これで何ができるか
AIで文章を書く人が増えたぶん、「AIに書かせたが、そのままでは出せない原稿」を人が直す仕事が生まれています。ココナラには「AI生成文章の校正・修正」という独立した区分があり、2026-09-03 に開いた時点で 215件の出品が並んでいました。
この仕事でいちばん困るのは、着手する前に「どれだけ直すことがあるのか」が分からないことです。読み終わるまで分からないなら、見積もりも出せません。
この記事は、原稿を直す前に、直す場所を数えて一覧にさせる頼み方を実測でまとめます。仕込みのある架空の原稿を使い、11通りの頼み方(このあとの7つと、言い直し方の4つ)をのべ24回試しました。
先に結論を3つ書きます。
- 素朴に「直してください」でも、はっきりした誤りはよく直る。問題を10件仕込んだ原稿で、6回とも10件全部が直りました
- ただし「どちらが正しいか分からない矛盾」は、聞かれずに片方へ決められる。「会議室は3部屋」と「合計4部屋」の食い違いは、6回中4回、確認を求められないまま統一されました
- 直させる前に一覧を出させると、数えられる。さらに「これで全部ですか」と聞き直すと、1巡目に無かった指摘が5件増えました
前提
| かかる時間 | 20分(原稿1本ぶん) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 用意するもの | 発注者から受け取った原稿と、発注時の指示(あれば) |
| プログラミング | 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです |
この仕事がどこにあり、いくらで出ているかは、出品ページを開けば分かります。相場表はないので、価格は出品ごとに見るしかありません。
以下の実測は、架空のコワーキングスペース紹介文(AIが書いた下書きという設定・約700字)に、問題を10件仕込んだもので行いました。仕込みは、誤字2件(「25,000で利用できます」の円抜け・「事前にの予約」)、数字の矛盾1件(会議室が3部屋と4部屋)、根拠のない断定1件(「必ず成功します」)、同じ決まり文句の重複2件(「〜と言えるでしょう」)、文体の混在1件(1文だけ「である」調)、意味の重複1件(「様々な多様な」)、主語不明の受け身1件、施設名の表記ゆれ1件です。判定はすべて Python の文字列照合で行いました。試した記録は docs/evidence/fix-ai-drafts-for-pay.md にあります。
AIへの頼み方
1. まず素朴に「直してください」と頼んで、何が起きるかを見る
最初に、いちばん短い頼み方の結果を見ておきます。これでも、はっきりした誤りはよく直ります。
3回試して、3回とも仕込んだ10件が10件とも直りました。誤字も、文体の混在も、意味の重複も、根拠のない断定も残っていません。触ってほしくない数字(12席・15,000円・入会金無料の告知)も3回とも残りました。
問題は、直った原稿だけを見ても「何が悪かったのか」が分からないことです。納品するときに「ここを直しました」と説明できませんし、そもそも作業前に見積もることができません。
2. 「まだ直さないで」を足して、一覧だけ出させる
順番を入れ替えます。直すのは後で、まず数えます。
2回試して、2回とも本文には手が付けられず、一覧だけが返りました。「まだ本文は直さないでください」の一文が、直った原稿を先に出させないための歯止めです。これが無いと、1番のように完成品が返ってきて、途中経過が消えます。
しかも、仕込んだ10件に加えて、こちらが仕込んでいない指摘が出ました。たとえばこれです。
「新規オープン」と既存の利用実績の矛盾:文中で「利用者様の中には…いらっしゃいます」「企業様の声を多数いただいております」など、すでに一定期間営業している前提の記述があるのに、末尾で「新規オープンを記念して」となっている。
これは私が仕込んだ問題ではありません。書いた本人(この場合は原稿を作ったAI)が気づいていない矛盾です。発注者に返す価値があるのは、こういう指摘のほうです。
3. 一覧の各行に、原稿の一文をそのまま引用させる
一覧が本当に原稿を読んで作られたのかを、自分で確かめられる形にします。足すのは一文だけです。
2回試して、返ってきた引用は1回目が10件、2回目が12件の合計22件。そのうち21件は原稿にそのまま在る文字列でした(Python の文字列照合で確認。無い文を作り出したものは0件)。
残る1件は「PORTAL」/「ポータル」という書き方で、2つの語をスラッシュでつないだ表記でした。どちらの語も原稿にありますが、この形の一文は原稿にありません。表記ゆれを指摘するときだけ、引用ではなく対比の形になったわけです。⚠️ 引用のつもりで受け取ると、原稿を検索しても見つかりません。
引用が付いていると、一覧を上から見て、原稿の該当箇所と1行ずつ突き合わせられます。これは納品物の一部としてそのまま使えます。指摘だけの一覧は、受け取った発注者が探し直す手間を生みます。
4. 種類に分けさせて、作業の重さを見積もる
誤字を直すのと、事実の矛盾を解くのは、かかる手間がまるで違います。だから先に分けます。
2回試して、2回とも4種類すべてに項目が入りました。ここで分かることが2つあります。
①に入った項目は、自分では直せません。会議室が3部屋なのか4部屋なのかは、発注者に聞くしかありません。①の件数がそのまま「発注者への質問の数」になります。
③④に入った項目は、ほぼ機械的に片づきます。見積もりを出すなら、①の重さで決めることになります。
⚠️ 分類の枠は、こちらが決めた4つに押し込まれます。実測では施設名の表記ゆれが③の誤字脱字に入りました。表記ゆれは誤字ではありませんが、他に行き先がないからです。枠に無い種類は、いちばん近い枠へ吸い込まれます。
5. 直させるときは、件数を最後に書かせる
一覧を確認して、直す段階に進むときの形です。
3回試して、3回とも「直した箇所の数:10」と返り(表記は「10箇所」が2回・「10か所」が1回)、実際に直っていた数(仕込み10件)と一致しました。数えるものが原稿の中に閉じていたので、申告がずれる余地が小さかったのだと考えられます。
ただしこの件数は、直したものの数であって、直すべきだったものの数ではありません。2番・4番で見たとおり、一覧を先に出させたときには、この10件の外側にも指摘が出ています。件数だけを見て「全部直った」と読まないでください。
6. 「これで全部ですか」と、もう一度通させる
一覧を1回もらって終わりにしないための一言です。同じ会話の続きで送ります。
1回だけの試行ですが、結果ははっきりしていました。1巡目は重複を除いて11件。2巡目で、1巡目には無かった指摘が5件増えました(合計16件)。
増えたのは「同じ言い回しが2文続いて単調」「『アクセス』と『ロケーション』で意味が重なっている」といった、白黒のつかない種類です。誤字や数字の矛盾は1巡目でほぼ出そろっていました。
最後の「見落としが無ければ『見落としはありません』とだけ書いてください」も入れておいてください。これが無いと、増えるものが無くても何かを書き足そうとして、指摘が水増しされます。行き先を作っておくと、そこで止まります。
7. 自分で決められないものは、質問文にさせる
この仕事でいちばん危ないのは、発注者にしか決められないことを、こちらが勝手に決めて納品することです。分けさせます。
2回試して、2回とも「そのまま直してよい箇所」と「発注者に確認すべき箇所」の2つに分かれ、後者はそのまま送れる質問文の形で返りました。
「個人ブースは全部で12席、会議室は3部屋ご用意しております」の直後に「会議室は…合計4部屋のバリエーション」とあり、会議室の数が3部屋と4部屋で矛盾しています。実際の会議室数と部屋タイプの種類を教えていただけますか?
同じ矛盾を、1番の「直してください」で処理させたときはこうなりました。6回のうち4回は、部屋数を片方に決めたうえで、確認を求める言葉がありませんでした。しかも決めた数は割れていて、4回が「4部屋」、2回が「3部屋」です。原稿には正解が書かれていないので、これは推測でしかありません。
同じ材料でも、頼み方を変えるだけで「勝手に決める」から「聞いてくる」へ変わります。
うまくいかないときの言い直し方
一覧に、原稿と関係ない改善提案が混ざる
「もっと訴求力を上げたほうがよい」のような提案が混ざると、直しの範囲が膨らみます。範囲を先に切ってください。
1回だけ試した結果、(1)に4件・(2)に7件で分かれました。⚠️ ここで見ておくべきことがあります。「必ず成功します」が(2)の側に入りました。誤字でも数字の矛盾でもないので、機械的には正しい分け方です。ですが(1)だけを直す約束をすると、いちばん危ない一文が手つかずで残ります。(2)に入った項目は、直さないとしても発注者に必ず伝えてください。
範囲の切り方そのものは「ついでに整理しておきました」と言わせない頼み方に詳しくまとめてあります。
直させたら、原稿が別人の文章になった
まるごと直させると、発注者の書きぶりまで置き換わります。納品物が「発注者の文章」でなくなると、修正ではなく書き直しです。
1回だけ試した結果、変わった文は11、並べられた行も11で一致しました(Python で文の単位に割って差分を取って確認)。並べさせる形は効きます。
⚠️ ただし1行の中身は見てください。「〜と言えるでしょう」を直すはずの行に、「通信速度は1Gbpsを実現しており」→「回線速度は最大1Gbpsに対応しており」という書き換えが同居していました。並べられているので隠されてはいませんが、言い回しの直しに、数字の意味を変える直しが混ざります。
言い回しを守らせる頼み方は誤字と重複だけ直させて、自分の言い回しは残す頼み方にあります。⚠️ あちらの実測では、AIの「直した箇所」の申告が7件で、実際の差分は13件でした。原稿と指示文が変われば結果も変わります。差分は自分で見てください。
発注者から「AIを使うな」と言われている
これは頼み方の問題ではありません。発注元の指示が先です。AI利用の可否は案件ごとに違い、禁止・申告義務・制限なしのどれもあります。募集要項に書かれていないときの確かめ方はその仕事、AIを使っていいのか——募集要項に書いていないときの確かめ方にまとめてあります。
質問を出しすぎて、発注者に嫌がられそう
1回だけ試した結果、質問は3件に減りました。残ったのは、会議室の部屋数・「必ず成功します」を残すかどうか・「新規オープン」と実績の記述が食い違う件です。どれも原稿の中に答えが書かれていないものだけが残りました。
⚠️ 外れた側も読んでください。施設名の表記ゆれは、質問から外れたうえで「見出しは英字・本文中はカタカナで使い分ける」という方針が付けられていました。こちらは頼んでいません。質問を減らすと、減らしたぶんはAIの判断で埋まります。
応用・次の一手
受ける前に、AIの利用可否を確かめる。この記事は原稿を受け取った後の話です。受ける前に見るところはその仕事、AIを使っていいのかにあります。
自分が書く側に回るときは、納品前の検品に同じ形が使えます。発注書と原稿を突き合わせる頼み方は副業ライティングの納品前検品を、AIに「直させずに」やらせるにまとめました。⚠️ あちらの実測では、自分で並べた判定表には8件のNGがあるのに、冒頭の要約では「7つ」と書かれていました。この記事の5番の件数も、同じ性質のものとして扱ってください。
同じ形の案件が続くなら、指示文を固定する。発注者ごとに原稿は違っても、一覧の出させ方は毎回同じです。
1回だけ試した結果、返ってきた指示文は3番とほぼ同じ形で、末尾に 【ここに原稿を貼り付ける】 という差し替え目印が1か所だけ立っていました。毎回変えるのはそこだけです。
固定できたら、次は貼る作業そのものを減らせます。決まった時刻に自動で走らせる形は「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせるに続きます。
⚠️ この記事の実測は、架空の原稿1本で行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや原稿によって変わります。変わらないのは、直す前に数えられる形にしておけば、見積もりも、発注者への質問も、納品時の説明も、同じ一覧から出せるという順番のほうです。そして原稿の中に答えが書かれていない矛盾は、誰に聞いても分かりません。発注者に聞いてください。