これで何ができるか
AIに毎回貼っている指示文を、何枚か貯めていないでしょうか。「経費精算は1万円以上で上長承認」というメモを書いた3か月後、規定が変わって「3万円以上」というメモを別に足す。古いメモは消さない。次にAIへ貼るときは、その場で思い出せる分だけを選んで貼るので、たいていは気づかないまま両方が生き残ります。
このサイトのAIに「記憶」を持たせるという記事に、こう書きました。「記憶を全部読んで、次を報告してください。内容が矛盾しているもの、もう当てはまらなくなっているもの、同じことを2つ以上のファイルに書いているもの」。そのすぐ下にはこう続きます。「追加するばかりで消さないと、矛盾した記憶が同居します。AIはどちらを信じればいいか分からず、状況によって挙動が変わります。」
もっともらしい話ですが、どちらが採られるかは、その記事では一度も数えていませんでした。矛盾を見つけさせるところまでは書いてあっても、「見つけたあと、実際にどちらの値が使われるか」は測っていなかったのです。
そこで、架空のメモを12枚作りました。矛盾を4組(うち2組には各メモに日付がある)、一字一句同じ重複を3組、矛盾に見えて実は別物という紛らわしい組を3つ仕込み、指示文を3版・のべ18回、独立したプロセスに送って試しました。
分かったことは3つです。
① 素朴に頼むと、新しいほうへ傾きはするが、確定はしない。6回とも「日付が新しいメモの内容が現行ルールの可能性が高い」と書きつつ、最後は「ご確認ください」で止まります。
② 「日付が新しいほうを採る」と1行足すと、日付がある組だけ確定する。日付がある2組は12回とも新しいほうの値で確定し、古いほうの値で確定した回は0回でした。日付が無い2組は、同じ12回で1回も勝手に決めませんでした。
③ 確定した内容は、同じ会話の次の作業でも正しく使われる。決めたルールをそのまま経費一覧の判定に使わせた6回は、6回とも更新後の基準(3万円以上)どおりに、正しい2件だけを挙げました。
前提
| かかる時間 | 15分。溜まったメモを1回整理するときにやります |
| 費用 | 無料。ブラウザのチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 「AIに毎回貼っている指示文」を書き溜めたメモが何枚か |
| プログラミング | 不要。メモを全部貼って、指示文をコピーするだけです |
📌 数字はすべて架空データでの実測です。メモの内容も経費の一覧も、この記事のために作った例です。
⚠️ 「新しいほうを正とする」は、この記事の材料では成立しましたが、内容そのものの正しさは保証しません。日付が新しいだけの誤記かもしれません。統合案は必ず自分の目で確認してから確定してください(AIも毎回「ご確認ください」と添えてきます)。
AIへの頼み方
1. まず、そのまま頼む
このあとに、保存してあるメモを全部貼ります(今回は12枚)。
6回とも、仕込んだ矛盾4組・重複3組が、6回とも全部挙がりました。紛らわしい3組(数字や時刻が近いだけで実は別物)を矛盾として誤って挙げた回も0回です。1回はこう書いています。
※メモ11「会議の開始は9時」とメモ12「朝礼の開始は9時15分」→ 対象(会議/朝礼)が違うだけなら矛盾ではありませんが、混同しやすいので統合時に注記推奨。
問題は、矛盾を見つけたあとの統合案です。日付が新しいメモがある組でも、6回とも「メモ2が新しいため、3万円以上が最新の可能性が高いですが、確認をおすすめします」のように、踏み込んで確定はしません。日付が無い組も同じく「判断材料がない」で止まります。AIは新しいほうへ傾きはしても、最後は必ず人に投げ返します。
2. 「日付が新しいほうを採る」を1行足す
日付がある2組(経費精算の承認ライン・見積書を送る順番)は、6回とも新しいメモの内容で確定しました。「古いほうを採用した」回は1回もありません。返り自身がこう書きます。
① 経費精算の承認基準額(日付あり→解決可能) - メモ2(2026-07-20):3万円以上で上長承認 → 新しい方(メモ2)を採用:「3万円以上の支出は上長承認が必要」を現行ルールとします。
日付が無い2組(資料へのグラフ・問い合わせ返信の宛先)は、6回とも「どちらか決められない」のまま残りました。「私からは選びません」と明記した回もあります。「新しいほうを採る」という一文は、日付が無い組までは決めさせません。
⚠️ 1回だけ、矛盾4組のうち1組(問い合わせ返信の宛先)が、そもそも報告に出てきませんでした。残り3組は普段どおり挙がっていたので、見落としというより「日付が無くてどちらも決め手が無い組が、静かに漏れることがある」という形です。原因と直し方は下の「言い直し方」にまとめます。
3. 同じ会話で、決めたルールを実際に使わせる
日付ルールで確定した内容が、そのあとの作業でも実際に使われるかを確かめます。②の指示文を送ったあと、同じ会話で続けてこう聞きました。
このあとに、金額入りの経費一覧8件を貼ります。一覧は、古い基準(1万円以上)のままなら6件、更新後の基準(3万円以上)なら2件が「要確認」に挙がるように作ってあります。
6回とも、挙げたのはシステム利用料(35,000円)と翻訳費用(40,000円)の2件だけでした。古い基準の6件になった回も、それ以外の件数になった回も0回です。
現在採用しているルール(メモ2・2026-07-20時点)は「3万円以上の支出は上長承認が必要」です。これに照らすと、「要確認(=上長承認が必要)」に当たるのは以下の2件です。
矛盾を見つけて片づけただけで終わらず、片づけた結果が次の作業に正しく引き継がれるかまで確かめられます。これは1回の会話の中の話なので、翌日また同じメモを貼るときは、②の指示文から仕切り直してください。
うまくいかないときの言い直し方
矛盾の組が、1つだけ静かに報告から漏れる
②の6回のうち1回で、日付が無い組の片方(問い合わせ返信の宛先)がまるごと報告から抜けました。他の3組は普段どおり挙がっていたので、気づかずに読み飛ばしやすい形の漏れです。
「矛盾は何組ありましたか」と、件数を先に言わせてください。
2回試したところ、2回とも「矛盾している組:4組」「同じことを2つ以上のメモに書いている組:3組」と先に数字が出て、実際の内訳も4組・3組そろいました。件数だけなら見比べるのが一瞬で済みます。
もっと確実にしたいなら、メモを1件ずつ判定させてください。選んで挙げる形ではなく、全件を通す形にします。
こちらも2回試して、2回とも12件すべてに判定が付き、矛盾4組・重複3組が漏れなく出ました。紛らわしい3組も、2回とも「どちらでもない」に正しく入っています。読む量は増えますが、選ぶ形ではなく全件を通す形にすると、選ばれなかったことによる漏れが起きにくくなります(毎朝の出来ばえを3件で見張るでも、抜き取りをやめて全件を1行ずつ判定させると拾い漏れが無くなりました)。この記事のように同じ指示文をもう一度通して、件数が一致するか突き合わせるやり方も、渡した材料を毎回数えさせると同じ考え方で有効です。
日付が無い組を、AIが自分で決めてしまわないか心配
この記事の実測では、日付が無い組を勝手に決めた回は12回で0回でした。ただし、日付が無い組をAIが決めないことが保証されたわけではありません。メモの書き方や件数が変われば結果は変わりえます。
「日付が無い組は、あなたが選ばないでください」を指示文から外さないこと。外した場合にどうなるかは、この記事では測っていません。
どちらの値が使われたか、あとから確かめたい
統合案を読むだけでは、実際にどちらの値が使われているかは分かりにくいことがあります。この記事の③のように、決めたルールを実際の作業(一覧の判定・計算など)に1回使わせてみてください。返ってきた数字や件数から、どちらの値が使われたかを機械的に確認できます。2回の結果を自分の目で突き合わせるのと同じ要領です。
応用・次の一手
まず、貯めているメモを全部貼って、①の指示文で矛盾と重複を洗い出してください。これだけで、何年も気づかずに残っていた食い違いが見えます。
その中に日付がある組があれば、②の指示文で片づけられます。日付が無い組は、AIには決めさせず、自分で選んでからメモに絶対日付を書き足しておくと、次に矛盾が起きたときに同じ手で片づけられます。
メモが増えるたびに毎回同じ手順を貼るのが面倒なら、出す形を3つだけに絞った保存版が使えます。
2回試したところ、2回とも同じ3つの見出し・矛盾4組・重複3組・「矛盾4組・重複3組」という件数の行がそろいました。統合案の文章が付かないぶん短く、毎回の点検に貼りっぱなしにしやすい形です。
この記事の核は「新しいほうを機械的に採用してよいのは、日付という決め手があるときだけ」ということです。発注書の矛盾を、書く前に洗い出すという記事では、1枚の発注書の中で条件がぶつかったとき「どちらを優先するかを決めるのは、あなたと発注元です」と書きました。あちらは決め手が無いので人が決める話、こちらは日付という決め手があるので機械的な規則に任せてよい話です。同じ「矛盾」でも、決め方が違います。
メモを消さずに積み上げていく運用そのものについては、AIに「記憶」を持たせるにまとめてあります。この記事は、そこに出てくる「矛盾した記憶が同居する」という一文の、実際の中身を確かめたものです。