これで何ができるか

副業や個人事業で、同じような返信を何度も書いていませんか。受注確認・納品連絡・お断り——文面はほとんど同じで、変わるのは相手の名前と金額と日付だけ。これを毎回ゼロから打つのは、もったいない時間です。

過去に送った返信を何通かまとめてAIに渡せば、変わる場所だけ空欄にした「型」を作らせられます。次からはその空欄を埋めるだけ。ここまではよく知られた使い方です。

問題は、その頼み方です。ふつうに「毎回同じ文は固定してください」と頼むと、AIは「毎回同じ」の線を目分量で引きます。そして、ほとんど同じだが1通だけ言い回しが違う一文まで、「毎回同じ」だと思って固定してしまいます。

『ほぼ同じ』の結びの一文を誤って固定した回数を、3つの版で比べた横棒グラフ。版a(そのまま)は6回中5回、版b(+『4通全部で一致』の条件)は6回中0回、版c(+通数を申告させる)は6回中0回。他の客の固有名詞が固定部に残った回数は、3版とも18回中0回だった。
「4通すべてに一字一句同じで出る文だけ固定して」と足すだけで、誤った固定は6回中5回から0回になりました。

この記事では、架空の返信を実際にAIへ渡して、どの頼み方だと何が起きたかを数えます。

前提

かかる時間 20分
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの 過去に送った同じ種類の返信が、種類ごとに3〜4通あること
プログラミング 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです

「毎回同じ」なのか「ほぼ毎回同じ」なのかを、AIは中身から判断できません。渡した文の見た目が似ていれば、AIは「同じ」に寄せます。だから、何をもって「同じ」とみなすかを、こちらが数えられる形で渡します。

どう試したか

架空の副業の返信を、コードで12通作りました。受注確認4通・納品連絡4通・お断り4通です。各通は「毎回同じ定型部分」と「毎回変わる部分(相手の名前・案件名・金額・納期・口座名義)」からできています。同じ材料を2種類(副業ライター/ハンドメイド作家)用意しました。

その中に、引っかけを3つ仕込みました。

  • ①ほぼ毎回同じの一文 … 「ご不明な点がございましたら、お気軽にお知らせください。」が、その種類の4通中3通に出ます。残る1通だけ「ご不明な点がありましたら、お気軽にお申し付けください。」と、言い回しが違います。
  • ②3通にしか出ない、固有名詞入りの一文 … 「みなと商会の田中様にはいつもお世話になっており、」。常連の相手にだけ添えた一文です。固有名詞入りの一文を固定すると、別の客あての返信にもその会社名と個人名が入ります
  • ③全通に出るが、数字だけ違う行 … 「税込 ◯◯ 円で承ります。」

そのうえで、3つの頼み方を試しました。変えたのは「固定してよい文の決め方」の一箇所だけで、渡す12通は3つとも同じです。

版a:ふつうに頼む(もとは既存記事の一文)

下に、私がこれまでに送った返信を12通貼ります。 私がよく返している返信を3種類、型として作ってください。 型には、私が毎回書き換える場所だけを空欄にしてください。毎回同じ文は固定してください。

これは溜まったメールから「自分が動くもの」だけ抜き出させる頼み方の応用に載っている一文そのままです。「毎回同じ文」の中身を、AIの判断に任せています

版b:「4通すべてに一字一句同じ」を足す

下に、私がこれまでに送った返信を12通貼ります。 私がよく返している返信を3種類、型として作ってください。 型には、私が毎回書き換える場所だけを空欄にしてください。毎回同じ文は固定してください。 固定してよいのは、その種類の4通すべてに一字一句同じで出てくる文だけです。 1通でも言い回しの違う文は、固定せずに空欄にしてください。

「同じ」の基準を、見た目ではなく「4通すべてに一字一句同じで出る」という数え方に置き換えました。これが効きます。

版c:さらに、何通に出たか申告させる

下に、私がこれまでに送った返信を12通貼ります。 私がよく返している返信を3種類、型として作ってください。 型には、私が毎回書き換える場所だけを空欄にしてください。毎回同じ文は固定してください。 固定してよいのは、その種類の4通すべてに一字一句同じで出てくる文だけです。 1通でも言い回しの違う文は、固定せずに空欄にしてください。 固定した文を一覧にして、それぞれ、その種類の4通のうち何通に出てきたかを数字で書いてください。

固定した文が本当に4通全部に出ているのかを、自己申告で見えるようにしました

この3版を、それぞれ独立した新しいAIに、材料2種類 × 各3回ずつ、全18回送りました。返ってきた型を、こちらが作った「正解」(12通の完全一致部分をコードで確定したもの)と機械で照合しています。

何が返ってきたか

版aは、6回中5回、"ほぼ同じ"の一文を固定した

引っかけ①——4通中3通にしか出ない結びの一文を、版aは6回中5回、「毎回同じ文」として型に固定しました。1通だけ言い回しが違うことに気づかず、多数派の言い方で埋めています。版bと版cは6回とも0回。「4通すべてに一字一句同じ」という条件を足しただけで、消えました。

18回すべての結果を並べたマス目。A列3回・B列3回を版a・版b・版cで比べている。版aはA-1だけ正しく空欄にし、A-2・A-3・B-1・B-2・B-3の5回は誤って固定した。版bと版cはA-1からB-3まで6回とも正しく空欄にした。
18回すべての結果です。青が正しく空欄にした回、赤が誤って固定した回。版aの赤が、そのまま送信事故になります。

なぜこれが事故かというと、「お知らせください」で固定された型を、次に別の相手に使うと、本当は「お申し付けください」と書いていた相手にも一律で送られるからです。たった一語の違いですが、相手ごとに言葉を選んでいた工夫が、型を作った時点で消えます。

意外だった:相手の名前は、3版とも一度も焼き付かなかった

試す前は、引っかけ②——「みなと商会の田中様にはいつもお世話になっており、」のような固有名詞入りの一文が、別の型に焼き付くのではないかと見ていました。ところが、他の客の会社名・個人名が固定部分に残った回は、3版とも18回中0回でした。AIは、明らかに特定の相手を指す一文は、頼まなくても空欄扱いにしています。

危ないのは、名前のような「いかにも変わる部分」ではなく、結びの挨拶のような「いかにも変わらない部分」でした。似すぎていて、こちらも見落とす場所です。試す前の見立てが外れたので、正直に書いておきます。

版cの申告は、確認の材料にはなる

版cは「この文は4通中4通に出ました」と一覧で申告してきました。この申告自体はおおむね正確で、固定してよい文かどうかを自分の目で確かめる材料になります。ただし、誤固定を止めた決め手は版bの「4通すべてに一字一句同じ」の一文で、版cの申告を足しても、止まる件数は版bと変わりませんでした(どちらも0回)。申告は「見えるようにする」ためのもので、「止める」のは版bの条件です。

さらに念を押す言い方(ここも試しました)

上の3版に加えて、次の3つも同じ材料で試しました(いずれも各1回だけの結果です)。どれも狙いどおりに動きました。

まず、消してしまう代わりに両方の言い回しを残させる言い方。

「ご不明な点が〜」のように、ほとんど同じだが1通だけ言い回しが違う文があれば、削らずに両方の言い回しを書いて、状況に応じて選べるようにしてください。

これを版aの末尾に足したところ、結びの一文を1つに固定せず、「ご不明な点がございましたら…/(言い回し違い:ご不明な点がありましたら…)」と両方を併記して返しました。消さずに残したい人はこれが使えます。

次に、型を作らせる前に、違いだけ先に報告させる言い方。

型を作る前に、下の返信の中で、同じ種類なのに言い回しが違う一文があれば、先に教えてください。まだ型は作らないでください。

これは「受注確認の3通目だけ、結びが『ございましたら/お知らせください』ではなく『ありましたら/お申し付けください』になっています」と、引っかけ①をピンポイントで指摘してきました。作らせる前に自分で判断できます。作る前にいったん止める考え方は材料が足りないとき、AIに埋めさせず止める頼み方と同じです。

最後に、できた型を自分で点検させる言い方。

型ができたら、他の客の会社名や個人名が、別の型の固定した部分に残っていないか、自分で確認して報告してください。

これは「固定部分に他の客の名前は残っていません」と報告したうえで、「みなと商会の田中様に…」の一文は特定の相手を指すので、空欄化の見落としがないか自分でも確認してほしいと、自分の作業の危ういところまで書いてきました。自己点検の言い方については「たぶん動きます」と言わせないための頼み方も同じ考え方です。

応用・次の一手

型を作らせたら、送る前に必ず自分で1通読んでください。この記事で見たとおり、危ないのは名前のような目立つ部分ではなく、結びの挨拶のような目立たない部分です。型のまま送信を自動化しないでください。画面に出る前に送られたら、一語の違いが混ざったことに気づけません。

「1通を型にして次を書かせる」のは、この記事とは逆に危ない使い方です。取引先への返事をAIに整えさせると、自分が決めた条件のほうが緩むの実測では、先週の文面を型として渡すと、その言葉が今週の中身を上書きし、9件の事実のうち残ったのは2件でした。1通を丸ごと型にすると、今週の事実が先週の言い回しに飲まれます。この記事でやったのは、複数通から「共通部分だけ」を抜くことで、上書きとは別の作業です。混同しないでください。

型が育ってきたら、変わる部分の一覧のほうを1つのファイルにまとめておくと、次からはそこを見るだけで済みます。同じ連絡が毎週あるなら「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせるで下書きだけ自動で用意させる形にもできますが、送信そのものは手元に残してください

同じ日に公開した「中5営業日」の納期をAIに計算させるも、副業の定型作業を自動化の手前まで持っていく話です。あちらは「休みの一覧」という材料を渡すところまでで止め、この記事は「共通部分の型」を抜くところまでで止めています。どちらも、最後の送信・提出はAIに預けていません。