これで何ができるか
副業や個人事業で、同じような返信を何度も書いていませんか。受注確認・納品連絡・お断り——文面はほとんど同じで、変わるのは相手の名前と金額と日付だけ。これを毎回ゼロから打つのは、もったいない時間です。
過去に送った返信を何通かまとめてAIに渡せば、変わる場所だけ空欄にした「型」を作らせられます。次からはその空欄を埋めるだけ。ここまではよく知られた使い方です。
問題は、その頼み方です。ふつうに「毎回同じ文は固定してください」と頼むと、AIは「毎回同じ」の線を目分量で引きます。そして、ほとんど同じだが1通だけ言い回しが違う一文まで、「毎回同じ」だと思って固定してしまいます。
この記事では、架空の返信を実際にAIへ渡して、どの頼み方だと何が起きたかを数えます。
前提
| かかる時間 | 20分 |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 過去に送った同じ種類の返信が、種類ごとに3〜4通あること |
| プログラミング | 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです |
「毎回同じ」なのか「ほぼ毎回同じ」なのかを、AIは中身から判断できません。渡した文の見た目が似ていれば、AIは「同じ」に寄せます。だから、何をもって「同じ」とみなすかを、こちらが数えられる形で渡します。
どう試したか
架空の副業の返信を、コードで12通作りました。受注確認4通・納品連絡4通・お断り4通です。各通は「毎回同じ定型部分」と「毎回変わる部分(相手の名前・案件名・金額・納期・口座名義)」からできています。同じ材料を2種類(副業ライター/ハンドメイド作家)用意しました。
その中に、引っかけを3つ仕込みました。
- ①ほぼ毎回同じの一文 … 「ご不明な点がございましたら、お気軽にお知らせください。」が、その種類の4通中3通に出ます。残る1通だけ「ご不明な点がありましたら、お気軽にお申し付けください。」と、言い回しが違います。
- ②3通にしか出ない、固有名詞入りの一文 … 「みなと商会の田中様にはいつもお世話になっており、」。常連の相手にだけ添えた一文です。固有名詞入りの一文を固定すると、別の客あての返信にもその会社名と個人名が入ります。
- ③全通に出るが、数字だけ違う行 … 「税込 ◯◯ 円で承ります。」
そのうえで、3つの頼み方を試しました。変えたのは「固定してよい文の決め方」の一箇所だけで、渡す12通は3つとも同じです。
版a:ふつうに頼む(もとは既存記事の一文)
これは溜まったメールから「自分が動くもの」だけ抜き出させる頼み方の応用に載っている一文そのままです。「毎回同じ文」の中身を、AIの判断に任せています。
版b:「4通すべてに一字一句同じ」を足す
「同じ」の基準を、見た目ではなく「4通すべてに一字一句同じで出る」という数え方に置き換えました。これが効きます。
版c:さらに、何通に出たか申告させる
固定した文が本当に4通全部に出ているのかを、自己申告で見えるようにしました。
この3版を、それぞれ独立した新しいAIに、材料2種類 × 各3回ずつ、全18回送りました。返ってきた型を、こちらが作った「正解」(12通の完全一致部分をコードで確定したもの)と機械で照合しています。
何が返ってきたか
版aは、6回中5回、"ほぼ同じ"の一文を固定した
引っかけ①——4通中3通にしか出ない結びの一文を、版aは6回中5回、「毎回同じ文」として型に固定しました。1通だけ言い回しが違うことに気づかず、多数派の言い方で埋めています。版bと版cは6回とも0回。「4通すべてに一字一句同じ」という条件を足しただけで、消えました。
なぜこれが事故かというと、「お知らせください」で固定された型を、次に別の相手に使うと、本当は「お申し付けください」と書いていた相手にも一律で送られるからです。たった一語の違いですが、相手ごとに言葉を選んでいた工夫が、型を作った時点で消えます。
意外だった:相手の名前は、3版とも一度も焼き付かなかった
試す前は、引っかけ②——「みなと商会の田中様にはいつもお世話になっており、」のような固有名詞入りの一文が、別の型に焼き付くのではないかと見ていました。ところが、他の客の会社名・個人名が固定部分に残った回は、3版とも18回中0回でした。AIは、明らかに特定の相手を指す一文は、頼まなくても空欄扱いにしています。
危ないのは、名前のような「いかにも変わる部分」ではなく、結びの挨拶のような「いかにも変わらない部分」でした。似すぎていて、こちらも見落とす場所です。試す前の見立てが外れたので、正直に書いておきます。
版cの申告は、確認の材料にはなる
版cは「この文は4通中4通に出ました」と一覧で申告してきました。この申告自体はおおむね正確で、固定してよい文かどうかを自分の目で確かめる材料になります。ただし、誤固定を止めた決め手は版bの「4通すべてに一字一句同じ」の一文で、版cの申告を足しても、止まる件数は版bと変わりませんでした(どちらも0回)。申告は「見えるようにする」ためのもので、「止める」のは版bの条件です。
さらに念を押す言い方(ここも試しました)
上の3版に加えて、次の3つも同じ材料で試しました(いずれも各1回だけの結果です)。どれも狙いどおりに動きました。
まず、消してしまう代わりに両方の言い回しを残させる言い方。
これを版aの末尾に足したところ、結びの一文を1つに固定せず、「ご不明な点がございましたら…/(言い回し違い:ご不明な点がありましたら…)」と両方を併記して返しました。消さずに残したい人はこれが使えます。
次に、型を作らせる前に、違いだけ先に報告させる言い方。
これは「受注確認の3通目だけ、結びが『ございましたら/お知らせください』ではなく『ありましたら/お申し付けください』になっています」と、引っかけ①をピンポイントで指摘してきました。作らせる前に自分で判断できます。作る前にいったん止める考え方は材料が足りないとき、AIに埋めさせず止める頼み方と同じです。
最後に、できた型を自分で点検させる言い方。
これは「固定部分に他の客の名前は残っていません」と報告したうえで、「みなと商会の田中様に…」の一文は特定の相手を指すので、空欄化の見落としがないか自分でも確認してほしいと、自分の作業の危ういところまで書いてきました。自己点検の言い方については「たぶん動きます」と言わせないための頼み方も同じ考え方です。
応用・次の一手
型を作らせたら、送る前に必ず自分で1通読んでください。この記事で見たとおり、危ないのは名前のような目立つ部分ではなく、結びの挨拶のような目立たない部分です。型のまま送信を自動化しないでください。画面に出る前に送られたら、一語の違いが混ざったことに気づけません。
「1通を型にして次を書かせる」のは、この記事とは逆に危ない使い方です。取引先への返事をAIに整えさせると、自分が決めた条件のほうが緩むの実測では、先週の文面を型として渡すと、その言葉が今週の中身を上書きし、9件の事実のうち残ったのは2件でした。1通を丸ごと型にすると、今週の事実が先週の言い回しに飲まれます。この記事でやったのは、複数通から「共通部分だけ」を抜くことで、上書きとは別の作業です。混同しないでください。
型が育ってきたら、変わる部分の一覧のほうを1つのファイルにまとめておくと、次からはそこを見るだけで済みます。同じ連絡が毎週あるなら「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせるで下書きだけ自動で用意させる形にもできますが、送信そのものは手元に残してください。
同じ日に公開した「中5営業日」の納期をAIに計算させるも、副業の定型作業を自動化の手前まで持っていく話です。あちらは「休みの一覧」という材料を渡すところまでで止め、この記事は「共通部分の型」を抜くところまでで止めています。どちらも、最後の送信・提出はAIに預けていません。