これで何ができるか
毎月「先月比」「前月比」を自動で出す。決まった時刻に動かす仕掛けに載せれば、翌月からは数字だけが届きます。
この記事が扱うのは、先月の確定値そのものが、後から直ることがある場合です。記帳漏れ、電話受付だけでシステムに未登録だったもの、システム障害での二重登録扱い——先月分の記録に、月をまたいで判明する抜けや誤りは珍しくありません。締めをまたいだ行の記事が扱ったのは「その行がどちらの月にも入らない」問題でしたが、この記事が扱うのは一段先です。先月の集計はもう確定して保存済み。そこへ後から3件の訂正が見つかったとき、今月の「前月比」はどちらの数字を使うか。
架空の記録を2本(税理士事務所の相談受付件数、雑貨ネットショップの売上)作り、先月(8月)の確定値を記録ファイルに固定値として持たせたうえで、9月に入ってから判明した8月分の記録漏れを3件ずつ仕込みました。4通りの頼み方を、材料2本×各2回=8回、言い直し用の3つも各2回試して、合わせて18回通しています。判定はすべて数字の照合です。
分かったことは3つです。
① 見出しに「まだ反映されていません」と書いてあれば、指示しなくても直ります。そのまま「先月比を出して」と頼んだ回・念のため「直してから比較して」と明示した回、あわせて8回とも正しい訂正後の値(材料A=28件・材料B=97,000円)を使いました。「AIは後から見つかった記録に気づかない」という記事ではありません。
② 見出しから「まだ反映されていません」を外すと、化けます。指示文は1文字も変えずに、材料側の見出しを「メモ」に変えただけで、件数の記録は「二重登録扱い」という一言を引き算の理由と読み違え、2回とも26件(正しくは28件)で止まりました。訂正後の正しい前月比は▲14.3%ですが、この誤りだと▲7.7%にしかなりません。
③ 金額の記録では、化け方が違いました。同じ「メモ」の見出しで、金額の記録はAIが数字を確定させず、2回とも「確認してから」と保留にしました。断定はしませんでしたが、その確認を求める文の中で、訂正額の合計そのものを14,400円ではなく8,600円と計算違いした回が1回ありました。
前提
| かかる時間 | 30分。毎月の自動実行に載せる前に1回だけやります |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、先月分の確定値・今月分の記録・後から見つかった記録(あれば) |
| プログラミング | 不要。表計算ソフトも要りません |
⚠️ この記事が試したのは先月分の訂正を前月比に反映するかどうかだけです。月と月のあいだで行そのものがどちらの月にも入らない事故は、締めをまたいだ行の記事が扱っています。先月の集計自体は正しく締まっている前提で、そこへ後から訂正が来た場合の話です。
⚠️ 税務や決算の数字をこれで確定させないでください。この記事が渡すのは「後から見つかった記録を、こちらの狙いどおりに拾わせる頼み方」までです。何を先月分として計上するかは会社の規則の話です。
📌 「今日は本当に0件だったのか」を毎日見張る話は0件アラームの記事、材料そのものが1日古くないかを見張る話は材料が1日古い日を見張る記事にあります。この記事はその先、月をまたいで確定値そのものが動いたときを見ます。
AIへの頼み方
1. まず、そのまま頼んでみる
先月の確定値と、後から見つかった記録の両方を材料に含めて、いつもどおり頼みます。「後から見つかった記録」欄には「まだ8月の集計には反映されていません」と一言添えてあります。
材料は相談受付の記録(9月ぶん24件、8月の確定件数は記録ファイルに25件と固定値で保存済み、後から見つかった3件を別枠で用意)です。2回とも、こう返りました。
8月の確定件数「25件」には、後から見つかった3件(R-383・R-384・R-385)がまだ反映されていません。この3件は本来8月分の相談として計上されるべきなので、比較の基準をどちらにするかで結果が変わります。(中略)実務上は修正後の28件との比較(−4件・約−14.3%)をおすすめします。
同じ形の指示文を、売上の記録にも試します。
材料は売上の記録(9月ぶん91,100円、8月の確定売上82,600円、後から見つかった3件で合計14,400円)です。2回とも訂正額14,400円を正しく足し戻し、8月の実質額97,000円との比較(▲5,900円・約▲6.1%)に自分からたどり着きました。1回は「▲6.1%を採用することをおすすめします」と明言、もう1回は数字は合っているものの「そのまま報告せず先に確認したほうがよい」と結論を保留しました。
📌 見出しに「まだ反映されていません」と書いてあれば、指示文を足さなくても直ります。これは材料が1日古い日を見張る記事で分かった「記録の中だけで機械的に決まる欠けは、頼まなくても出る」と同じ型です。
2. 念のため、明示的に直すよう頼む
指示文にも「直してから比較して」と一文足してみます。
相談受付の記録で2回とも28件・▲14.3%。売上の記録に同じ形の指示文(「先月の確定売上をそちらで直してから比較して」)を試すと、こちらは2回とも迷わず97,000円・▲6.1%を最終結論にしました——1つ前の指示文では1回だけ「確認してから」と保留した売上の記録が、明示的な一文を足すと2回とも断定に変わっています。
⚠️ ただし、この明示的な一文による上乗せは、件数の記録では確認できませんでした。1つ前の指示文(見出しにだけ「まだ反映されていません」と書いてある)と、結果はまったく同じです。効いていたのは指示文の一文ではなく、材料側の見出しのほうでした。
3. 見出しから「まだ反映されていません」を外すと
指示文は1文字も変えず、材料側だけを変えます。見出しを「後から見つかった記録」から「メモ」に変え、「まだ8月の集計には反映されていません」の一言も外しました。R-385の備考も「予約システムの障害で二重登録扱いになり消えていた」から「予約システムの障害で二重登録扱いになっていた」に、経緯の説明を短くしています。
【メモ】
受付番号 本来の日付 依頼主 区分 備考
R-383 8/29 松井様 確定申告 受付メモが別ファイルに残っていた
R-384 8/30 西村工業 記帳代行 電話受付のみでシステム未登録
R-385 8/31 岡田商店 決算相談 予約システムの障害で二重登録扱いになっていた
指示文1とまったく同じ文面で送ると、2回とも同じ誤り方をしました。
R-383(松井様・確定申告): システムに未計上 → +1件 R-384(西村工業・記帳代行): 電話受付のみでシステム未登録 → +1件 R-385(岡田商店・決算相談): 予約システム障害で二重登録扱い → 25件の中で1件分を重複カウントしている可能性が高いため −1件
これを反映すると、8月の実質件数は 25 + 1 + 1 − 1 = 26件 となります。
正しい訂正後の件数は28件(3件とも加算)です。「二重登録扱い」という一言だけを、2回とも独立に「引き算の理由」として読みました。指示文はまったく同じなので、化けたのは材料側の見出しと、備考のわずかな言い換えです。
同じことを売上の記録にも試すと、化け方が違いました。2回とも数字を確定させず、「確認してから」と質問を返しました。ただし1回は、その確認を求める文の中で訂正額の合計そのものを14,400円ではなく8,600円と計算違いしています(3件の内訳を自分で書き出していながら、足し算が合っていません)。
🔑 件数の記録は自信たっぷりに間違った数字で止まり、金額の記録は確認を求めて止まりました。どちらも「見出しが無いと直らない」のは同じですが、止まり方の質が違います。
4. 理由の書き方によらず、必ず加算するよう名指しする
材料側の見出しを直せないとき(他部署が作った記録ファイルをそのまま使う、など)は、指示文のほうで名指しします。
同じ「メモ」版の材料に2回試すと、2回とも28件・▲14.3%で真値と一致しました。
【メモ】欄の3件は、備考が「別ファイルに記録」「電話受付のみでシステム未登録」「二重登録扱いになっていた」といった内容であっても、指示のとおり除外・減算せずすべて8月分の未計上件数として加算しています。
材料側の見出しを1文字も直さなくても、指示文で「理由の書き方にかかわらず」と名指しすれば直りました。
⚠️ この指示文は、本当に二重登録だった行まで機械的に加算します。「必ず加算」は今回の材料(3件とも本来は加算すべきもの)には効きましたが、もし本物の重複行が混ざっていたら、それも数え上げてしまいます。【メモ】欄に入れる前に、加算すべき行だけを人が選んでおくほうが安全です。
5. 自動実行にそのまま載せる形にする
出す欄と順番を固定し、何を確認したかも見える形にします。
2回とも、こう返りました。
【先月の確定値】
25件
【先月分の追加】
R-383 8/29 松井様 確定申告
R-384 8/30 西村工業 記帳代行
R-385 8/31 岡田商店 決算相談
【前月比】
先月分合計:25件+3件=28件
今月件数:24件
差:24件-28件=-4件
増減率:-4/28=約-14.3%
【先月分の追加】に3件とも並び、除外は0件、前置きも無し。2回とも1文字も違わない構成でした。毎月保存するファイルには、この3つの見出しごとそのまま残せます。【先月分の追加】に何行並んだかを、翌月見直せば「今月は先月分の訂正が何件あったか」がそのまま記録に残ります。
うまくいかないときの言い直し方
先月比の符号そのものが反転する
実測でも起きました(売上の記録で+10.3%→▲6.1%)。見た目が「増えた」と「減った」で正反対になるので、確定値をそのまま使うと報告の結論そのものが変わります。先月分の記録に後から訂正が入りうる業務(記帳・受付・在庫)では、先月の確定値を使う前に「メモ」や「後から見つかった記録」の欄が無いかどうかを、まず確認してください。
「二重登録」のような一言が、引き算の理由に読まれる
見出しに「まだ反映されていません」と書いていないと起きます。「AIへの頼み方」4番の「理由の書き方にかかわらず、必ず加算する」という一文を足してください。それでも不安なら、こちらの側で先に加算対象だけを選んでおくのが確実です。
内訳を書かせると、合計は合っていても中身が違う
実測で1回、区分別の内訳(決算相談・記帳代行・確定申告・節税相談)を書かせたところ、合計の24件は真値と一致していたのに、内訳の数字(6件・6件・6件・6件)は真値(7件・6件・6件・5件)と違っていました。これは終わった記録から時給を出す記事でも出た型で、まとめる数が増えるほど、内訳のような二次的な数字が崩れやすくなります。内訳が要るなら、別の指示で行番号ごとに区分だけを書き出させ、こちらで数え直してください。
金額の記録では、AIが数字を確定させず止まることがある
安全側の挙動ですが、自動実行にそのまま流すと、返ってきた文に前月比の数字が入っていない回が出ます。「結論は必ず1つの数字にしてください」と付け加えると直りました。
「メモ」版の売上の記録に2回試すと、2回とも最後の1行に前月比:-6.1%が置かれました。1回は「一点だけお伝えしておきます。S-685は…返品なら、これを+4,800円としてそのまま8月の売上に足すと…集計が歪みます。ご指示に従って今回は『加算』として計算していますが…」と注意書きを添えつつ、それでも指示どおり最後の1行には確定した数字だけを書きました。注意書きが要る場面でも、最後の結論欄を1つに固定すれば、その1行だけを拾う仕組みが組めます。
応用・次の一手
先月分の記録に後から訂正が入りうる業務なら、この記事の頼み方がそのまま使えます。経費の追加請求、在庫の棚卸し誤差、勤怠の打刻修正——名前が変わるだけで、やることは同じです。
⚠️ 材料側の見出しを変えられるなら、そちらを直すのがいちばん確実です。「まだ反映されていません」の一言があるだけで、指示文を足さなくても8回とも正しく直りました。指示文で名指しする4番の形は、材料を直せないときの保険として使ってください。
📌 まだ手で毎月やっているなら、先に手で2か月ぶんやってください。この記事の指示文は、手でやるときにもそのまま使えます。【先月分の追加】に何が並ぶか一度見てから、決まった時刻に動かす仕掛けに載せてください。
⚠️ この記事は「後から見つかった記録が前月比に反映されるか」までです。行そのものがどちらの月にも入らない事故は締めをまたいだ行の記事、今日が本当に0件だったかは0件アラームの記事が扱っています。