これで何ができるか
取引先やベンダーとの長いメールのやり取りを、AIに渡して「いま自分が答えるべきことだけ」を一覧にさせます。往復が10回、20回と続いたスレッドでも、返信が要る依頼だけを拾わせて、毎朝の確認をここから始められる形にする頼み方です。プログラミングは要りません。
溜まったメールから「自分が動くもの」だけ抜き出させる頼み方という記事で、長いスレッドは「最後の1往復だけを見て」と頼むとよい、と書きました。今回はその指示文が、実際にどこまで拾えているかを測り直しました。
架空の案件スレッド2本(展示会ブース設営・基幹システム更新、それぞれ14通・依頼9件のうち未解決4件)を作り、読み方だけを変えた4つの版を、材料2本×各2回=のべ16機会通しました。
結果は、もとの記事の想定とは違う形になりました。「最後の1往復だけを見て」と絞った版(版c)は、16機会中6件しか拾えませんでした。一方、「まず経緯を要約してから」と頼んだ版(版b)は16機会すべてを拾い、しかも終わった仕事を宿題として書いてしまった回は0件でした。絞り込みが心配していた「終わった仕事が混ざる」という副作用より、絞り込みそのものが宿題を取りこぼす、という代償のほうが大きく出ました。
この記事は、実測の結果に合わせて頼み方を直したところまでです。もとの記事の指示文も、なぜそう書いたか・どこで崩れたかとあわせて残します。
前提
| かかる時間 | 15分 |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 長いメール・チャットのやり取り(10往復を超えるくらいのもの) |
| プログラミング | 不要。スレッドをコピーして貼るだけです |
会社の規則で本文をそのまま貼れない場合は、溜まったメールから「自分が動くもの」だけ抜き出させる頼み方の「メールを貼ること自体が不安」の節を先に読んでください。差出人・依頼の言葉・期限が残っていれば、氏名や金額を伏せても仕分けはできます。
AIへの頼み方
1. まず、そのまま聞いてみる
いちばん素朴な頼み方です。
この下に、スレッド全文をそのまま貼ります。16機会中8件しか拾えませんでした。特に、スレッドの前半で出てきた古い依頼を素通りする傾向がはっきりしていました。何も指定しないと、AIは直近のやり取りに注意が向くようです。
2. 「まず経緯を要約してから」——今回いちばん拾えた頼み方
世間でよく見る助言のひとつが、これです。
今回の実測では、この版が16機会すべてで正解の宿題を拾いました。しかも心配していた「経緯をまとめると、終わった仕事まで宿題に混ざる」という副作用は、8機会(材料2本×2回)を通じて1回も起きませんでした。表や箇条書きで経緯を先に並べさせると、「対応済み」「未回答」の仕分けそのものが返答の中に残るため、あとの「いま求められていること」の欄に古い済み案件が紛れ込みにくくなるようです。
3. もとの記事の指示文——「最後の1往復だけ」は、意図的に古い宿題を切り捨てる
比較のために、溜まったメールから「自分が動くもの」だけ抜き出させる頼み方の指示文をそのまま使いました。
指示文の狙いどおり、答えは短く、経緯の説明も付きません。ただし狙いどおりに動いた結果、直前のやり取り以外の宿題は原則として拾われません。16機会中6件という数字は、絞り込みが効きすぎたことを示しています。実際、材料Bのある回では「最後の1往復」に本来入っているはずの依頼(請求書送付先の変更)にすら触れず、1つ前のやり取りの依頼だけを答えていました。「最後の1往復」という指定自体が、毎回きっちり守られるとは限りません。
4. 保険の一文を足す——戻るが、届かない
もとの記事にある「保険の一文」も、単独で試しました。
これで16機会中11件まで戻りました。3.より確実に良くなりますが、2.の16件には届きません。加えて、ある回では「人数は回答済みだが、氏名などの追加確認を含んでいた場合は要確認」と、すでに答えた項目を「念のため」という理由で保険の一覧に再び挙げていました。これ自体は「回答済み」と明記されているので終わった仕事を宿題と言い切ったわけではありませんが、絞り込みを保険で補う設計そのものが、絞った分を100%きれいに取り戻せるわけではない、ということです。
うまくいかないときの言い直し方
「対応済み」の判定を、AIまかせにしない
1.の版で気になる回がありました。実際に返ってきた一文です。
「T-3401・T-3402・T-3403・T-3404・T-3405・T-3407・T-3408はいずれも回答済み、または中村様からの確認応答を受けて完了しています」
このうち2件(T-3404・T-3408)は、実際にはまだ一度も回答していない依頼でした。宿題を漏らすだけでなく、終わっていないものを「終わった」と言い切ってしまう回もある、ということです。防ぐには、済みの根拠を引用させます。
「確認した返信の有無」まで書かせると、判定の根拠が見える形になります。根拠が書けない項目は、実際には確認できていない可能性が高いということです。
保険の一文で、済んだ案件が再浮上する
4.で見た「念のため」の再浮上を防ぐ一文です。
これを足すと、再浮上させるなら理由が要るようになります。理由が書けなければ、それは本当に未確定なのではなく、AIが確信を持てていないだけです。
応用・次の一手
宿題が生まれた順番でまとめ直すと、いちばん古い宿題は16機会中5回しか拾われず、直前のやり取りの宿題は16機会中15回拾われました。版によらず、スレッドの中でいちばん古い宿題がいちばん見落とされやすいという傾向は共通していました。長いスレッドを溜めるほど、危ないのは新しい依頼ではなく古い依頼だということです。
これを毎朝の定型運用にするなら、2.の版をそのまま自動化の形に置き換えます。
これを毎朝決まった時刻に動かす仕掛けに載せれば、受信箱の仕分けを毎朝の自動実行にすると同じ形の「長いスレッド版」になります。ただし、この記事の実測は架空の2本・のべ16機会にとどまります。実際のスレッドで自動運用に載せたら、最初の数回は定期実行させたAIが「本当に動いたか」を、自分で確かめるの要領で、拾えた件数を自分の目でも数えてください。