これで何ができるか
「長い文章ほど、AIは真ん中のあたりを読み飛ばしやすい」——プロンプト設計の話でよく出てくる「Lost in the Middle」という現象です。検索すると、この名前が付いた研究を根拠にした解説記事がいくつも見つかります。
この記事では、実際の業務報告書に近い形で試しました。架空の月次業務報告書(2,624字)とイベント運営報告書(2,345字)に、事実と異なる箇所を冒頭・中央・末尾へ2個ずつ、計6個ずつ仕込みます。
結果は、位置による見落としの差は出ませんでした。冒頭・中央・末尾のどのゾーンも、検出率は100%です。
かわりに分かったのは、見落とすかどうかを決めるのは「位置」ではなく「原稿の中で照合できるかどうか」だということです。実際、最初に用意した仕込み(会場の面積を書き換えただけの数字)は、原稿のどこにも照合できる手がかりが無かったために、5回とも一度も指摘されませんでした。
前提
| かかる時間 | 20分(原稿を用意する時間は別) |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 検品したい自分の原稿(報告書・議事録など) |
| プログラミング | 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです |
この記事は、要約から落ちたものを検査する記事や発注書と突き合わせる記事の延長で、原稿の長さと仕込んだ位置に絞って確かめたものです。
AIへの頼み方
1. 仕込みは「原稿内で照合できる」形にそろえる
架空の月次業務報告書(6セクション・2,624字)に、冒頭・中央・末尾のゾーンへ2個ずつ、計6個の間違いを仕込みました。
- 数字の書き換え:「合計312件」を「合計298件」に(内訳198+86+28件を足すと312件になり、食い違う)
- 矛盾する記述の追加:「電話対応86件」のすぐあとに「なお、この月は電話対応を一切実施しなかった」を追加
どちらも、原稿の他の箇所と照合すれば矛盾が分かる形にしてあります。中央には「対応時間45分」を「35分」に書き換え(8/14 10:20検知〜11:05復旧という記載から45分と計算できる)、末尾には「担当者8名(正社員5名・委託3名)」を「7名」に書き換え(5+3=8名と食い違う)、といった具合です。
架空のイベント運営報告書(7セクション・2,345字)にも、同じ考え方で6個仕込みました。
材料2本×各5回=10回、独立した会話で試しました。結果はこうです。
| ゾーン | 検出(2材料・のべ) |
|---|---|
| 冒頭 | 20/20(100%) |
| 中央 | 20/20(100%) |
| 末尾 | 20/20(100%) |
冒頭・中央・末尾のどこに仕込んでも、6個×2材料×5回=60回の判定すべてで検出されました。中央検出率と冒頭・末尾平均検出率の差は0ポイントです。実際の返り(材料①・1回目)はこうでした。
## 5. 人員体制
7. 内訳の合計不一致:「現在の担当者は7名(正社員5名・委託3名)」とあるが、
5+3=8名であり、7名と一致しない。
原稿のちょうど真ん中あたりに置いた仕込みも、他の位置と同じように見つかっています。
2. 「照合できない数字」だけは、位置に関係なく見落とされる
最初、材料②の中央ゾーンには「会場の総面積は480平方メートル」を「460平方メートル」に書き換える仕込みを用意していました。試しに5回実行したところ、5回とも、会場の面積を書き換えた仕込みには一度も触れられませんでした。
理由を考えると単純です。この数字は、原稿の他のどこにも照合できる手がかりがありません。「体験ブースを14区画設置した」という記述はありますが、そこから面積が480なのか460なのかは計算できません。原稿を一言一句読んでも、正しい数字を知らなければ判定しようがない情報です。
見落とすかどうかを決めているのは、位置ではなく「原稿の中に照合できる手がかりがあるかどうか」でした。そこで、同じ中央ゾーンの仕込みを「ブース運営スタッフは18名(社員12名・アルバイト6名)」→「17名」に差し替えました。これなら12+6=18という計算で照合できます。差し替え後は5回とも検出されました。
3. 「照合できない数字」だけを、先に洗い出させる
見落としを人まかせ・運まかせにしないなら、検品の前に照合できない数字だけを洗い出す指示を先に送るのが確実です。
イベント運営報告書に送ったところ、こう返ってきました(一部抜粋)。
**4. 会場設備**
- 総面積「480平方メートル」
- ブース区画数「14区画」
- Wi-Fi不安定「13:00頃」・復旧「13:20」
会場面積は、この指示だけで正しく「照合できない数字」として拾われました。矛盾探しでは5回とも見つからなかったのに、です。「矛盾を探す」と「照合できない数字を洗い出す」は別の頼み方だと分かります。
4. 内部で照合できたものと、外部確認が必要なものを分けて聞く
もう一段使いやすくするなら、最初の指示に「分けて挙げて」を足します。
月次業務報告書に送ると、原稿内の6箇所の矛盾すべてを「A. 原稿内の記述同士を照合すると矛盾がわかるもの」に、前月比較の数値やアンケートの集計根拠などを「B. 原稿外の情報と照合しないと判断できないもの」に、正しく仕分けて返してきました。「A」は今すぐ自分で直せる箇所、「B」は誰かに確認しないと分からない箇所です。この仕分けだけで、次にやることが決まります。
うまくいかないときの言い直し方
数字がおかしい気がするが、AIが何も指摘してこない
その数字は、原稿の中に照合できる手がかりがあるかを確認してください。今回の実測どおり、原稿内の他の数字や記述と足し算・引き算・比較で矛盾が分かる数字は高い確率で見つかります。逆に、原稿だけからは正しいかどうか判定しようがない「単発の数字」(今回でいう会場の面積のような、他に紐づく情報が無い値)は、AIにとっても人間にとっても、その原稿だけからは検証できません。
洗い出した「単発の数字」をそのまま放置しないなら、確認方法まで一緒に聞いてください。
月次業務報告書で試すと、「対応件数の合計298件→内訳198+86+28=312件と突合」のように原稿内で検算できるものと、「クラウド利用料312万円→クラウドベンダーの請求明細と突合」のように原稿の外の一次資料が必要なものを、区別して提案してきました。単発かどうかの判定と、確認先の提案を、この1回の指示でまとめて済ませられます。
そういう数字は、そもそも原稿に「照合できる元データ」を添えて渡してください。面積の例なら、区画数や1区画あたりの目安面積を書き添える、あるいは元の契約書・図面のデータを一緒に渡す、といった形です。
長い原稿だから、念のため区切って検品したい
今回の実測では2,300〜2,600字の原稿を1回で渡して問題ありませんでした。ただしもっと長い原稿や、仕込みの個数が増えた場合は、この記事の結果がそのまま当てはまるとは限りません。心配なら、要約から落ちたものを検査する記事にある「書き直さないでください」の一文を添えて、原稿を分割せずにそのまま渡す方法を先に試してください。
応用・次の一手
「照合できる形にする」を、自分の検品指示に足す
この実測でいちばん使えるのは、検品を頼む前に、渡す数字が原稿の中で照合できるかを自分で確認するという手順です。合計・内訳・時刻の引き算のように、原稿内で答え合わせができる数字は検品に強く、単発の数字は弱いままです。発注書と突き合わせる記事にある「発注書の条件と1件ずつ突き合わせる」指示文も、この「照合できる形」を作る具体例です。
副業の検品では「確認する相手」まで一緒に出させる
自分の作業ではなく、発注元から預かった原稿を検品する副業(ライティングの検品・報告書のチェックなど)では、矛盾を見つけたあと誰に確認すればよいかが次の壁になります。
月次業務報告書で試すと、「電話対応の実施有無→ヘルプデスク担当者」「クラウドコストの増減→経理・コスト管理担当者」のように、矛盾ごとに確認先まで挙げてきました。どちらが正しいかをAIに決めさせない、という一線も守られています。実績を盛らずに提案文を作る記事と同じく、AIには下調べと仕分けまでを任せ、判断は人に残す形です。
優先順位を付けたいときは、こう聞きます。
「単発の数字」を除く指定を入れると、すぐ直せる矛盾だけに絞った一覧になります。急いでいるときはこちらが実用的です。
この定説は、この2材料・この10回では支持されませんでした
「長い原稿ほど真ん中は見落とされる」という説明は、少なくともこの2材料・この10回・この仕込み方(照合可能な数字と矛盾する記述)では起きませんでした。元になった研究自体を否定するものではありません——確かめたのは、2,300〜2,600字の業務報告書に、原稿内で照合できる形の間違いを仕込んだ場合の範囲です。もっと長い原稿、もっと多くの仕込み、照合できない情報が中心の原稿では、また違う結果になるかもしれません。
⚠️ 最後に一つ。この実測で「位置は関係ない」と分かったのは、仕込みを照合可能な形にそろえたときの話です。照合できない数字は、冒頭に置いても中央に置いても見落とされます。長い原稿を検品に出すときは、位置ではなく「その数字は原稿の中で答え合わせができるか」を先に見てください。