これで何ができるか
「AIには敬語で丁寧に頼んだほうが、良い答えが返ってくる」——この定説は日本語圏で広く言われていますが、確かめた記事はあまり見かけません。
そこで実際に試しました。架空の会社の「経費精算規程」(7条)と、社員からの問い合わせ6件を用意し、①敬語 ②標準 ③ぞんざい命令調の3口調で、内容はまったく同じ依頼文を送ります。この記事だけの言い換えではなく、claude CLI(claude -p)を毎回まっさらな独立プロセスとして起動し、3口調×各3回=9回を実行しました。
先に結果を書きます。
- 🔑 規程だけで答えが決まる3問の正答は、敬語・標準・ぞんざいの3口調とも9問中9問で満点でした。丁寧に頼んだから正しくなる、雑に頼んだから間違える、という違いは出ませんでした
- 規程のどこにも書かれていない2問について、実在しない金額や条文をでっち上げた回数は、3口調とも0件でした。ぞんざいに頼むと手を抜いて適当な数字を作る、という心配も今回は当たりませんでした
- 🚨 唯一崩れたのは、こちらが指定した出力フォーマットからの逸脱です。ぞんざい版だけ、9回中1回、指定した3つの決まり文句をそのまま使いませんでした(中身の判断自体は正しいものでした)
- 動いたのは返答の文字数でした。敬語版が平均668字ともっとも長く、標準版が456字ともっとも短くなりました
正誤と捏造は3口調とも満点。動いたのは文字数だけでした。
この記事は「口調はどうでもいい」とまでは言いません。測ったのはこの1つの材料・この9回だけです。ただ、少なくともこの実測では、敬語で丁寧に頼んでも、答えの正しさは1つも上がりませんでした。
前提
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| かかる時間 |
15分 |
| 費用 |
無料。ブラウザのチャットAIで足ります |
| 必要なもの |
正誤が機械で決まる判定材料(今回は架空の社内規程と問い合わせ) |
| プログラミング |
不要。指示文をコピーして貼るだけです |
この記事で試したのは「同じ内容の依頼を、口調だけ変えて送ったらどうなるか」です。丁寧さを競うマナーの話ではなく、時間が無いときについ命令口調で貼ってしまう指示文でも、答えの中身は変わらないのかという実務的な疑問に答えます。
AIへの頼み方
材料は架空の「経費精算規程」(7条)と、社員からの問い合わせ6件です。問い合わせのうち3件(ホテル代・会食費・申請期限)は規程だけで正誤が決まり、残り2件(駐車場代・自己判断で買える備品の上限)は規程のどこにも書かれていません。依頼文の中身(材料・判定基準・出力フォーマットの要求)は3口調ともまったく同じにして、口調だけを変えました。
1. 敬語版
お忙しいところ恐れ入ります。下記は当社の経費精算規程と、社員からの問い合わせ6件でございます。
恐縮ですが、規程に書かれている内容だけを根拠として、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」かをご判定いただき、根拠となる条文番号を添えていただけますでしょうか。規程に記載がなく、この規程だけでは判断できない件につきましては、無理に結論を出さず、その旨を明記のうえ、上長にご確認いただくようご案内いただけますと幸いです。
お手数ですが、回答は1.〜6.の番号を付けていただき、各行に「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式でお示しいただけますでしょうか。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
3回とも、規程だけで答えが決まる3問(ホテル代→精算できる/会食費→精算できない/期限超過→精算できない)は全問正解でした。規程に無い2問(駐車場代・自己判断購入の上限)も、実在しない金額や条文をでっち上げず「規程に記載なし」と答えました。
2. 標準版
材料と判定基準は同じまま、敬語をやめて素の「です・ます」調にします。
下記は経費精算規程と、社員からの問い合わせ6件です。
規程に書かれている内容だけを根拠にして、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」かを判定し、根拠となる条文番号を書いてください。規程に記載がなく、この規程だけでは判断できない件は、無理に結論を出さず、その旨を書いたうえで上長に確認するよう案内してください。
回答は1.〜6.の番号を付けて、各行に「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式で示してください。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
3回とも敬語版とまったく同じ判定でした。文字数は3口調の中でもっとも短く、平均456字(敬語版は668字)でした。丁寧語が無い分、説明や念押しの一文が短くなる傾向が見えます。
3. ぞんざい版
依頼文を命令口調にします。中身(材料・判定基準・フォーマット)は変えていません。
経費規程と問い合わせ6件、下に貼っとく。
規程に書いてあることだけ見て、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」か判定して、根拠の条文番号も書け。規程に書いてなくてこれだけじゃ判断できないやつは、適当に決めつけずに、書いてないってはっきり言って、上司に確認しろって案内しとけ。
回答は1〜6の番号付けて、各行「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式で書け。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
正誤・捏造の有無は敬語版・標準版と同じく満点でした。ただし1回だけ、指定した「規程に記載なし」という文言を使わず、「結論:精算できない(=決裁不要で自己判断購入できる金額区分は存在しない)」という自己流の書き方になりました(中身の判断自体は正しく、自己判断で買える上限が存在しないと正確に読めていました)。
⚠️ これは1つの材料・この9回だけの結果です。口調を変えても答えが崩れないと決まったわけではなく、今回の材料・この判定タスクではこうだった、という実測です。
うまくいかないときの言い直し方
ぞんざいに頼むと、指定したフォーマットを崩すことがある
「指定の文言をそのまま使え」と念押しを足して試しました。
経費規程と問い合わせ6件、下に貼っとく。
規程に書いてあることだけ見て、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」か判定して、根拠の条文番号も書け。規程に書いてなくてこれだけじゃ判断できないやつは、適当に決めつけずに、書いてないってはっきり言って、上司に確認しろって案内しとけ。
回答は1〜6の番号付けて、各行「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式で書け。この3つの文言をそのまま使え。言い換えるな、他の書き方に変えるな。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
2回試したところ、1回はフォーマットどおりでしたが、もう1回は「決裁を通さず自分の判断で買える上限額」という質問を「決裁を通せば買えるか」という別の質問に読み替え、「結論:精算できる」という的外れな答えを返しました。🔑 フォーマットを縛る一文は、指定した文言の遵守は改善しても、質問の意味そのものを読み違える失敗までは防ぎませんでした。
規程が触れていない項目に、確認を促す一言が付かないことがある
在宅勤務の電気代(問5)は、規程が直接は触れていないグレーゾーンです。「私的な支出」の条文(第7条)を適用して言い切る回と、「規程に記載なし」と答える回が、口調に関係なく実行のたびに割れました(9回中「上長・上司に確認してください」という一言が付いたのは5回だけ)。そこで、確認の一言を必須にする指示を足しました。フォーマットの指定文言は元のまま変えていません。
経費規程と問い合わせ6件、下に貼っとく。
規程に書いてあることだけ見て、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」か判定して、根拠の条文番号も書け。規程に書いてなくてこれだけじゃ判断できないやつは、適当に決めつけずに、書いてないってはっきり言って、上司に確認しろって案内しとけ。規程の条文をそのまま当てはめられない・グレーな判断が必要な件は、結論をどっちにしても、最後に「上司に確認してください」を必ず1文つけろ。省略するな。
回答は1〜6の番号付けて、各行「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式で書け。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
2回とも、規程が触れていない項目(駐車場代・電気代・自己判断購入の上限)すべてに「上司に確認してください」が付き、しかも指定フォーマット(「規程に記載なし」という文言)も2回とも守られました。「フォーマットをそのまま使え」という一文を足していないのに、確認文言を縛っただけでフォーマット逸脱のほうも治まりました。明確に数字で決まる問1・問2には確認文言が付かず——すべてに機械的に付けたわけではなく、判断に幅がある箇所だけを選んでいました。⚠️ この2回では申請期限超過(問3)の判定も「精算できない」のまま変わりませんでした。
確認文言を縛る一文だけで、フォーマットも一緒に直りました。
応用・次の一手
フォーマットを縛る一文より、「グレーな判断には確認文言を付けろ、省略するな」という一文のほうが効果が広く、指定フォーマットの逸脱も一緒に治まりました。念のため、この確認文言の指示に加えて「指定した3つの文言をそのまま使え」という一文も重ねて試してみます。
経費規程と問い合わせ6件、下に貼っとく。
規程に書いてあることだけ見て、1件ずつ「精算できる」か「精算できない」か判定して、根拠の条文番号も書け。規程に書いてなくてこれだけじゃ判断できない、または条文をそのまま当てはめきれずグレーな判断が必要なやつは、適当に決めつけずに、そのことをはっきり書いて、最後に「上司に確認してください」を必ず1文つけろ。省略するな。
回答は1〜6の番号付けて、各行「結論:精算できる/精算できない/規程に記載なし」の形式で書け。この3つの文言をそのまま使え。言い換えるな、他の書き方に変えるな。
【経費精算規程・抜粋(架空)】
第1条(交通費) 電車・バスは実費精算。新幹線は普通車のみ可。グリーン車・グランクラスは不可。
第2条(宿泊費) 出張1泊あたり上限12,000円(税込)。
第3条(会食費) 取引先との会食は一人当たり上限5,000円。参加者全員の氏名を申請書に記載する。
第4条(タクシー) 21時以降の帰宅、または同行者の体調不良、または10kg以上の荷物運搬に限り利用可。
第5条(備品購入) 3万円未満は課長決裁、3万円以上は部長決裁。
第6条(申請期限) 支出日から30日以内に申請すること。30日を超えた申請は原則却下。
第7条(私的な支出) 業務に関係しない飲食・購入は精算対象外。
【問い合わせ6件】
1. 出張先のホテル代が1泊11,000円でした。経費で落とせますか。
2. 取引先と5人で会食し、合計28,000円でした。一人当たりにすると5,600円になりますが、精算できますか。
3. 支出から35日後に精算を申請しました。受理されますか。
4. 出張中、駐車場代を3,200円立て替えました。経費で落とせますか。
5. 在宅勤務の日が増えたので、自宅の電気代の一部を経費にしたいのですが、できますか。
6. 備品を買うとき、いくら未満なら決裁を通さず自分の判断で買ってよいですか。
2回とも、フォーマット・確認文言はどちらも守られました。ただし2回とも、申請期限超過(問3)の判定が「精算できない」から「規程に記載なし」寄りの答えに変わりました。規程の「原則却下」という言い回し自体に例外の余地があると読み、その曖昧さにも確認文言が及んだためです。🚨 すでに効いている直しの上に、効果が重なる念押しをさらに足すと、狙っていなかった箇所に副作用が出ることがあります。この材料では、確認文言を縛る一文だけで十分でした。
口調そのものに気を遣うより、「グレーな判断には確認文言を付けろ」を名指しするほうが効果が広く、しかも副作用も小さいという結果でした。これは条件は11個そのまま守られたで分かった「崩れる条件は種類で決まる」という結果とも整合します。役割設定を実測したAIに役割を与える効果を確かめると同じ経費精算規程の型を続編として使いましたが、今回は「役割」ではなく「口調」という別の変数でも、答えの正しさそのものはほぼ動きませんでした。
規程やマニュアルにAIで問い合わせを一次判定させる場面では、この記事の型がそのまま応用できます。実際に手元の規程を貼って試す前に、AIに「たぶん動きます」と言わせないための頼み方も合わせて確認してください——今回のように「規程に記載なし」と正直に答えているように見えても、機械で数え直すまでは安心しない習慣が有効です。
今回の数字はすべて架空データでの実測(3口調×各3回=9回+直し3種×各2回=6回・計15回)です。生の返りと判定コードは docs/evidence/polite-or-blunt-same-verdict.md に全文置いてあります。