これで何ができるか
動画を撮るとき、いちばん時間を食うのは編集ではなく台本です。話すことが決まっていないと、撮り直しが増えます。
だからAIに台本を書かせる。ここまでは素直な考えです。問題は、返ってきた台本が何分の台本なのか、誰も数えていないことです。
架空の走り書き14行(自転車通勤を1年続けた話・5分の動画)で実測しました。
「5分くらい」と頼んだ台本は、実測7分44秒ぶんありました。1.5倍です。しかもその台本は、自分が何字書いたかを最後まで書きません。読む側からは「5分の台本」として渡ってきます。
そして、もうひとつ静かなものが混ざっていました。
この記事は、尺を字数で渡すことと、言うことになる数字を先に見つけるための頼み方をまとめます。
前提
| かかる時間 | 30分(台本1本ぶん) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 用意するもの | 話したいことの走り書き(10〜15行)と、決めた尺 |
| プログラミング | 不要 |
この記事は台本の下ごしらえの話です。撮影・編集の操作や、再生数・収益については扱いません。
⚠️ 発注を受けて作る場合は、発注元がAIの使用をどう扱っているかを先に確認してください。
以下の実測は、架空の走り書き14行(自転車通勤を1年続けた話)で行いました。試した記録は docs/evidence/video-script-by-the-clock.md に全部あります。
AIへの頼み方
1. 「5分くらいの台本」と頼むと、何が返るか
まず素朴な形から確かめます。
返ってきた台本は、よく出来ていました。走り書きの順番を「見てほしい人が知りたい順」に並べ替え、ブロックごとに撮り直せる形にしてあります。読み物としては文句なしです。
台詞だけを数えると2,320字でした。話す速さを1分300字とすると、7分44秒です。
台本の中には「0:00〜0:30」のような時間まで書いてあります。ブロック1が0:30、ブロック2が1:15……と、最後は5:00で終わります。その時間と、書いてある字数が合っていません。
⚠️ この台本は、自分が何字書いたかを一度も書いていません。数えないかぎり、7分44秒だと分かりません。
2. 時間ではなく、字数に翻訳して渡す
効いたのは、換算をこちらでやってから渡すことでした。
この指示文は2回走らせました。1回では「毎回こうなる」と言えないからです。
| 台詞の字数(実測) | 1分300字なら | 本人が申告した字数 | |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 1,449字 | 4分50秒 | 1,449字 |
| 2回目 | 1,489字 | 4分58秒 | 1,489字 |
2回とも5分の手前に収まり、申告した字数も実測と一致しました。「5分」ではなく「1,500字」と渡したことが、そのまま効いています。
⚠️ 1分300字は目安です。自分の話す速さで直してください。原稿を1分ぶん声に出して読んで、数えれば分かります。⚠️ 実測の返りにも注意が付いていました——「7.2km」は「ななてんにキロ」と読むので、字数から出した時間より少し長めに出ます。
3. 台本の前に、話す順番と秒数だけ出させる
台本を書かせてから直すのは大仕事です。骨だけ先に見ます。
返ってきたのは12行の表でした。実測すると、秒数の合計はちょうど300秒、走り書き14行は14行ともどこかで使われていて、最後にこう書かれています。
使わなかった行 なし。走り書きの1〜14はすべてどこかで使っています。
「使わなかった行を挙げて」を付けないと、落ちた行は自己申告に出てきません。ここは骨の段階で見つけるのが、いちばん安く済みます。
秒数の配り方に理由が付いていたのも役に立ちました。
11は「変わらなかった」「測っていない」という内容なので、盛らずに短めにしています。
⚠️ 「まだ台本は書かないでください」が要ります。無いと、順番の一覧と一緒に台本が返ってきて、直す対象が増えます。
4. 声に出す文章の縛りを、3つ渡す
台本は読み物ではありません。声に出すと、書き言葉はすぐ分かります。
実測の結果です。
| 縛り | 結果 |
|---|---|
| 1文40字以内 | 最長31字・平均16.7字(40字超は0件) |
| 書き言葉5語を使わない | 5語とも0回 |
| 走り書きに無いことを足さない | 〔ここは自分で決める〕が1か所 |
3つとも守られました。⚠️ ただし台詞は969字=3分14秒まで縮みました。縛ると尺が足りなくなります。
これは失敗ではありません。足りないぶんは、走り書きに材料が無いということです。1番の台本が5分に見えていたのは、材料の外から言葉を借りていたからでした。
5. 最初の15秒だけを、5案作らせる
冒頭は、台本の中でいちばん撮り直す場所です。ここだけ切り出します。
実測では5案が返り、字数は73字・74字・75字・76字・77字(目安75字)。申告した字数は5案とも実測と一致しました。
案ごとに切り口が変わるのが、この頼み方の値打ちです。
体重は1年で1kgも減りませんでした。よく眠れる気はするけど、測ってはいない。続いた理由は健康じゃなくて、電車の乗り換えが嫌いだったから。その話をします。
行番号を書かせると、どの案がどの材料に立っているかが見えます。上の案は10行目・11行目・14行目——期待はずれだったことだけで組まれています。
6. 撮る前に、用意するものと撮り直しになりそうな箇所を出させる
台本ができたら、撮る前に一度止まります。
実測で返ってきたものが、思っていたより実用的でした。
単位を数字とセットで書く。特に「月9,800円」「年18,400円」「月3,000円」は、月と年が入り混じっています。ここを言い間違えると金額の話が丸ごと逆の意味になります。
編集をほとんどしないということは、後から画を足せないということです。何かを映すなら、撮影中に手が届く場所に置いておく必要があります。
会社に置いている着替え(8番)— 会社にあると書いてあるので、映すなら持ち帰りが要ります
走り書きに書いた事実から、撮影の段取りが逆算されて出てきます。「会社に着替えを置いている」の1行から「映すなら持ち帰りが要る」が出るのは、自分では気づきにくいところです。
7. 尺は、AIに数えさせずに自分で数える
台本ができたあと、尺を確かめます。ここは数えさせません。
実測では、抜き出しの中の文117件のうち110件がもとの台本にそのまま実在しました。残る7件は、抜き出しの前後に付いた説明です(「〜を外してあります」など)。台詞そのものは書き換わっていません。
これで、エディタやワープロに貼れば字数が出ます。300で割れば分数です。
しかも、数えないと決めた側から注意が付きました。
「7.2km」「9,800円」のような数字や記号は、実際には「ななてんにキロ」「きゅうせんはっぴゃくえん」と発音するので、300字/分で出た時間より少し長めに出る、と見ておくと安全です。
数を出させると数が返り、材料を出させると論点が返ります。
⚠️ 同じ台本で何本も撮るなら、この一連の指示文は毎回同じ文字列で使ってください。言い換えていると、前の回と尺を比べられなくなります。決まった置き場所で回す形にするなら「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせるが使えます。⚠️ ただし撮るのは自分なので、自動にできるのは台本の下ごしらえまでです。
うまくいかないときの言い直し方
台本に、走り書きに無い数字が入っている
実測では6件ありました。117,600円、36,000円、54,400円、6万円ちょっと、2,800kmちょっと、46分。計算は6件とも合っています(9,800×12、3,000×12、18,400+36,000……)。
だから検算では見つかりません。合っている数字だからこそ、そのままカメラの前で言ってしまいます。
止め方は、前提を書かせることです。実測の別の回では、こう添えて返りました。
定期を1年買った場合の117,600円は、月9,800円×12か月で計算しました。実際の定期は(中略)
前提が書いてあれば、自分の記憶と照らせます。数字の扱いはAIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方にまとめてあります。
縛りを足したら、今度は短くなりすぎた
4番で起きたことです。足りないぶんは、材料が足りていません。
ここでAIに埋めさせないでください。3番の順番の一覧に戻って、秒数が余っている行に、自分の記憶から材料を足します。実測の返りも、同じことを言っていました。
もし時間が余ったら、13番の「事故は無い」をもう少しふくらませて、実際にヒヤッとした道の名前や場所を足すと、5分が自然に埋まります。
⚠️ 「ふくらませて」とAIに頼まないでください。そこで足されるのは、走り書きに無い話です。
撮ってみたら、5分に収まらなかった
字数から出した時間は、読み方のぶんだけ短めに出ます。「7.2km」は4文字ですが、声に出すと「ななてんにキロ」で7音です。
いちばん確実なのは、1回だけ通しで読んで測ることです。それで自分の1分あたりの字数が分かるので、次からは2番の指示文の「300字」をその数に置き換えてください。
話し言葉なのに、読み上げると硬い
4番の縛りのうち、効くのは1文の長さです。実測では平均16.7字まで下がりました。
⚠️ ただし禁止語の一覧は、自分の言葉で作り直してください。実測で禁じた5語(〜である、〜における、〜に関して、本動画、当該)は0回でしたが、自分が普段書いてしまう硬い言い回しは、人によって違います。1本撮って、自分が言いにくかった言葉を足していくのが早いです。
順番が、自分の話したい流れと違う
3番で骨だけ出させているのは、ここを安く直すためです。表の行を入れ替えて、秒数だけ振り直してから台本を頼んでください。
⚠️ 発表用のスライドとは設計が逆になります。あちらは画面に出す文字と口で言うことを分けますが(発表用スライドは、いきなり作らずに骨子から)、動画は全部が口です。だから配るのは枚数ではなく、秒数になります。
応用・次の一手
話す仕事の下ごしらえは、どれも同じ形になる。構成を先に、文字数で縛る、材料に無いことを足させない——発表用スライドは、いきなり作らずに骨子からの実測では、画面の文字を「30字以内」と渡すと平均63字が17字になりました。単位が枚数か秒数かの違いだけです。
副業として受けるなら、提案の段階から線を引く。動画の下ごしらえを仕事として受けるとき、提案文でうっかり約束しないための頼み方は応募文・提案文をAIと作ると、盛られるのは実績ではなく「約束」のほうにあります。
そもそも何を売れるかから決めるなら。自分の材料の棚卸しは「副業に何が売れるか」の棚卸しは、AIに決めさせずにやるにまとめてあります。⚠️ あちらの実測では、聞いてもいない相場が返りに混ざりました。
⚠️ この記事の実測は、架空の走り書きで行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、AIには時間が見えていないということのほうです。見えているのは文字だけなので、時間で頼むと文字数は決まりません。尺は、自分で字数に翻訳してから渡します。そして、台詞を声に出すのは自分です。