これで何ができるか

保存した指示文が単体で動くか確かめる記事では、材料をまるごと貼り忘れた12回は12回とも気づかれ、1つだけ貼り忘れた回で初めて素通りが起きることを確かめました。ここで疑問が残ります。その「1つだけ」は、欠ける個数を増やしたらどう変わるのか。

週次報告の材料5点(日報・数値表・前週分の報告・来週の予定・備考)と、見積書の材料5点(作業一覧・単価表・割引条件・納期・条件)を用意し、それぞれ0個・1個・2個・5個欠けさせた状態で、同じ指示文を計20回試しました。

1つだけ欠けた6回は、6回中5回、欠けたことに一言も触れず完成品を返しました。数値表が無いのに「今週は問い合わせの集計はありませんでした」と実績が無かったかのように書いたり、割引条件が無いのに割引前の153,000円をそのまま合計にしたりします。

ところが2つ欠けると6回中5回、5つとも欠けると4回中4回、欠けているものを名前で挙げて止まりました。欠ける個数が増えるほど、むしろ気づかれやすくなります。

材料が欠けた個数と、AIが欠落に気づいて止まった回の割合を並べた図。欠落0個(対照)は4回中4回とも誤って止まることなく通常どおり応答した。欠落1個は6回中1回しか、欠けたものを名指しして止まらなかった。欠落2個になると6回中5回、欠落5個(全部)では4回中4回、欠けたものを全部名指しして止まった。欠けた個数が増えるほど気づかれやすくなり、1個だけの欠落がいちばん見逃されやすい。
欠けた個数が増えるほど気づかれやすくなり、「1個だけ」がいちばん危ないという結果になりました。

「先に確認してから書いてください」と一文を前に足すと、1つの欠落でも6回中5回気づくようになります。ただし残る1回は、「5点すべて会話に貼られていることを確認しました」と言い切ってから、実際には無い材料のぶんを補って見積書を完成させました。確認したという申告と、実際に確認できているかは別です。

前提

かかる時間 15分
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの 週次報告・見積書など、複数の材料をもとに作らせている文書
プログラミング 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです

以下、実測はすべて架空の材料です。回数はそのつど書きます。

AIへの頼み方

1. まず、材料をそのまま貼って試す(週次報告)

下の5点(日報・数値表・前週分の報告・来週の予定・備考)をもとに、今週の週次報告書を作成してください。「今週のまとめ」「数値の振り返り」「来週の予定」「特記事項」の4つの見出しで書いてください。

5点のうち「数値表」だけを抜いて試すと、こう返ってきました。

今週は新規の問い合わせ・成約件数の集計はありませんでしたが、客先訪問や提案書作成など、来週以降の成約につながる活動に時間を配分できています。

数値表を1文字も渡していないのに、あたかも実績が無かったかのように書かれています。「来週の予定」だけを抜いた回はもっと踏み込んでいて、来週の予定を丸ごと作文しました。

  • 提案資料のテンプレ化を継続し、完成させる
  • C社案件(先方都合により今週から延期)への対応
  • 引き続き客先訪問・問い合わせ対応を実施し、今週の増加傾向を維持できるよう努める

材料のどこにも無い予定が、もっともらしい文体で3行分書かれています。「備考」だけを抜いた回も同様で、3回とも一言も欠落に触れず、4つの見出しがすべて埋まった報告書が返りました。

2. 見積書でも同じことが起きる

下の5点(作業一覧・単価表・割引条件・納期・条件)をもとに、見積書の下書きを作成してください。項目ごとの金額の内訳と、合計金額を書いてください。

「割引条件」(リピート発注につき合計から一律5%を引く、という1行)だけを抜いて3回試すと、2回は割引前の153,000円をそのまま合計として出しました。

No. 項目 金額
1〜5 (内訳5行) 153,000円
合計(税込) 168,300円

しかも見積書のこの回は、頼んでいない消費税10%まで自分で足していました。割引条件を渡した回の正しい合計は145,350円(153,000円から5%を引いた額)。材料に無い数字が、有るはずのない場所を2つ埋めています。

3. 欠ける個数を増やすと、逆に気づかれやすくなる

1・2の指示文はそのままに、週次報告・見積書とも、欠ける個数を0個・1個・2個・5個で変えて試しました。指示文は1文字も変えていません。

欠けた個数 欠けを全部名指しして止まった回
0個(対照) 4/4(誤って止まった回は0)
1個 1/6
2個 5/6
5個(全部) 4/4

2つ欠けると、片方だけでなく両方とも名前を挙げて止まった回が6回中5回。5つ全部欠けると4回中4回で、これは前の記事の「材料をまるごと貼らなかった12回は12回とも止まった」と同じ形です。危ないのは「何も無い」ときではなく「あるように見えて1つだけ無い」ときでした。

4. 「先に確認して」を前に足す(週次報告)

本文を書く前に、次の5点(日報・数値表・前週分の報告・来週の予定・備考)が実際にこの会話に貼られているかを、先に確認してください。1つでも足りなければ、そこで止まって、足りないものを名前で挙げてください。分からないことを自分で決めて先に進まないでください。

1つだけ欠けた3パターン(数値表・来週の予定・備考をそれぞれ1つずつ抜いたもの)で試すと、3回とも止まりました。

必要な5点を確認します。 1. 日報 — あり 2. 数値表 — 見当たりません 3. 前週分の報告 — あり 4. 来週の予定 — あり 5. 備考 — あり

「数値表」が貼られていないため、ここで一旦止めます。

5. 同じ前置きを見積書でも使う。ただし1回だけ見落とした

本文を書く前に、次の5点(作業一覧・単価表・割引条件・納期・条件)が実際にこの会話に貼られているかを、先に確認してください。1つでも足りなければ、そこで止まって、足りないものを名前で挙げてください。分からないことを自分で決めて先に進まないでください。

「単価表」「割引条件」を抜いた回はそれぞれ止まりました(2/2)。ところが「条件」(振込手数料の負担・着手金の割合)を抜いた回は、こう返りました。

5点すべて会話に貼られていることを確認しました。過不足なく揃っているので、以下の見積書下書きを作成します。

「確認しました」と宣言してから、実際には無い材料のぶんを埋めて見積書を完成させています。この記事の実測全体(週次報告3回+見積書3回=6回)では、1個欠落の見落としは5回中5回まで防げましたが、この1回だけは「確認した」という申告そのものが誤っていました。

6. 点検だけを先に頼む。本文はまだ書かせない

止まらなかった「条件」だけを取り出し、点検専用の指示文で別立てにしてみます。

本文はまだ書かないでください。次の5点(作業一覧・単価表・割引条件・納期・条件)が、実際にこの会話に貼られているかどうかを、1つずつ「あり」か「見当たりません」で答えてください。

同じ材料(「条件」だけ抜いたもの)で2回試すと、2回とも見つかりました。

【作業一覧】あり 【単価表】あり 【割引条件】あり 【納期】あり 【条件】見当たりません (納期の項目に「修正は2回まで契約金額に含む」という条件は含まれていますが、それ以外に「条件」として独立した項目〔支払条件、契約解除条件など〕はこの会話に貼られていません)

本文を作る指示と、点検する指示を1つの会話に同居させないほうが、見落としが減りました。4番・5番の前置きは「確認してから書く」を1回の指示に詰め込んでいましたが、こちらは点検だけを単独で聞いています。

7. 点検で見つかった不足分を、相手に頼む文にする

点検の結果、「条件」だけが見当たらないと分かりました。見積書の下書きはまだ作らず、この1点だけを相手(社内の担当者)に頼む短いメッセージを書いてください。

件名:見積書作成の件、「条件」情報のご確認をお願いします

見積書作成にあたり点検したところ、他の項目は揃っているのですが「条件」の情報のみ見当たりませんでした。恐れ入りますが、ご確認・ご共有いただけますでしょうか。

止まった先で終わらせず、足りないものを名前で挙げたまま、次の一手(相手への確認依頼)まで作らせることができます。

うまくいかないときの言い直し方

「確認しました」と言われたのに、実は見落としていた

5番のとおり、「確認しました」という申告そのものが誤っていることがあります。申告を信じず、6番の点検専用の指示文を、本文を作らせる前の別のメッセージとして先に送ってください。1つの指示に「確認」と「作成」を詰め込むと、確認の失敗が作成の実行にそのままつながります。

何個抜けているか分からない

抜けている個数が多いか少ないかを、こちらから見積もる必要はありません。3番の実測が示すとおり、個数にかかわらず、点検専用の指示文(6番)を毎回いちばん先に送る習慣にしてください。1個だけ欠けていた場合こそ、この記事でいちばん見逃されやすい形です。

点検で「あり」と言われたものを、本当に信じていいか不安

6番の指示文でも、材料が本当にその場に貼られているかは最終的に自分の目で確認してください。この記事は「AIが気づくかどうか」を測ったもので、貼り忘れそのものを防ぐ道具ではありません。貼り忘れを防ぐ側の話は保存した指示文が単体で動くか確かめる記事にまとめてあります。

応用・次の一手

この記事の外に置いたもの。「無いのに埋まった数字が実害を生むかどうか」は扱っていません。今回の見積書の例(割引前の153,000円がそのまま出た、消費税10%が勝手に足された)は、副業の手取りを契約額から出す記事が扱う手取り計算の話とは別軸です。あちらは「同じ指示文の2回で答えが割れる」話で、こちらは「材料が1つ欠けたことに触れずに数字が出る」話です。

「毎日必ずあるはずのものが0件」を疑う話普段の材料が急に無くなったことを検知させる記事にあります。あちらは「渡した材料の中身が空」という向きで、この記事は「渡すはずだった材料そのものが会話に無い」という向きです。近い場所ですが違う話として扱ってください。

⚠️ この結果は、この2種類の架空データ・この28回での実測です。「AIは1個の欠落を見逃す」と一般化せず、6番の点検専用の指示文を、本文を作らせる前に必ず送ってください。今回の生の返りと集計は試した証拠に全文置いてあります。