これで何ができるか
全社通知が回ってきた。10節あって、読むのに10分かかる。AIに貼って「要約して」と頼む——ここまでは、たぶん多くの人がやっています。
問題はその先です。返ってきた要約は、読んでも欠けているところが分かりません。
架空の社内通知(勤怠システムの入れ替え・2,192字)を作り、落としてはいけない情報を14件、先に決めてから要約させて、1件ずつ機械で照合しました。
残るのは「いつ始まる」「いくらになる」。落ちるのは「ただし」「〜は対象外」「〜しないでください」です。原文54文のうち、そういう但し書き・禁止・対象外を含む文は10文ありました。そのうち要約に残ったのは0文です。
しかも、落ち方が2種類あります。消えるのと、条件が外れて言い切りに変わるのと。
| 原文 | 返ってきた要約 |
|---|---|
| アプリからの打刻は、社内Wi-Fiに接続しているときだけ有効です。 | スマートフォンのアプリからも打刻ができるようになります |
| 9月1日から3日以内にパスワードを変更してください。/変更されていないアカウントは9月8日に一時停止します。 | 初期パスワードを変更してください |
| 交通費の月額上限を35,000円に引き上げます。/なお、新幹線通勤の方の上限額は据え置きです。 | 交通費の月額上限が35,000円に引き上げられます |
右側の3つは、文として間違っていません。だから読み返しても引っかかりません。消えたのは「誰に効くか」と「いつまでか」だけです。
そして、ここがこの記事の中心です。
要約が短いから落ちるのではありません。何を残すかを決めていないから落ちます。458字で4件、417字で14件です。「大事なところを落とさずに要約して」と足しても、戻ったのは1件だけでした——53字ぶん長くはなりましたが、増えたぶんは説明会の日程に使われ、ただし書きは1件も戻っていません。
この記事は、残す種類を先に名指しする言い方と、もう出てきた要約を検査する言い方をまとめたものです。
前提
プログラミングは要りません。ChatGPT・Claude・Gemini のどれでも同じです。
用意するのは長い文書そのものです。社内通知、規程、契約書の説明、長いメールスレッド、他社からの提案書。Wordでも、PDFから貼り付けた崩れたテキストでも構いません。
⚠️ 社外の資料や、個人情報・金額が入るものは、そのAIに貼ってよいかを先に確かめてください。線引きの決め方はAIに「ついでに整理しておきました」と言わせないための頼み方にまとめてあります。
もう1つ、この記事を通して前提にしていることがあります。要約は「読まなくて済むもの」ではなく「原文のどこを読むかを決めるもの」です。だから、落ちたかどうかを確かめられる形で受け取ります。
AIへの頼み方
まず、効かなかった言い方から
先に外れを出しておきます。これを試して駄目だったので、下の言い方になりました。
「大事」が何を指すかを、こちらが決めていません。残す側の基準がないので、AIは「文書全体で見て中心的なこと」を選びます。ただし書きは、文書全体で見れば中心ではありません。だから落ちます。実測では、この一言を足しても残った件数は4件から5件になっただけでした。
残す種類を名指しする
効いたのはこれです。残してほしいものを「重要かどうか」ではなく「種類」で渡します。
これで14件すべてが残りました。効く理由は2つあります。
1つは、種類なら文書を読まなくても先に決められること。「大事なところ」は文書を読んでからでないと決まりませんが、「日付」「例外」「してはいけないこと」は読む前から決まっています。だから指示として渡せます。
もう1つは、AIが探し方を変えられる形になっていること。「ただし」「〜に限り」は文書の中の実際の文字です。「大事」は文字ではありません。探せる形で渡すと残り、印象で渡すと落ちます。
📌 副作用として都合がよいことが1つありました。返ってきた要約の見出しが、指定した6種類そのものになります。空の見出しがあれば「その種類は原文に無かった」と読めます——黙って落ちたのか、もともと無いのかが、要約の形で見分けられます。
短くしたいときも、種類は削らない
「6種類を全部残したら長くなるのでは」と思うところですが、逆でした。長さの指定は、種類の指定と一緒に渡せます。
これで417字・14件でした。素朴に頼んだ458字より短く、残った件数は3倍以上です。
ただし「400字以内」は守られませんでした(417字=4%超過)。字数は方向としては効きますが、上限としては当てになりません。枚数や字数が本当に決まっている場面では、出てきたものを自分で数えてください。
⚠️ 200字まで絞ると、さすがに入りません(実測5/14)。そのときは要約を伸ばすのではなく、要約とは別に一覧を出させます——次の指示文です。
すでにある要約を、あとから検査する
ここがいちばん使える形かもしれません。要約は誰が作ったものでも構いません。自分が作ったもの、同僚から回ってきたもの、別のAIが出したもの。検査だけを頼みます。
素朴な要約に対してこれを流したら、15件の引用が返りました。機械で照合したところ、15件すべてが原文にそのまま存在し、すでに要約に入っているのに「入っていない」と挙げたものは0件でした。落ちていた10件も全部拾えています。
「原文の一文をそのまま引用して」が効いています。要点をまとめさせると確かめようがありませんが、引用なら原文で Ctrl+F を押すだけで確かめられます。同じ手の使い方は調べものは「答え」ではなく「答えと出典」で受け取るにあります。
⚠️ 「要約は書き直さないでください」を付けています。付けないと、指摘の代わりに直った要約が返ってきて、何が足りなかったのかが見えなくなります。
落ちたものを「起きる事故」に翻訳させる
一覧を人に見せるなら、こちらのほうが判断しやすくなります。
返ってきたのはこういうものです(6件、引用は6/6とも原文に実在しました)。
- 「アプリからも打刻ができるようになります」を読んで、在宅の日に自宅から打刻し、記録が残らない
- 「初期パスワードを変更してください」を読んで後回しにし、9月8日にアカウントが止まる
- 「8月29日〜31日 データ移行作業」を読んで、8月31日に出勤して打刻してしまう
「何が抜けたか」より「抜けると何が起きるか」のほうが、消すか残すかを決められます。人に回す要約を仕上げるときは、こちらを最後に一度流します。
番号を付けて、引き算で確かめる
もっと固く確かめたいとき(規程・契約・手順書)は、要約の前に台帳を作ります。2回に分けて頼むのがコツです。
一覧が出たら、続けてこう頼みます。
実測では台帳20件・使われた番号20件・未使用0件でした。要約は650字です。
「要約はまだ作らないでください」が要ります。これが無いと、一覧のあとに勝手に要約が続き、抜き出しの網羅性がそこで打ち切られます。
番号が残ると、照合が引き算になります。原文と要約を読み比べる代わりに、「台帳の番号のうち、要約に出てこないもの」を数えるだけで済みます。
ただし、台帳そのものが原文どおりかは別に確かめてください。台帳が間違っていれば、番号が全部揃っていても何も保証しません。今回は20件とも原文に一致しました(原文検索で確認)。
うまくいかないときの言い直し方
6種類が自分の文書に合っていない
この6種類は社内通知で測ったものです。文書の種類が変われば、残すべき種類も変わります。「重要そうなもの」に戻さず、種類のまま入れ替えてください。
| 文書 | 足したい種類 |
|---|---|
| 契約書・利用規約 | 解約の条件、自動更新の有無、責任を負わない範囲 |
| 見積書・提案書 | 前提条件、含まれないもの、有効期限 |
| 障害・トラブルの報告 | まだ分かっていないこと、暫定と恒久の区別 |
| 議事録・打ち合わせメモ | 決まらなかったこと、次に誰が動くか |
最後の行は、要約ではなく議事録として作るほうが早いことがあります。そちらは会議の録音から、議事録と「誰の宿題か」まで出させるにまとめてあります。
要約が長くなりすぎた
⚠️ 削るのは説明・背景・経緯です。種類のほうを削って短くすると、元の状態に戻ります。「長い」と感じたときに真っ先に削りたくなるのがただし書きなので、ここは意識して逆にします。
数字が原文と合っているか不安
要約に出てくる数字は、原文の数字とずれることがあります。突き合わせは別に頼みます。
これは要約だけでなく、AIが出す数字全般に効く形です。詳しくはAIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方にあります。
長すぎて途中までしか読んでいないように見える
節ごとの件数が0になっているところが、読み飛ばされた場所です。「全部読みましたか」と聞くより、数えさせたほうが分かります。同じ考え方で出題させる話は覚えたいことは、AIに説明させるより出題させたほうが早いにあります。
応用・次の一手
自分の文書を送る側でも同じことが起きます。自分が書いた通知をAIに要約させて、消えた項目を見てください。消えたところは、読む人にも伝わっていない可能性が高い部分です。ただし書きが本文に埋もれていれば、人間の読み手も同じように読み飛ばします。
外国語の資料を要約させるときは、この記事の手を先に使ってください。訳してから要約すると、落ちた場所が原文と訳文のどちらで起きたのか分からなくなります。訳す側の話は英語の資料を、そのまま社内で回せる日本語にするまでの頼み方にあります。
最後に、この記事で分かったことをもう一度だけ書いておきます。要約に足すべきなのは「落とさないで」という気持ちではなく、「この種類は残して」という一覧です。前者は53字ぶんの水増しにしかなりませんでした。後者は、41字短いまま14件を全部残しました。
📌 この記事の実測(原文・6通りの要約・照合スクリプト)は、リポジトリの docs/evidence/summarize-without-dropping.md にそのまま置いてあります。