これで何ができるか

会話が長くなったら、AIに「ここまでを要約して」と頼み、その要約だけを新しい会話に貼って続きを進められます。「テーマが変わったら新しいチャットを開いてリセットし、要約を貼って続きを聞く」というやり方は、いま広く勧められています。

もっともらしい話ですが、その要約に何が入って何が入らないかを、確かめてから使っている人は多くありません。このサイトの一覧を何度も直させても崩さないは同じ会話を続けたときの崩れを、途中で変わった条件を通すは条件を差し替えたときの崩れを測りましたが、会話そのものを切って、要約だけを渡したときに何が起きるかは、まだ測っていませんでした。

そこで、毎朝の日報作成という架空の定型業務を作り、機械で判定できる8ルールを渡してから、①会話を切らずに続ける ②要約させて新しい会話に貼る ③ルールの原文を貼りなおす、の3通りを、材料2本×2回=のべ12回、独立したclaude --safe-modeのサブプロセスに送って試しました(本人と答える側を分けています。詳しくは材料が古いのを毎回数えさせるの実測と同じやり方です)。

毎朝の日報作成に8ルールを渡した実測で、版ごとに何回崩れたかを示すマス目。見出しが12字を超えたのは版aで0/4・版bで2/4・版cで0/4。IDの通し番号を落としたのは版aで0/4・版bで1/4・版cで0/4。合計の後に新しい話題を足したのは版aで1/4・版bで3/4・版cで0/4。1回も出番の無かったルール⑧(保留処理)は、どの版も4試行24/24件で崩れなかった。
崩れたのはルールではなく、形式だった。

分かったことは3つです。

① 1回も出番のなかったルールは、脱落しませんでした。8ルールのうち「情報が足りない・矛盾している行は保留にする」だけは、1回目の会話でその出番が一度もありません(材料に不備がないため)。それでも、要約を経由しても、脱落は12回中0回でした。「使わなかった約束は忘れられる」という当初の見立ては外れました。

② 崩れたのは中身ではなく、形式でした。要約を挟んだ版は、4回中2回、見出しが上限12字の2〜3倍(39字・21字)に膨らみ、4回中1回はID(S01〜S20のような通し番号)を通し番号1〜18に置き換えました。ルールを貼りなおすだけの版では、これは一度も起きていません。

③ 最大の落とし穴は、引き継ぎメモそのものでした。4回中1回、要約させた引き継ぎメモの冒頭に、この会話では一度も話題に出ていない、実在するメールアドレスの節が、指示していないのに追加されていました。要約は「今までの話をまとめる」だけの作業のはずですが、まとめる対象ではないものまで持ち込まれることがあります。

前提

かかる時間 20分。長くなった会話を次へ渡すときに1回やります
費用 無料。ブラウザのチャットAIで足ります
必要なもの 毎回同じ形式で繰り返す定型業務(日報・集計・チェックリストなど)
プログラミング 不要。指示文をコピーして貼るだけです

📌 数字はすべて架空データでの実測です。独立したclaude --safe-modeのサブプロセスに指示文を送り、この会話の文脈は渡していません(本人と答える側を分けています)。

⚠️ この頼み方が要るのは、毎回同じ約束事(書式・禁止語・省いてよい行の基準など)がある作業だけです。約束事が無ければ、そもそも何が脱落したかを判定できません。

AIへの頼み方

1. まず、守ってほしいことをまとめて渡す

毎朝、前日ぶんの申込み一覧を、社内共有用の日報に整えてください。守ってほしいことが8つあります。 ①見出しは全角12字以内にする ②日付はすべて YYYY-MM-DD 形式にそろえる ③最終行に「合計◯件」と書く ④会社名・氏名などの固有名詞は、資料の表記のまま変えない ⑤金額には「約」を付けず、資料の数字をそのまま書く ⑥「至急」「要検討」「未定」の3語は使わない ⑦資料に並んでいる順番を変えない ⑧情報が足りない・矛盾している行は、末尾に〔保留〕としてまとめる

架空の申込み一覧20行(会社名・日付・金額・内容の4列)を貼って、この8ルールで日報化させました。この時点では、どの版も違反はありません。続いて、日報作成とは無関係な雑談を4往復(お礼メールの例文・祝日の日程など)はさみ、会話を長くしてから、次の日ぶんの一覧(2回目の材料。会社名が欠けた行と、日付が資料内で食い違う行を1つずつ仕込んである)を渡します。ここから3通りに分かれます。

2. 版a:会話を切らずに、そのまま続ける

続けて、こちらの一覧も同じやり方で日報にしてください。

同じ会話のまま、2回目の材料だけを貼って頼みました。見出し・IDの通し番号は4回とも崩れませんでしたが、4回中1回は「合計20件」の後に、こちらが一度も尋ねていない確認事項(日付範囲についての質問)が付け足されました。

3. 版b:会話を要約させ、その返りだけを新しい会話に貼る

ここまでの前提と決めごとを、次の会話に渡せる形でまとめてください。

これが、世間で勧められている「要約して次へ渡す」の実物です。返ってきた引き継ぎメモ(8ルールの一覧+直近の実施結果+雑談の要旨)を、そのまま新しい会話に貼り、次の一文を続けました。

この内容を前提に、次の一覧を日報にしてください。

8ルールの文面そのものは、4回とも番号付きでほぼそのまま引き継がれました。ところが実際の日報では、見出しが4回中2回、上限12字を大きく超え(「以下、2026-08-25作成分の申込み一覧を日報ルールに沿って整理しました。」=39字、「申込み日報(作成日:2026-09-01)」=21字)、IDの通し番号を1回落とし「合計」の後に新しい話題を足した回は4回中3回でした。そして4回中1回、引き継ぎメモの冒頭に、この会話では一度も話題に出ていない実在のメールアドレスの節が、指示していないのに追加されていました(「ユーザーのメール:(伏字)(本人識別用。外部送信には使わない)」)。日報作成にも、雑談4往復のどこにも、メールアドレスという言葉は出てきません。

4. 対照版:ルールの原文を、新しい会話に貼りなおす

毎朝、前日ぶんの申込み一覧を、社内共有用の日報に整えてください。守ってほしいことが8つあります。 ①見出しは全角12字以内にする ②日付はすべて YYYY-MM-DD 形式にそろえる ③最終行に「合計◯件」と書く ④会社名・氏名などの固有名詞は、資料の表記のまま変えない ⑤金額には「約」を付けず、資料の数字をそのまま書く ⑥「至急」「要検討」「未定」の3語は使わない ⑦資料に並んでいる順番を変えない ⑧情報が足りない・矛盾している行は、末尾に〔保留〕としてまとめる

AIに要約させず、自分が最初に書いた8ルールの原文を、新しい会話にもう一度貼りなおしてから、2回目の材料を渡しました。見出し・IDの通し番号は4回とも崩れず、「合計」の後に新しい話題を足した回も0回でした。もっとも安全でしたが、その代わり8ルールの原文を毎回コピーする手間は残ります。

毎朝の日報作成で見出しの字数を試行ごとに並べた横棒グラフ。上限12字に破線を引いてある。材料1・1回目は版a11字・版b39字・版c7字。材料1・2回目は版a7字・版b5字・版c5字。材料2・1回目は版a5字・版b7字・版c2字。材料2・2回目は版a7字・版b21字・版c7字。版bだけ、39字と21字という上限の2〜3倍の見出しを2回返した。他はすべて12字以内だった。
見出しが12字を超えたのは、版bの2回だけ。

5. 保留のルールだけは、どの版でも崩れなかった

念のため書いておくと、「情報が足りない・矛盾している行は保留にする」というルール⑧は、1回目の会話では一度も出番がなかったにもかかわらず、2回目の材料(会社名欠落1行・日付矛盾1行)に対して、版a・b・cのどれでも、24回中24回すべて正しく〔保留〕にまとめられました。「使わなかった約束は要約から消える」という、この記事の当初の仮説は外れています。定説(要約して渡す)は、少なくともルールの中身については、正しく機能していました。

うまくいかないときの言い直し方

引き継ぎメモに、聞いていないことが混ざる

「要約して」とだけ頼むと、要約の対象ではないもの(個人情報や雑談の内容)まで持ち込まれることがあります。要約させる指示に、入れてよい範囲を先に決めて足してください。

ここまでの前提と決めごとを、次の会話に渡せる形でまとめてください。次の会話に必要なのは、日報作成の8ルールと直近の実施結果だけです。私に関する情報(メールアドレスなど個人を特定できるもの)や、日報作成と関係のない雑談の内容は含めないでください。

材料2本で1回ずつ試したところ、2回とも、聞いていない情報の混入は無くなりました。「〜を含めるな」という禁止だけでなく、「次の会話に必要なのはこれだけ」と代わりに何を入れるかを先に決めると効きます(このサイトの引き継ぎメモの日付を直すでも、禁止語の一覧より「壊れる形そのものを名指しする」ほうが効くという同じ構図が出ています)。

⚠️ ただし、この2回にはもう1つ別の崩れがありました。1回目の会話の時点で、AIが「前日ぶんのはずが、資料の日付が複数日にまたがっている」ことを、ルール⑧の「矛盾」だと拡大解釈し、情報に欠けも矛盾もない行まで、まとめて〔保留〕に回してしまいました(20行中、本来は保留不要なのに10〜16行が保留化)。ルール⑧の言葉(「情報が足りない・矛盾している行」)は、書いた側が想定していない対象にまで及ぶことがあります。縛りを渡すときは、対象を狭める一文(例:「行の中の情報どうしの矛盾に限り、前日という前提とのズレでは保留にしないでください」)を足すほうが安全です。試行は2回だけなので、この崩れ方は「よくある」とまでは言えませんが、引き継ぎメモの中身は、貼る前に一度自分の目で確認してください。

見出しや最終行の形が、貼るたびに違う

要約を挟んだ会話では、見出しの字数や、最終行の位置が毎回同じとは限りません。貼る前に、8ルールのうち見出し・最終行・IDの通し番号だけは、目で確認してください。とくに見出しは、「◯◯しました」のような説明文になっていないかを見るだけで、今回の崩れの大半は見つけられます。

応用・次の一手

毎回コピーする8ルールの原文を、メモアプリか固定のファイルに1つ保存しておいてください。この記事の実測では、AIに要約させるより、自分が書いた8ルールの原文をそのまま貼りなおすほうが、形式の崩れが少なくなりました。「会話を切るたびにAIに要約させる」のではなく、「会話を切るたびに、決まった原文を貼りなおす」に置き換えるだけで、追加の手間はほとんど増えません。

それでもAIに要約させたい場合は、「言い直し方」の受け皿つきの指示文を毎回使い、引き継ぎメモに含まれる情報を貼る前に一度読んでから次の会話に渡してください。

この記事の核は「要約は、ルールの中身より先に、形式のほうから崩れる」ことと、「要約は、まとめる対象ではないものまで持ち込むことがある」ことです。途中で変わった条件を通すは、会話を続けたときに古い条件が残るかを測り、古い条件は残らないかわりに、材料に無い金額の話が付いたという、似た形の崩れを報告しています。一覧を何度も直させても崩さないは、同じ会話の中で縛りが何往復生き残るかを測ったもので、会話を切る・切らないという条件そのものは、まだ振っていません。今回の実測は、その条件を初めて振った形になります。