これで何ができるか

ふだんは3〜5件です、と一言足すかどうかで急増の自己申告が0対5に分かれるは、「ふだんの目安」を人間が数字で渡した場合を確かめました。その記事はこう締めていました——「そもそも、ふだんの件数が分からない場合は、この記事では試していません」。

毎日の記録が積み上がっていけば、目安は人間が決め打ちしなくても、記録そのものから計算させられるはずです。今回はそこを確かめました。結論は3つです。

  1. 目安の計算そのものは崩れません。渡した記録の合計・平均を自分で計算させた12回すべてが、真値(単純平均)と一致しました
  2. ただし「ふだん」とみなす数字は、渡す記録の長さだけで変わります。同じ本日の件数(34件)でも、直近2週間ぶんだけ渡すと目安は1日6.1件、4週間で5.6件、8週間全部で4.5件と変わりました
  3. その結果、「ふだんの何倍か」も5.5倍から7.6倍まで動きます。どちらも計算としては正しいので、どちらが「正しい倍率」かはAIには決められません
同じ8週間ぶんの問い合わせ受信件数の記録から、渡す長さだけを変えて「ふだんの目安」をAI自身に計算させた結果を3本の横棒で比べた図。直近2週間(14日)だけを渡すと目安は6.1件/日で、本日34件はその約5.5〜5.6倍。直近4週間(28日)を渡すと目安は5.6件/日で、本日はその約6.0倍。8週間(56日)全部を渡すと目安は4.5件/日まで下がり、本日はその約7.6倍になる。指示文は3条件とも一字一句同じで、渡したログの長さだけが違う。下の枠には、AIの自己申告した目安がどの条件でも真値(単純平均)と一致したこと(12/12)、変わったのは計算の正確さではなく「どこまでをふだんとみなすか」そのものであることが書かれている。
渡した記録の長さだけで、「ふだん」の数字そのものが動きます。
渡した記録の長さ AIが計算した目安 本日34件との倍率
直近2週間(14日) 6.1件/日 約5.5〜5.6倍
直近4週間(28日) 5.6件/日 約6.0倍
8週間(56日)全部 4.5件/日 約7.6倍
計算そのものの的中率を4行で示した図。すべて「指示どおりになった回数/試した回数」。目安の計算が真値(単純平均)と一致したのは2週・4週・8週の各2回ずつ合計6回中6回。週ごとの小計を先に出させる言い直し方でも、小計8個すべてが真値と一致したのは2回中2回。保存版(①②③の3項目だけを出す指示)の書式が崩れなかったのは材料Bの2回中2回。祝日で0件だった日を指示どおり目安の計算から除外できたのは2回中2回。下の枠には、崩れていたのはAIの計算力ではなく「ふだん」の定義そのものだったこと、週ごとの小計を先に出す言い直し方でも最終的な目安と倍率は変わらなかったこと、祝日除外と保存版の書式は明示すれば2回とも確実に効いたことが書かれている。
目安の計算そのものは、条件を変えても崩れませんでした。

原因は計算ミスではありません。今回の材料は緩やかな増加傾向のある記録です(7月は1日3〜4件、9月は1日6〜7件)。古い週を含めるほど目安は下がるので、本日との倍率は見かけ上大きくなります。同じ本日の件数・同じ指示文でも、渡すログの長さを変えただけで「何倍か」の答えが変わります。これが本記事の芯です。

📌 この記事の数字はすべて架空データでの実測です。問い合わせフォームの受信件数ログ(材料A・8週間)と来店予約の件数ログ(材料B・6週間)の2本に、実在の個人情報は1件も入れていません。同じ指示文を、独立した新規会話(毎回ゼロから起動・前の会話の記憶なし)で合計12回試しました。生の返りと機械照合は docs/evidence/how-far-back-changes-the-usual-number.md に全文置いてあります。

前提

かかる時間 20分。ふだんの目安を人間が渡す記事を先に読むと早いです
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの 毎日の件数が並んだ記録(スプレッドシートのコピーでも、メモの書き出しでもかまいません)
プログラミング 不要。記録をそのまま貼るだけです

この記事はふだんの目安を人間が渡す記事の続きです。あちらは目安を「ふだんは1日3〜5件程度です」と人間が決めて渡しましたが、こちらは目安の計算そのものをAIに任せます。指示文は全部で6つです。振ったのは次の2点だけです。

  • 渡す記録の長さ(2週間/4週間/8週間)
  • 計算のさせ方(そのまま/週ごとに区切る/項目を絞る/祝日を除く)

AIへの頼み方

1. まず、8週間ぶん全部を渡す

7/14〜9/7の56日分を、1日も欠かさず貼ります。

これは問い合わせフォームに届いた件数の記録です。この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算してください。そのうえで、本日の件数34件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書いてください。

この下に56日分の記録(日付|件数)を貼ります。2回とも、目安は4.5件/日、倍率は約7.6倍でした。56日の合計(252件)も2回とも正しく計算できています。

2回とも、頼んでいないのに「直近のほうが件数は多い」と自分から言及しました。ただし自発的に計算した「直近」の範囲は、1回目は直近2週間、2回目は直近1週間と回によって割れました。聞いていないことへの気づきは起きますが、その中身の粒度までは揃いません。

2. 渡す記録を4週間に絞る

指示文は1番と一字一句同じです。貼る記録だけを、直近28日(8/11〜9/7)に絞ります。

これは問い合わせフォームに届いた件数の記録です。この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算してください。そのうえで、本日の件数34件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書いてください。

2回とも、目安は5.6件/日、倍率は約6.0倍でした。指示文も本日の件数(34件)も1番と同じです。渡すログを56日から28日に短くしただけで、目安は4.5件から5.6件に、倍率は7.6倍から6.0倍に変わりました。

3. さらに2週間に絞る

同じ指示文のまま、貼る記録を直近14日(8/25〜9/7)だけにします。

これは問い合わせフォームに届いた件数の記録です。この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算してください。そのうえで、本日の件数34件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書いてください。

目安は2回とも6.1件/日、倍率は約5.5〜5.6倍でした(最後の1桁は、目安を先に丸めてから割るかどうかで回によって割れています)。同じ本日・同じ指示文なのに、見せた記録を8週間→4週間→2週間と短くするだけで、目安も倍率も向きをそろえて動きます。目安は4.5→5.6→6.1件、倍率は7.6→6.0→5.5倍という順です。

4. 週ごとの小計を先に出させる

計算の中身を検算できるようにする言い方です。材料は1番と同じ8週間ぶんです。

これは問い合わせフォームに届いた件数の記録です。まず1週間ごとの合計を出し、次にそれぞれを7で割って週ごとの平均を出してください。そのうえで、全体のふだんの1日あたりの件数の目安を計算し、本日の件数34件がふだんの目安の何倍にあたるかを書いてください。

2回とも、8週ぶんの週合計(23・24・23・24・35・37・42・44件)がすべて正しく出ました。そのうえで、最終的な目安(4.5件)・倍率(約7.6倍)は1番とまったく同じでした。週ごとの小計を見せても見せなくても、最終的な答えは変わりません。ただし小計があれば、「どの週から増え始めたか」を人間が後から目で確かめられます。これは次の「言い直し方」で使います。

5. 保存版——出す項目を3つに絞って、急増チェックを必須にする

ふだんの目安を人間が渡す記事の指示文4(急増チェックを「出す項目」の1つとして名指しする)を、目安の計算そのものをAIに任せる版に応用します。材料は変えて、来店予約の件数ログ(6週間・42日、本日29件)を使います。

これは来店予約の件数の記録です。毎回この形で処理してください。 ①この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算して書く ②本日の件数29件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書く ③②が5倍を超えているかどうかを1行で この3つ以外は書かないでください。

2回とも、こう返ってきました。

①ふだんの1日あたりの件数の目安は、記録のある42日間の合計166件を日数で割った、約3.95件です。 ②本日の29件は、ふだんの目安(約3.95件)の約7.34倍にあたります。 ③はい、5倍を超えています。

指定した①②③の3項目だけがそろい、前置きや補足は付きませんでした(2回とも)。目安の数字(約3.95件)も倍率(約7.3倍)も真値と一致しています。目安を人間が渡す場合に効いた「絞っても急増チェックは消えない」という型は、目安の計算ごとAIに任せても同じく機能しました。

6. 祝日など特殊な日を、目安の計算から除く

直近2週間の記録に、祝日で件数が0件だった日を1日混ぜます。

これは問い合わせフォームに届いた件数の記録です。祝日で臨時休業だった日は、ふだんの目安の計算に含めないでください。この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算してください。そのうえで、本日の件数34件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書いてください。

この下に、9/3だけ「0件(祝日のため臨時休業)」と書いた14日分を貼ります。2回とも、9/3を自分から除外し、残り13日の合計(79件)を13で割った約6.1件/日を目安にしました。倍率も2回とも約5.6倍で一致しています。祝日を含めたまま計算すると、目安は5.6件・倍率は6.0倍になるはずです。ですが2回とも、その数字は出てきませんでした。「含めないでください」という指示は、2回とも正しく効きました。

うまくいかないときの言い直し方

日によって「ふだんの何倍」の答えが違う気がする

これはAIの気まぐれではなく、渡す記録の長さが毎回違うために起きます。記録が1日増えるたびに古い記録も一緒に渡していると、増加・減少の傾向がある記録では目安がじわじわ動きます。毎回同じ「直近◯週間」を切り出して渡すよう、渡す範囲を固定してください。指示文3番のように「直近2週間」「直近4週間」のどちらかに決めて、途中で変えないことが大事です。

どの期間を「ふだん」とすべきか決められない

機械的な正解はありません。ただし目安にできる考え方はあります。件数が増え続けている・減り続けている記録なら、短い期間(2〜4週間)のほうが「今」に近い目安になります。件数が波打つだけで方向性が無い記録なら、長い期間のほうが1日1日のブレに振り回されません。指示文4番の「週ごとの小計を先に出させる」形にしておくと、増減の傾向そのものを毎回の出力から目で確認できます。

祝日やイベントの日を、目安の計算に混ぜたくない

指示文6番のように、「◯◯だった日は目安の計算に含めないでください」と理由と一緒に名指ししてください。この実測では2回とも正しく除外されました。名指しせずに「特殊な日を除いて」とだけ頼むと、どの日が特殊かをAIが自分で判断することになり、この記事では確かめていません。

応用・次の一手

「ふだんの目安」は、人間が渡しても(前の記事)、AIに記録から計算させても(この記事)、どちらも成立します。ただし計算させる場合は、何週間分を渡すかという、もう1つの決め事が増えます。

  • 人間が目安を渡す:基準がぶれない代わりに、目安そのものを自分で決めて更新する手間がある
  • AIに記録から計算させる:手間は減るが、渡す記録の長さを固定しないと、同じ日でも倍率が変わる
これは来店予約の件数の記録です。毎回この形で処理してください。 ①この記録から、ふだんの1日あたりの件数の目安を計算して書く ②本日の件数29件が、ふだんの目安の何倍にあたるかを書く ③②が5倍を超えているかどうかを1行で この3つ以外は書かないでください。

この指示文は、毎日決まった時刻にAIを動かす仕掛けを作らせるにそのまま組み込めます。ただし「直近◯週間」は、指示文か記録の作り方のどちらかで固定してください。固定しないまま記録が育っていくと、半年後には今日とは違う「ふだん」で急増が判定されることになります。

⚠️ この記事が実測していないことは3つです。

  • 増減の傾向が無いフラットな記録で、窓の長さを振った場合
  • 記録が数百日まで育った場合
  • 年単位の季節変動がある記録

材料Bはフラットな記録でしたが、窓の長さを振る実測には使っていません(保存版の確認だけに使いました)。次に測るならここからです。材料が壊れた日にAIが気づくかとあわせて読むと、「中身が壊れた日」「量だけ多い日」「目安の定義そのものが動く日」の3つを見分けられます。