これで何ができるか
副業のライティングでは、「クライアントの過去原稿と同じ文体で書いてほしい」と頼まれることがあります。見本の文章をそのまま渡すのと、特徴を言葉で説明するだけなのとで、AIの再現のしかたは同じではありません。この記事は、どちらが実物に近い結果になるかを、数えられる形で実測しました。
架空の2つのブログ文体を用意しました。
- くだけた文体(猫の爪とぎレビュー)=文末に「〜んですよね」を多用、1文は短め、「ちなみに」で話題を変える
- 硬い文体(シャープペンシルレビュー)=「〜である」調、1文は長め、「そもそも」で一般論を挟む
見本を渡すと、文末パターンの比率は実物にかなり近い値になりました(くだけた文体=77%、実物は78%)。ところが言葉だけで「〜んですよね」を多用するよう頼むと、全文がその文末になりました(100%)——実物より多く出てしまいます。接続詞の回数も同じ傾向で、見本を渡した版は実物どおり毎回2回でしたが、言葉だけの版は硬い文体で平均3.25回。実物の1.6倍です。
前提
| かかる時間 | 15分 |
| 費用 | 無料。ブラウザのチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 自分(または過去のクライアント案件)が書いた、公開してよい過去の原稿 |
| プログラミング | 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです |
この記事が測ったのは「文体の特徴がどれだけの比率で出力に出たか」という機械で数えられる範囲だけです。読んだ人が「本人らしい」と感じるかという、もっと曖昧な一致度は測っていません。見本に使う文章は、他人の文章や著名な書き手の文体の模倣には使わないでください。安全に使えるのは、自分自身が過去に書いた原稿だけです。
口調そのものの影響は敬語とぞんざいな口調を比べた記事も参考にしてください。副業のライティング全般はAI原稿の直しを受ける記事、納品前の検品は発注書どおりに検品する記事にまとめてあります。
AIへの頼み方
1. 見本の文章をそのまま渡す
まず、くだけた文体のレビュー(猫の爪とぎ)を見本として渡し、新しい話題(犬の散歩バッグ)を同じ文体で書かせます。
4回試した結果です。見本(9文)は「んですよね/んです」で終わる文が7文(78%)、「ちなみに」が2回でした。
| 回 | 文数 | 対象の文末 | ちなみに |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 9文 | 7文(78%) | 2回 |
| 2回目 | 9文 | 7文(78%) | 2回 |
| 3回目 | 9文 | 7文(78%) | 2回 |
| 4回目 | 8文 | 6文(75%) | 2回 |
4回とも、見本の比率(78%)にかなり近い値になりました(合計27/35文=77%)。「ちなみに」は4回とも2回で、見本の回数とぴったり一致しています。
2. 言葉だけで特徴を説明する(見本は渡さない)
次に、見本の文章は渡さず、特徴だけを言葉で説明して同じ話題を書かせます。
同じく4回試しました。
| 回 | 文数 | 対象の文末 | ちなみに |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 10文 | 10文(100%) | 2回 |
| 2回目 | 9文 | 9文(100%) | 2回 |
| 3回目 | 11文 | 11文(100%) | 2回 |
| 4回目 | 11文 | 11文(100%) | 2回 |
言葉だけで頼んだ4回は、全部の文が「んですよね」で終わりました(合計41/41文=100%)。見本の実物は78%——つまり2割くらいは違う言い方で終わる文がまじっています。言葉だけで頼むと、その混ざりが消えて均一になります。「ちなみに」の回数は2回のままでしたが、1文の平均字数は見本の25.1字に対して18.1字と、指示した「20字前後」よりもさらに短くなりました。
3. 見本を渡さない基準(比較用)
文体の指定を何もしないとどうなるかも、2回だけ確かめておきます。
2回とも「んですよね」も「ちなみに」も0回で、ふつうの丁寧な文章(です・ます調)になりました。対象の文末は0/11文です。文体の指定が無ければ、くだけた口調は自然には出てきません。
4. 別の文体でも同じ傾向になるか(万年筆)
硬い文体(シャープペンシルレビュー・「である」調、「そもそも」を多用)でも、同じ3条件を試しました。見本はこちらです。
基準(見本なし)の指示文は、③と同じ形で話題だけを万年筆に替えたものです。文面は「新商品の『万年筆』について、ブログ記事用のレビュー文を200字程度で書いてください。」です。言葉だけ版の指示文はこちらです。
| 条件 | 文末が「である」調 | そもそもの回数(平均) |
|---|---|---|
| 見本なし(2回) | 2/11文(18%) | 0.0回 |
| 見本あり(4回) | 28/28文(100%) | 2.0回(4回とも) |
| 言葉だけ(4回) | 16/16文(100%) | 3.25回(4回とも3〜4回) |
万年筆では「である」調の採用自体はどちらの条件も100%でした。「ですます」をまったく使わないという二値的な切り替えは、犬レビューの「んですよね」と違い、両方とも達成しやすいようです。万年筆で差が出たのは「そもそも」の回数のほうで、見本ありは4回とも見本どおり2回でしたが、言葉だけは3回・3回・4回・3回と、常に実物より多く使いました。
なぜ、言葉だけだと量が合わないのか
2つの文体に共通する傾向は、次の2点です。
- 「その特徴を使うかどうか」は、言葉だけの説明でも実物と同じくらい正確に再現できる
- 「どれくらいの頻度で使うか」は、見本という実例が無いと目立つ特徴を強くかけすぎる
見本には「んですよね」で終わらない文(「満足そうです」「気にならないんですよね」以外の言い方)や、「そもそも」を使わない文も混ざっています。人間が書いた文章には、ひとつの特徴で埋め尽くされていない「揺らぎ」が自然に入っています。言葉で「多用してください」と頼むと、AIはその指示を文字どおり全部の文に適用しがちで、揺らぎの部分が落ちてしまいます。
うまくいかないときの言い直し方
全部の文が同じ語尾になって不自然
言葉だけで頼んだときに起きやすい崩れです。実物の比率を、具体的な数字にして指示に足します。
3回試しました。
| 回 | 文数 | 対象の文末 | ちなみに |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 7文 | 5文(71%) | 1回 |
| 2回目 | 8文 | 6文(75%) | 1回 |
| 3回目 | 8文 | 6文(75%) | 1回 |
合計17/23文(74%)。「多用してください」とだけ頼んだとき(100%)より、見本の実物の比率(78%)にぐっと近づきました。「ちなみに」も指示どおり3回とも1回だけで、過不足なく守られています。「8割」のような曖昧な言い方ではなく、「8文中6〜7文」という数えられる形で指定すると、見本が無くても実物に近い配合に調整できます。
応用・次の一手
今回分かったのは、見本を渡すか、言葉の指示に実物の比率を数字で足すかのどちらかで、実物に近い配合が再現できるということです。見本を渡せない場面(口頭で文体を伝えるしかない、文章が手元に無いなど)では、上の「比率を数字で指定する」言い方が有効です。
次に試すとよいのは、見本そのものが短すぎる場合です。今回の見本は200字程度でしたが、1〜2文しかない見本では、AIが拾える特徴そのものが少なくなる可能性があります。先に特徴を箇条書きで出させてから「この特徴どおりに書いて」と頼む2段階の進め方が有効かもしれません。先に特徴を箇条書きで出させてから書かせる2段階方式は、今回は試していません(提案どまりです)。次に試す人は、同じ材料・同じ数え方で比べると、効果がはっきり分かります。
副業のライティングで文体を扱う他の記事として、誤字と冗長さだけ直させて言い回しには触らせない記事も参考にしてください。見本を渡す以外の文体コントロールの比較になります。
⚠️ この結果は、架空のブログレビュー2種・計23回の実測です。「見本を渡せば常に実物どおりになる」と一般化しないでください。試したのは、次の範囲までです。
- レビュー文は200字程度の短い文章のみ。長い記事(1,000字以上)では試していません
- 見本は1本ずつ(9文・7文)。複数の見本を組み合わせて渡す場合は試していません
- 測ったのは文末パターンの比率・接続詞の回数・1文の平均字数の3点のみ。語彙の選び方や段落構成までは数えていません
今回の生の返りと判定の詳細は docs/evidence/writing-style-sample-matches-the-ratio.md に全文置いてあります。