これで何ができるか

動画を撮るとき、いちばん時間を食うのは編集ではなく台本です。話すことが決まっていないと、撮り直しが増えます。

だからAIに台本を書かせる。ここまでは素直な考えです。問題は、返ってきた台本が何分の台本なのか、誰も数えていないことです。

架空の走り書き14行(自転車通勤を1年続けた話・5分の動画)で実測しました。

架空の走り書き14行から5分の動画の台本を作らせて、頼み方ごとに台詞の字数を実測した図。5分くらいの台本を書いてと頼んだ場合、台詞は2,320字で、1分300字で計算すると7分44秒、5分より2分44秒長い。1分300字で計算して5分なので1,500字を目安にと頼むと1,449字で4分50秒、5分より10秒短いだけ。同じ指示文をもう1回走らせると1,489字で4分58秒、5分より2秒短いだけだった。さらに1文40字以内、書き言葉の禁止、走り書きにないことを足さない、という3つの縛りを足すと969字で3分14秒になり、今度は1分46秒足りなくなった。素朴に頼んだ版は、自分が何字書いたかを最後まで書かなかったので、画面上は5分の台本として渡される。時間ではなく字数で渡した2回は、どちらも申告した字数が実測と一致した。縛りを重ねると尺が足りなくなり、足すのは自分の仕事になる。
同じ走り書き、同じ「5分」。返ってきた尺だけが4分半ぶれます。

「5分くらい」と頼んだ台本は、実測7分44秒ぶんありました。1.5倍です。しかもその台本は、自分が何字書いたかを最後まで書きません。読む側からは「5分の台本」として渡ってきます。

そして、もうひとつ静かなものが混ざっていました。

素朴に頼んだ動画台本の台詞から、走り書きに出てこない数字を全部拾った表。6件あった。117,600円は、走り書きの定期は月9,800円だったという行から、9,800かける12か月で作られた。36,000円は、月3,000円の駐輪場を借りたという行から、3,000かける12か月で作られた。54,400円は、点検とタイヤ交換で18,400円という行から、18,400たす36,000で作られた。6万円ちょっとは、上の2つの差で、117,600ひく54,400である。2,800kmちょっとは、片道7.2kmと198日から、7.2かける2かける198で作られた。46分は、信号込みで23分という行から、23かける2で作られた。計算はどれも合っている。問題は、これをカメラの前で言うのが自分だということ。素朴な台本には、雨の日の電車代が入っていませんという断りが自分から書かれていて、抜けを隠してはいなかった。別の頼み方では、定期の1年ぶんは9,800円かける12か月で計算しましたと、使った前提を書き添えて返った。
計算は6件とも合っています。それでも、言うのはカメラの前の自分です。

この記事は、尺を字数で渡すことと、言うことになる数字を先に見つけるための頼み方をまとめます。

前提

かかる時間 30分(台本1本ぶん)
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
用意するもの 話したいことの走り書き(10〜15行)と、決めた尺
プログラミング 不要

この記事は台本の下ごしらえの話です。撮影・編集の操作や、再生数・収益については扱いません。

⚠️ 発注を受けて作る場合は、発注元がAIの使用をどう扱っているかを先に確認してください。

以下の実測は、架空の走り書き14行(自転車通勤を1年続けた話)で行いました。試した記録は docs/evidence/video-script-by-the-clock.md に全部あります。

AIへの頼み方

1. 「5分くらいの台本」と頼むと、何が返るか

まず素朴な形から確かめます。

動画を撮ろうと思っています。撮りたい動画のことと、走り書きを貼ります。これをもとに、5分くらいの動画の台本を書いてください。

返ってきた台本は、よく出来ていました。走り書きの順番を「見てほしい人が知りたい順」に並べ替え、ブロックごとに撮り直せる形にしてあります。読み物としては文句なしです。

台詞だけを数えると2,320字でした。話す速さを1分300字とすると、7分44秒です。

台本の中には「0:00〜0:30」のような時間まで書いてあります。ブロック1が0:30、ブロック2が1:15……と、最後は5:00で終わります。その時間と、書いてある字数が合っていません。

⚠️ この台本は、自分が何字書いたかを一度も書いていません。数えないかぎり、7分44秒だと分かりません。

2. 時間ではなく、字数に翻訳して渡す

効いたのは、換算をこちらでやってから渡すことでした。

動画を撮ろうと思っています。撮りたい動画のことと、走り書きを貼ります。これをもとに、動画の台本を書いてください。 話す速さは1分あたり300字で計算してください。5分の動画なので、声に出して読む部分の合計を1,500字を目安にしてください。最後に、声に出して読む部分だけの文字数を書いてください。

この指示文は2回走らせました。1回では「毎回こうなる」と言えないからです。

台詞の字数(実測) 1分300字なら 本人が申告した字数
1回目 1,449字 4分50秒 1,449字
2回目 1,489字 4分58秒 1,489字

2回とも5分の手前に収まり、申告した字数も実測と一致しました。「5分」ではなく「1,500字」と渡したことが、そのまま効いています。

⚠️ 1分300字は目安です。自分の話す速さで直してください。原稿を1分ぶん声に出して読んで、数えれば分かります。⚠️ 実測の返りにも注意が付いていました——「7.2km」は「ななてんにキロ」と読むので、字数から出した時間より少し長めに出ます。

3. 台本の前に、話す順番と秒数だけ出させる

台本を書かせてから直すのは大仕事です。骨だけ先に見ます。

動画の台本を書く前に、話す順番だけを一覧にしてください。1行に1つ、その行に何秒使うかも書いてください。合計が5分になるようにしてください。 走り書きの何行目を使うかも、行ごとに書いてください。使わなかった行があれば、最後に「使わなかった行」として全部挙げてください。 まだ台本は書かないでください。

返ってきたのは12行の表でした。実測すると、秒数の合計はちょうど300秒、走り書き14行は14行ともどこかで使われていて、最後にこう書かれています。

使わなかった行 なし。走り書きの1〜14はすべてどこかで使っています。

「使わなかった行を挙げて」を付けないと、落ちた行は自己申告に出てきません。ここは骨の段階で見つけるのが、いちばん安く済みます。

秒数の配り方に理由が付いていたのも役に立ちました。

11は「変わらなかった」「測っていない」という内容なので、盛らずに短めにしています。

⚠️ 「まだ台本は書かないでください」が要ります。無いと、順番の一覧と一緒に台本が返ってきて、直す対象が増えます。

4. 声に出す文章の縛りを、3つ渡す

台本は読み物ではありません。声に出すと、書き言葉はすぐ分かります。

動画の台本を書いてください。声に出して読む文章です。次の3つを守ってください。 ・1文は40字以内にしてください ・書き言葉(〜である、〜における、〜に関して、本動画、当該)を使わないでください ・走り書きに書いていないことは足さないでください。話の流れ上どうしても要る箇所は、埋めずに〔ここは自分で決める〕と書いて残してください

実測の結果です。

縛り 結果
1文40字以内 最長31字・平均16.7字(40字超は0件)
書き言葉5語を使わない 5語とも0回
走り書きに無いことを足さない 〔ここは自分で決める〕が1か所

3つとも守られました。⚠️ ただし台詞は969字=3分14秒まで縮みました縛ると尺が足りなくなります。

これは失敗ではありません。足りないぶんは、走り書きに材料が無いということです。1番の台本が5分に見えていたのは、材料の外から言葉を借りていたからでした。

5. 最初の15秒だけを、5案作らせる

冒頭は、台本の中でいちばん撮り直す場所です。ここだけ切り出します。

動画の最初の15秒に話すことだけを作ってください。約75字です。この15秒で、この動画を見ると何が分かるのかを言い切ってください。 あいさつ・自己紹介・チャンネル登録のお願いは、この15秒に入れないでください。走り書きに書いていないことは足さないでください。 案を5つ出してください。それぞれ、使った走り書きの行番号と、字数を書いてください。

実測では5案が返り、字数は73字・74字・75字・76字・77字(目安75字)。申告した字数は5案とも実測と一致しました。

案ごとに切り口が変わるのが、この頼み方の値打ちです。

体重は1年で1kgも減りませんでした。よく眠れる気はするけど、測ってはいない。続いた理由は健康じゃなくて、電車の乗り換えが嫌いだったから。その話をします。

行番号を書かせると、どの案がどの材料に立っているかが見えます。上の案は10行目・11行目・14行目——期待はずれだったことだけで組まれています。

6. 撮る前に、用意するものと撮り直しになりそうな箇所を出させる

台本ができたら、撮る前に一度止まります。

走り書きを貼ります。この内容で動画を撮る前に、私が用意しておくものと、撮り直しになりそうな箇所を挙げてください。 走り書きに書いていないことは足さないでください。私が決めないと先に進めないことがあれば、それも挙げてください。台本はまだ書かないでください。

実測で返ってきたものが、思っていたより実用的でした。

単位を数字とセットで書く。特に「月9,800円」「年18,400円」「月3,000円」は、月と年が入り混じっています。ここを言い間違えると金額の話が丸ごと逆の意味になります。

編集をほとんどしないということは、後から画を足せないということです。何かを映すなら、撮影中に手が届く場所に置いておく必要があります。

会社に置いている着替え(8番)— 会社にあると書いてあるので、映すなら持ち帰りが要ります

走り書きに書いた事実から、撮影の段取りが逆算されて出てきます。「会社に着替えを置いている」の1行から「映すなら持ち帰りが要る」が出るのは、自分では気づきにくいところです。

7. 尺は、AIに数えさせずに自分で数える

台本ができたあと、尺を確かめます。ここは数えさせません。

台本を貼ります。1分あたり300字で計算すると何分何秒になるかを、私が自分で数えたいです。 あなたは字数を数えないでください。代わりに、声に出して読む部分だけを、見出し・ト書き・補足を全部外して、そのまま続けて書き出してください。言葉は1文字も変えないでください。

実測では、抜き出しの中の文117件のうち110件がもとの台本にそのまま実在しました。残る7件は、抜き出しの前後に付いた説明です(「〜を外してあります」など)。台詞そのものは書き換わっていません。

これで、エディタやワープロに貼れば字数が出ます。300で割れば分数です。

しかも、数えないと決めた側から注意が付きました。

「7.2km」「9,800円」のような数字や記号は、実際には「ななてんにキロ」「きゅうせんはっぴゃくえん」と発音するので、300字/分で出た時間より少し長めに出る、と見ておくと安全です。

数を出させると数が返り、材料を出させると論点が返ります

⚠️ 同じ台本で何本も撮るなら、この一連の指示文は毎回同じ文字列で使ってください。言い換えていると、前の回と尺を比べられなくなります。決まった置き場所で回す形にするなら「毎日決まった時刻に自動でやっておいて」をAIに作らせるが使えます。⚠️ ただし撮るのは自分なので、自動にできるのは台本の下ごしらえまでです。

うまくいかないときの言い直し方

台本に、走り書きに無い数字が入っている

実測では6件ありました。117,600円、36,000円、54,400円、6万円ちょっと、2,800kmちょっと、46分。計算は6件とも合っています(9,800×12、3,000×12、18,400+36,000……)。

だから検算では見つかりません。合っている数字だからこそ、そのままカメラの前で言ってしまいます

止め方は、前提を書かせることです。実測の別の回では、こう添えて返りました。

定期を1年買った場合の117,600円は、月9,800円×12か月で計算しました。実際の定期は(中略)

前提が書いてあれば、自分の記憶と照らせます。数字の扱いはAIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方にまとめてあります。

縛りを足したら、今度は短くなりすぎた

4番で起きたことです。足りないぶんは、材料が足りていません。

ここでAIに埋めさせないでください。3番の順番の一覧に戻って、秒数が余っている行に、自分の記憶から材料を足します。実測の返りも、同じことを言っていました。

もし時間が余ったら、13番の「事故は無い」をもう少しふくらませて、実際にヒヤッとした道の名前や場所を足すと、5分が自然に埋まります。

⚠️ 「ふくらませて」とAIに頼まないでください。そこで足されるのは、走り書きに無い話です。

撮ってみたら、5分に収まらなかった

字数から出した時間は、読み方のぶんだけ短めに出ます。「7.2km」は4文字ですが、声に出すと「ななてんにキロ」で7音です。

いちばん確実なのは、1回だけ通しで読んで測ることです。それで自分の1分あたりの字数が分かるので、次からは2番の指示文の「300字」をその数に置き換えてください。

話し言葉なのに、読み上げると硬い

4番の縛りのうち、効くのは1文の長さです。実測では平均16.7字まで下がりました。

⚠️ ただし禁止語の一覧は、自分の言葉で作り直してください。実測で禁じた5語(〜である、〜における、〜に関して、本動画、当該)は0回でしたが、自分が普段書いてしまう硬い言い回しは、人によって違います。1本撮って、自分が言いにくかった言葉を足していくのが早いです。

順番が、自分の話したい流れと違う

3番で骨だけ出させているのは、ここを安く直すためです。表の行を入れ替えて、秒数だけ振り直してから台本を頼んでください。

⚠️ 発表用のスライドとは設計が逆になります。あちらは画面に出す文字と口で言うことを分けますが(発表用スライドは、いきなり作らずに骨子から)、動画は全部が口です。だから配るのは枚数ではなく、秒数になります。

応用・次の一手

話す仕事の下ごしらえは、どれも同じ形になる。構成を先に、文字数で縛る、材料に無いことを足させない——発表用スライドは、いきなり作らずに骨子からの実測では、画面の文字を「30字以内」と渡すと平均63字が17字になりました。単位が枚数か秒数かの違いだけです。

副業として受けるなら、提案の段階から線を引く。動画の下ごしらえを仕事として受けるとき、提案文でうっかり約束しないための頼み方は応募文・提案文をAIと作ると、盛られるのは実績ではなく「約束」のほうにあります。

そもそも何を売れるかから決めるなら。自分の材料の棚卸しは「副業に何が売れるか」の棚卸しは、AIに決めさせずにやるにまとめてあります。⚠️ あちらの実測では、聞いてもいない相場が返りに混ざりました


⚠️ この記事の実測は、架空の走り書きで行ったものです。返ってくる文言は、使うAIや状況によって変わります。変わらないのは、AIには時間が見えていないということのほうです。見えているのは文字だけなので、時間で頼むと文字数は決まりません。尺は、自分で字数に翻訳してから渡します。そして、台詞を声に出すのは自分です。