませんでした。逆でした。4回のうち3回で、最終の一覧に24件全部が出ました。下流が上流の絞り込みを捨てて、24件をゼロからやり直しています。期限の書いていない12件が、そのまま毎朝の一覧に並ぶことになります。

📌 1回だけ、良いほうに働きました。短い口語の材料の1回目は、工程1が12件中7件しか抜きませんでした(不具合の5件を「返事の期限ではなく、直してほしい期限だ」と判断して外した)。もとの24件を貼り直したので、外された不具合の5件は最終には戻っています。ただし引き換えに、絞り込みそのものが消えて24件になりました。

🔑 上流で落ちたものが下流で戻ったのは、16通しでこの1回だけです。そしてそれは、連鎖が直したのではなく、もとの材料をもう一度渡したからでした。

4. 各工程の冒頭に、受け取った件数を書かせる

工程1・2・3のそれぞれで、指示文の頭にこの2行を足します。中身の頼み方は2番とまったく同じです。

はじめに、受け取った件数を「受け取った件数: ◯件」の形で書いてください。前の工程から件数が増えたり減ったりしている場合は、その理由も書いてください。 下の24件の問い合わせのうち、本文に「いつまでに返事が要るか」が書いてあるものだけを抜き出してください。書いていないものは入れないでください。抜き出したものだけを出してください。

工程2はこうです。

はじめに、受け取った件数を「受け取った件数: ◯件」の形で書いてください。前の工程から件数が増えたり減ったりしている場合は、その理由も書いてください。 下は、問い合わせの一覧です。これを「見積もり」「不具合」「日程」の3つに分けてください。分けた結果だけを出してください。

工程3も同じ2行を頭に付けます。

はじめに、受け取った件数を「受け取った件数: ◯件」の形で書いてください。前の工程から件数が増えたり減ったりしている場合は、その理由も書いてください。 下は、3つに分けた問い合わせの一覧です。1件ずつを3行にまとめてください。1行目に問い合わせの番号と型番、2行目に用件、3行目にいつまでに返事が要るかを書いてください。3行のまとめだけを出してください。

4回とも12件ちょうどでした。止まった回0、24件に膨らんだ回0です。受け取った件数の申告は、12回(4通し×3工程)とも実際に受け取った件数と一致しました(工程1は24件を受け取って12件に絞り込むので、申告する「受け取った件数」と、絞り込んだあとに並ぶ件数は別物です)。減った理由も自分から書いてきます。

前の工程では24件でしたが、今回実際に並んでいたのは「いつまでに返事が要るかが本文に書いてあるもの」12件(M-01〜M-12)だけでした。残る12件(期限の記載がないもの)は本文に載っていないため、こちらでは扱えていません。12件ぶんの減少はこの絞り込みによるものです。

⚠️ なぜ効いたのかは、この実測からは言い切れません。件数を数えるために、工程1が用件も添えるようになった回がある一方で、用件を8件ぶんしか渡さなかった回も最終は12件そろっています。4回とも通ったという事実だけが確かなところです。

📌 この形は渡した材料を毎回数えさせるを、入り口ではなく工程の継ぎ目に置いたものです。あちらは「今朝の材料は何行あったか」を数えさせる話でした。

うまくいかないときの言い直し方

分けたら、途中の工程で止まった

直すのは工程2ではなく、工程1です。止まった2回は、どちらも工程1が用件を1件も渡していませんでした。工程2をどう言い直しても、渡ってきていないものは出せません。

📌 手当ての候補は「工程1に、何を添えて渡すかまで書く」ことです——「抜き出した行は、もとの本文をそのままコピーして添えてください。言い換えないでください」のように。⚠️ ただし、この一文を足した版は40回のどこにも入っていません。この記事で試したのは①〜④の4つの切り方だけです。試すなら、それは次の実測になります。

📌 実測で通った側の手当ては、④(各工程に受け取った件数を書かせる)です。4回とも止まらず12件そろいました。⚠️ ただしなぜ通ったのかは言い切れません(用件を8件ぶんしか渡さなかった回も通っているため)。

これは止まった日のメモだけで再開するで出たのと同じ形です。あちらは回をまたいで渡す話でしたが、1回の仕事の中の工程の継ぎ目でも同じことが起きました。

もとの材料も渡したら、絞り込みが消えた

4回中3回で最終が24件になりました。何も書かずに2つ並べると、下流はやり直せるほうを選びます。

📌 「これは参考です。対象は前の工程が選んだ◯件だけです」と書き足す手が考えられます。⚠️ この一文も40回のどこにも入っていません。実測から言えるのは「何も書かないと3/4回で絞り込みが消える」までで、書けば直るかは分かりません。📌 通ったのは、もとの材料を渡さない④のほうでした(4回とも12件)。

一覧は出たが、3行目が全部「記載なし」になった

件数を書かせた版の1回で起きました。工程1は期限を渡していたのに、工程2が「番号と用件」の形に整え直したので、期限のほうが落ちて工程3に届きませんでした。返り自身がこう断っています。

⚠️ お断り: 3行目に書くべき「いつまでに返事が要るか」は、いただいた一覧の本文には1件も書かれていません(前の工程の説明では「期限の記載があるもの12件」とされていますが、実際に渡ってきた行には番号・型番・用件しかありません)。推測で日付を書くことはできないため、3行目はすべて「本文に記載なし」としています。

🔑 落ちるものは工程ごとに変わります。工程1は用件を落とし、工程2は期限を落としました。1回書けば最後まで残る、にはなりません。

📌 手当ての候補は「最後まで持っていってほしい項目を、各工程の指示文に毎回書く」ことです。⚠️ これも40回では試していません(工程2の指示文に「期限もそのまま残して」と書いた版は無い)。実測から言えるのは、同じ項目が工程ごとに違うところで落ちたという事実までです。

同じ指示文なのに、工程1の返し方が毎回違う

工程1の出力は220字から875字まで開きました。長いほうは本文をそのまま添え、短いほうは番号と期限だけに畳んでいます。⚠️ 材料の文が短いほど、畳まれやすくなりました(短い口語の材料の6回のうち3回で用件が0〜1件しか残らず、丁寧な長文の材料では6回とも8件以上残りました)。

自動実行に置くなら、工程1の出力の形を決めて、2回走らせて突き合わせてください。やり方は2回ぶんの出力を自分で見比べるにあります。

真値のほうが割れることもある

正直に書きます。この実測の真値も、完全ではありませんでした。「今週中に見てもらえませんか」のような不具合の5件は、返事の期限とも直してほしい期限とも読めます。16通しのうち1回はこの5件を外して7件に絞り、もう1回は12件を出したうえで「この5件は返事の期限ではありません」と注記しました。

📌 AIの側が間違えたのではなく、こちらの線引きが粗かったということです。⚠️ 工程に分ける前に、工程1の判定が1通りに決まる書き方になっているかを確かめてください。決まらないまま分けると、下流は上流の判定を疑いません。

応用・次の一手

まず1回で全部やらせて、それで足りるなら分けないでください。この実測では、分けないほうが崩れませんでした。分けるのは、1回では材料が入りきらないときや、途中の結果を人が見たいときです。

分けると決めたら、決めることが2つ増えます。① 各工程が次へ何を渡すか(用件・期限・型番のうちどれを添えるか)。② 各工程が受け取った件数を書くか。この2つを書かないまま毎朝走らせると、画面には整った一覧が出ているのに、中身が別物になっている朝が混ざります。

📌 この記事は、うちの既存の記事を訂正する側に立ちます。要約で落としてはいけない情報を守るの「2回に分けて頼むのがコツです」は、分ければ良くなるという意味ではありません。あちらが効いているのは、番号付きの台帳を先に作らせて、次の工程がその番号を使う形——つまり渡すものを決めているからです。渡すものを決めずに分けただけの版は、この実測では2回止まりました。

同じ晩に公開した毎朝の出来ばえを3件で見張るも、同じ「定説を実測する」型です。あちらは自動点検の見せ方(3件見せれば足りる、という定説)を測り、この記事は自動処理の分け方(工程を分けたほうがよい、という定説)を測っています。

⚠️ 測っていないことも書いておきます。工程を4つ以上に増やしたらどうなるかは試していません。上流が判定を間違えた回も、16通しで1回(7件に絞った回)しか起きなかったので、「上流の誤りが下流で直るか」はほとんど測れていません。ここは次に測るところです。