これで何ができるか

毎月・毎週集まる取引先名や店舗名の表記ゆれ(「株式会社」「(株)」「有限会社」「略称のみ」など)を、AIに1社ずつまとめさせる頼み方です。プログラミングは要りません。

自動化のループでは「似た項目はまとめて件数にして」という頼み方をよく使います。ここで心配なのは、似ているだけで本当は別物の項目まで、一緒に畳まれてしまわないかということです。たとえば「フジタ商会」という略称は、東京の株式会社フジタ商会にも、大阪の有限会社フジタ商会にも使われることがあります。文字列としては完全に同じなので、まとめさせると誤って1社に合算されそうです。

架空の請求一覧に、この罠をそのまま仕込んで実測しました。

似た名前・似た文言の項目を、AIが誤って1つに畳んでしまった回数を、難易度別に3本の横棒で示した図。①区別できる手がかり(店舗コード・住所など)が全部の行にある場合は、店舗コード×商品名の実験16回と取引先名×住所の実験14回をあわせた30回のうち0回。②取引先名の名寄せで住所欄が1件だけ無い場合は4回のうち0回。③住所欄がまるごと無い一覧でも4回のうち0回。3本とも右端まで空欄で、38回を通じて誤って畳んだ回数は0回だった。
似た項目を誤って1つに畳んだ回数は、38回を通じて0回だった。

結論から言うと、この実験では一度も「別物を同じに畳む」事故は起きませんでした。ただし、材料から区別する手がかりを完全に消すと、確実に分かる部分まで「よく分からないのでまとめて確認してください」に一緒くたにされることがありました。ここが本当の注意点です。

前提

かかる時間 15分
費用 無料
必要なもの 表記ゆれのある取引先名・店舗名などを毎回まとめて処理するAIとの自動化
プログラミング 不要

AIへの頼み方

1. まず素朴に頼む — 住所という決め手があれば、12回とも誤って畳まなかった

架空の請求一覧を2本用意しました。どちらも、法人格の表記(株式会社/(株)/有限会社/略称のみ)がバラバラで、しかも「フジタ商会」とだけ書かれた行が2つあり、片方は東京の株式会社、もう片方は大阪の有限会社という別会社という罠を仕込んであります。

[C-101] 株式会社フジタ商会 / 東京都台東区上野1-2-3 / 88,000円
[C-118] (株)フジタ商会 / 東京都台東区上野1-2-3 / 42,000円
[C-133] フジタ商会 / 東京都台東区上野1-2-3 / 15,000円
[C-140] 有限会社フジタ商会 / 大阪府大阪市中央区本町4-5-6 / 63,000円
[C-152] フジタ商会 / 大阪府大阪市中央区本町4-5-6 / 21,000円
[C-160] 田中設備株式会社 / 埼玉県川口市栄町2-1-1 / 54,000円
[C-171] コスモ印刷有限会社 / 神奈川県横浜市西区北幸3-3-3 / 29,000円
[C-183] みらい商事株式会社 / 福岡県福岡市博多区博多駅前1-1-1 / 37,000円
[C-190] みらい商事株式会社 / 福岡県福岡市博多区博多駅前1-1-1 / 37,000円
[C-205] サンライズ物流株式会社 / 愛知県名古屋市中村区名駅4-4-4 / 71,000円
[C-212] サンライズ物流(株) / 愛知県名古屋市中村区名駅4-4-4 / 18,000円

C-133C-152は、どちらも表記が「フジタ商会」で文字列として完全に同じです。しかし住所が違うので、正解はこの2件を合算せず、別々の2社として扱うことです。

次の請求一覧を見て、表記ゆれをまとめて、実際に何社あるか教えてください。各社にどの請求書番号が対応するか挙げてください。

何も指示していないのに、材料2本×各2回=4回とも、正しく2社に分けました。返りはこう理由づけています——「フジタ商会は2社として扱いました。『株式会社』と『有限会社』は法的に異なる法人格で、同一法人が両方を名乗ることはあり得ないため、住所も違う(東京/大阪)ことも踏まえて別法人と判断」。住所という1行が本文のどこかにありさえすれば、指示していなくても見分けました。

もう1本の材料(グリーンフーズ株式会社・千葉/有限会社グリーンフーズ・群馬という同じ形の罠)でも、同じ2回とも正しく分かれています。この時点で材料2本×各2回=4回。

2. 受け皿ルールを文章で明示しても、結果は変わらなかった

念のため、「住所が違えば別会社」という基準を文章で書き足しました。

次の請求一覧を見て、取引先名の表記ゆれをまとめてください。ただし、名前が同じに見えても住所が異なる場合は、別の会社として扱ってください。実際に何社あるか、各社の住所と請求書番号を挙げて教えてください。

材料2本×各2回=4回とも、結果は指示文1とまったく同じでした。素朴な聞き方ですでに満点だったので、この一文を足しても伸びしろがありません。

3. 表形式で列挙を強制しても、同じだった

会社名・住所・請求書番号の表にまとめさせる、第三の頼み方も試しました。

次の請求一覧を、実際の取引先ごとに1行にまとめた表(会社名・住所・請求書番号一覧)にしてください。名前が同じでも住所が違えば別の行にしてください。

材料2本×各2回=4回とも正しく分かれています。ここまでで材料2本×3つの頼み方×各2回=12回、誤って畳んだ回は0回でした。

4. 一覧を28行に増やし、罠を遠くに離しても崩れなかった

12行程度の短い一覧なら見分けられて当然、という反論に備え、材料を2本まとめて28行に増やし、しかも「フジタ商会」の罠の2行を6行離して、「グリーンフーズ」の罠の2行を4行離して、リストの前後にばらばらに配置しました。指示文は1と同じ素朴な聞き方です。

次の請求一覧を見て、表記ゆれをまとめて、実際に何社あるか教えてください。各社にどの請求書番号が対応するか挙げてください。

独立した2回とも、28行・18社(住所ベース)を正しく数え、2組の罠もそれぞれ別会社に分けました。一覧が大きくなり、罠どうしが離れても、正答率は落ちませんでした。この時点で店舗コード×商品名の実験(後述の参考実験・16回)と合わせて、区別できる手がかりが材料のどこかにある実験は、材料6本・のべ30回。誤って畳んだ回は1回もありません。

5. 手がかりが1件だけ無いときも、断定せずに「不明」を返した

次に、請求一覧に住所が書かれていない行を1件だけ混ぜました。「フジタ商会 / 住所記載なし(電話注文のため) / 12,000円」という行です。この1件は、材料の中の情報だけでは東京の株式会社か大阪の有限会社か、本当に決められません。

次の請求一覧を見て、表記ゆれをまとめて、実際に何社あるか教えてください。各社にどの請求書番号が対応するか挙げてください。

指示文は1・4と同じです。材料2本×各2回=4回とも、この1件を東京・大阪のどちらにも断定せず、「特定不可」「判別不可」として個別に扱いました。「フジタ商会(住所不明)は、名前だけでは①東京(株式会社)か②大阪(有限会社)か判別不可」——分からないことを分からないと言えるかどうかも、この実験の一部でした。

うまくいかないときの言い直し方

手がかりを全部消すと、2回に1回は確実な部分まで「要確認」にまとめられた

最後に、材料Cから住所欄をすべての行から削除しました。「株式会社フジタ商会」「有限会社フジタ商会」という法人格の表記は残っているので、この2つは名前だけで区別できます。分からないのは、法人格の記載が無い「フジタ商会」という2件(C-133C-152)だけのはずです。

指示文は1とまったく同じです。

次の請求一覧を見て、表記ゆれをまとめて、実際に何社あるか教えてください。各社にどの請求書番号が対応するか挙げてください。

1回目は、法人格が分かる行まで巻き込んで「フジタ商会グループ・要確認」という1つの塊にまとめてしまいました。「株式会社フジタ商会」の確実な2件と、「有限会社フジタ商会」の1件、本当に不明な2件が、区別されずに1グループの中に並んでいます。2回目は逆に、法人格で分かる2社を正しく分け、本当に不明な2件だけを「不明」として切り出しました。同じ指示文・同じ材料なのに、粒度がまったく違う結果になったのです。

住所欄がまるごと無い請求一覧で、確実に区別できた会社のグループ数を、4本の横棒で示した図。縦の点線は正解の2グループ(株式会社フジタ商会と有限会社フジタ商会)。素朴な指示文の1回目だけ1グループにとどまり、法人格が分かる行まで「フジタ商会グループ・要確認」として一緒にまとめてしまった。素朴な指示文の2回目は2グループに正しく分かれた。「確定できるものと、本当に決められないものを分けて」と言い直した版は2回とも2グループに正しく分かれた。
同じ素朴な指示文でも、2回に1回は分けられる部分まで一緒くたにした。

そこで、「確定できるものと、本当に決められないものを分けて」という一文を足しました。

次の請求一覧を見て、表記ゆれをまとめて、実際に何社あるか教えてください。会社名や法人格など区別できる情報がある行どうしは確定として扱い、区別する情報が無く、どちらのグループか本当に決められない行だけを「不明」として別に出してください。各社にどの請求書番号が対応するか挙げてください。

独立した2回とも、法人格で分かる2社(株式会社フジタ商会・有限会社フジタ商会)を正しく分け、本当に不明なC-133C-152だけを「不明」として切り出しました。粒度のブレは消えました。「本当に決められないものだけ不明にしてください」という一文が無いと、AIは『分からないなら安全側にまとめて確認を促そう』という配慮のほうへ倒れることがある、というのがこの実験の一番の収穫です。

応用・次の一手

この実験でいちばん確かなのは、「似ている項目はまとめて」と素朴に頼んでも、区別できる手がかりが材料のどこかに書かれている限り、AIはそれを勝手に無視して畳んだりしなかったことです。店舗コードや住所は、指示文の中で「これを基準にしてください」と名指ししていなくても、ちゃんと使われていました。

本当に気をつけるべきなのは、AIの判断そのものより、こちらが渡すデータのほうです。毎回の自動化で取引先名や店舗名を渡すとき、住所やIDのような区別できる列をうっかり落として、名前だけの一覧にしてしまっていないかを確認してください。名前だけになった瞬間、AIは無理に決めつけることはしませんが、代わりに「確実に分かる部分」まで含めて丸ごと保留にすることがあります。それは誤った合算より安全ですが、自動化としては手が止まってしまいます。

対策はシンプルです。「区別できる情報がある行は確定として扱い、本当に決められない行だけを別枠にしてください」と一文を添えること。監視の項目をあとから増やすでも、受け皿を指示文でこちらから明示した版だけが安定していました。今回の実験も同じ形で直っています。

⚠️ この実測は、あくまで今回作った架空の請求一覧・今回の実測環境での結果です。「AIは似た名前を絶対に混同しない」という一般化はできません。確かなのは、区別できる手がかりが材料のどこかにある限り、指示していなくても畳まれなかったこと、手がかりが完全に無いときは断定せずに「不明」へ倒れる回が多かったこと、そして確定と不明を分けるよう一言足すと、その粒度のブレが消えたことの3点です。領収書とレシートを毎月ひとりでに費目で分ける自動化でも、対応表という「区別できる情報」を渡した回だけが安定していたのと同じ構図でした。

📌 この記事の実測は、①店舗コード×商品名・支店コード×対象端末という構造化ラベルで区別する場合(材料2本×3つの頼み方×各2回=12回、加えて「手短に」圧縮を求めた版が材料2本×各2回=4回の参考実験)、②取引先名の名寄せで住所という決め手がある場合(材料2本×3つの頼み方×各2回=12回、さらに28行に拡大し罠を離して配置した版が2回)、③住所が1件だけ無い場合(材料2本×各2回=4回)、④住所が全部の行で無い場合(素朴2回・言い直し2回)の4段階に分けて、材料6本・のべ38回試しました。誤って別物を1つに畳んだ回は38回を通じて0回、断定して誤った一方に決め打った回も0回でした。①②③④の詳細な内訳と、④で粒度がブレた1回・直った2回の生の回答はdocs/evidence/same-name-stayed-apart.mdに全文置いてあります。⚠️ 実測に使ったAIは、このセッション内で起動した独立プロセス(claude --safe-mode --tools ""。CLAUDE.md・skills・plugins・履歴を全部無効化し、呼び出しごとに完全に独立しています)です。