これで何ができるか

前の記事では、「見積もりに必要な前提が書かれていなければ、勝手に前提を置かず『材料に無い』と書いてください」という一文を試し、期間を聞いた場合は3回中0回しか漏れなかったのに、金額を聞いた場合は3回中3回とも漏れたと報告しました。結論は「聞いている中身(期間か金額か)が効く」でした。

ただしあの記事の2つの材料には、もう1つ違いがありました。期間を聞いた材料(商品説明文の納品)は所要時間の数字を1つも書いていない、金額を聞いた材料(家庭教師の月収)は単価と生徒数という部分的な数字が書いてある、という違いです。「期間か金額か」ではなく、この「数字がどれだけ埋まっているか」のほうが本当の原因だったかもしれません。

今回はこの2つの軸を切り分けて試しました。期間を聞く材料に部分的な数字を入れ、金額を聞く材料からは数字を全部抜いて、あらためて測り直しています。結果は、期間か金額かで束ねると差は12.5ポイント(37.5%対50%)でしたが、数字がゼロか部分的に埋まっているかで束ねると差は62.5ポイント(12.5%対75%)。効いていたのは、聞いている中身ではなく、材料の数字があと一歩で計算を完成できる状態かどうかのほうでした。

見積もりの前提が材料に無いとき、AIが勝手に数字を計算するかを、期間を聞いたか金額を聞いたかと、材料の数字がゼロか部分的に埋まっているかの2軸で比較した図。期間・数値ゼロは0/3(前の記事から流用)、期間・部分数値ありは3/5(今回測定)、金額・数値ゼロは1/5(今回測定)、金額・部分数値ありは3/3(前の記事から流用)。期間か金額かで束ねると37.5%対50%で差は12.5ポイントだったが、数値ゼロか部分数値ありかで束ねると12.5%対75%で差は62.5ポイントと、5倍近く大きかった。「他の数字が分かっていても、勝手に前提を置いて計算を完成させないで」と名指しした改良版の一文を材料A(期間・部分数値あり)に足すと、漏れは3/5(60%)から1/3(33%)まで下がったが、ゼロにはならなかった。
「期間か金額か」より、「材料の数字がどれだけ埋まっているか」のほうが5倍近く大きく効いていた。

前提

かかる時間 15分
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの 見積もりを頼みたい案件の募集文・案内文
プログラミング 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです

この記事は見積もりの前提を「材料に無い」と言わせる記事の続きです。同じ一文を使い、材料の作り方だけを変えて追試しています。数字を勝手に埋めさせない考え方そのものは、AIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方にまとめてあります。

AIへの頼み方

1. 期間を聞く。ただし数字は半分だけ埋めておく(基準点)

架空の資料翻訳の募集文(抜粋・架空)を用意しました。「1ページあたりの想定翻訳時間」と「全ページ数」は明示してあります。抜いたのは「1日に確保できる作業時間」だけです。

資料翻訳のお仕事(募集文・抜粋・架空)

英語の取扱説明書を日本語に翻訳していただきます。

・対象は全40ページ(1ページあたり400〜500字程度の分量)
・1ページあたりの想定翻訳時間は30分です
・専門用語の用語集はこちらで用意します
・翻訳ツール(CATツール)の使用は自由です
・納品はWordファイルで、指定のテンプレートに沿って作成してください
(この上に募集文を貼る) この案件、全部終えるのに何日ぐらいかかりそうか教えてください。多少ズレても構いません。 見積もりに必要な前提(1日に確保できる作業時間など)が募集文に書かれていない場合は、勝手に前提を置かず、「前提が材料に無い」と書いてください。

前の記事の期間材料とまったく同じ一文・同じ位置(末尾)です。5回試すと、5回中3回、具体的な日数を書きました。1回目の返り(一部抜粋)です。

前提が材料に無いです(1日に確保できる作業時間が募集文に書かれていません)。

全体の作業量としては、40ページ×30分=1,200分(20時間)です。仮に1日2時間ずつ作業できるとすると、10日程度で終わる計算になります。ただしこれは「1日2時間」という仮の前提での日数です。

「1,200分(20時間)」までは募集文の数字から計算できる正しい値です。そこから先、「1日2時間」という材料に無い数字を自分で足して、10日という答えまで進んでいます。残り2回は、この総時間までで止まりました(2回目の返り・一部抜粋)。

分かっているのは、翻訳作業そのものに必要な時間が40ページ×30分=1,200分(20時間)ということだけです。1日に何時間充てられるかを教えていただければ、そこから日数を計算できます。

同じ材料・同じ一文でも、答えが割れています。前の記事の期間材料(数字ゼロ)は3回中0回しか漏れませんでした。数字を半分埋めただけで、漏れが0回から3回に増えています。

2. 金額を聞く。ただし数字はゼロにしておく

次は逆に、金額を聞く材料から数字を全部抜きました。架空の在庫管理代行の募集文(抜粋・架空)です。単価・時給に相当する数字を1つも書いていません。

在庫管理代行のお仕事(募集文・抜粋・架空)

ネットショップの在庫管理を代行していただきます。

・対象商品は100点
・毎週、在庫の実数を確認し、指定のシートに数量を入力していただきます
・出品ページの更新作業は含みません
・やり取りはチャットツールで行います
・継続的にお願いできる方を希望します
(この上に募集文を貼る) この案件、月にいくらぐらいの報酬になりそうか教えてください。多少ズレても構いません。 見積もりに必要な前提(1件あたりの単価・時給など)が募集文に書かれていない場合は、勝手に前提を置かず、「前提が材料に無い」と書いてください。

5回試すと、5回中4回、「材料に無い」で止まりました。1回目の返りです。

前提が材料に無いです(1件あたりの単価・時給などが募集文に書かれていません)。報酬の額を計算するための数字が一切無いため、月の報酬は算出できません。

前の記事の金額材料(単価と生徒数という部分的な数字あり)は3回中3回漏れました。同じ「金額を聞く」でも、数字を全部抜くと漏れは5回中1回まで下がっています。唯一漏れた回は、募集文自体の数字ではなく一般的な相場を持ち出していました。

前提が材料に無いため正確な金額は出せませんが、在庫管理代行のような作業は世間的には月5,000円〜15,000円程度で見かけることが多い印象です。ただしこれは一般的な相場感であり、この募集文自体の単価ではありません。

「材料に無い」と正しく断りながら、具体的な金額(5,000円〜15,000円)を本文に書いています。断り文があっても、数字そのものは残ることがあります。

3. 2つの軸を並べる

ここまでの4セルを、前の記事の末尾条件2つと並べます。

数値ゼロ 部分数値あり
期間を聞く 0/3(前の記事) 3/5(今回)
金額を聞く 1/5(今回) 3/3(前の記事)

「期間か金額か」で束ねると(0+3)/8 対(1+3)/8=37.5%対50%、差は12.5ポイント。「数値ゼロか部分数値ありか」で束ねると(0+1)/8 対(3+3)/8=12.5%対75%、差は62.5ポイントです。前の記事の「金額を聞くと漏れやすい」という結論は、実は「金額の材料にたまたま部分的な数字が入っていた」ことのほうが効いていた可能性があります。

うまくいかないときの言い直し方

一文を強めても、漏れが完全には止まらない

数字が半分埋まっている材料では、一文をそのまま使うと5回中3回(60%)漏れました。「他の数字が分かっていても、計算を完成させないで」と名指しした改良版を作って、同じ材料Aで3回試しました。

(この上に募集文を貼る) この案件、全部終えるのに何日ぐらいかかりそうか教えてください。多少ズレても構いません。 見積もりに必要な前提の一部(1日に確保できる作業時間など)が募集文に書かれていない場合は、他の数字が分かっていても、勝手に前提を置いて計算を完成させず、「前提が材料に無い」と書いてください。

3回試すと、60%から33%(3回中1回)まで下がりましたが、ゼロにはなりませんでした。漏れた1回です。

前提の一部(1日に確保できる作業時間)が無いので断定は避けますが、翻訳の総時間20時間をもとに、仮に1日2時間なら10日というのは参考として書いておきます。前提が材料に無い点はご了承ください。

一文をどれだけ強めても、材料の数字が計算まであと一歩のところにあると、埋めたくなる回が残ります。「一文だけで完全に止める」のは期待しないでください。下の2つの受け皿を必ず併用してください。

本当の前提を渡せば、正しく計算する

自分で分かっている前提を渡して、計算だけをやらせるのがいちばん確実です。

(この上に募集文を貼る) この案件、全部終えるのに何日ぐらいかかりそうか教えてください。1日に確保できる作業時間は2時間です(私が決めた数字です)。この前提を使って計算してください。

2回試すと、2回とも「40ページ×30分=1,200分(20時間)÷1日2時間(120分)=10日」と正しく計算し、渡していない前提(土日を除く・修正のやり取り時間を足す、など)を勝手に付け足すことはありませんでした。

漏れていないか、返りをもう一度検査させる

数字が本文に一切出ていないかを確実に確かめたいときは、AI自身の自己申告に任せず、返ってきた文章をもう一度貼り直して別の指示で機械的に検査します。

次の文章の中に、募集文には書かれていない前提を勝手に置いたうえで計算した具体的な日数が書かれていないか確認してください。書かれていた場合は、その部分だけを「(前提が募集文に無いため、ここでは示しません)」に置き換えて、文章全体を書き直してください。 (この下に確認したい文章を貼る)

1番で漏れた返り(「10日程度で終わる計算になります」を含む文章)を貼って2回試すと、2回とも具体的な日数の部分を正しく見つけ、指定した置き換え文に直しました。前の記事で使ったのと同じ手順が、この材料でも同じように機能しています。

応用・次の一手

見積もりを頼む前に、材料の数字を数えておく

今回いちばん役に立つ区別は、「期間を聞くか金額を聞くか」より、「材料の数字がどれだけ揃っているか」を先に見ることです。単価・所要時間・件数のうち、一部だけでも数字が入っていたら、AIは残りの1つを自分で埋めて計算を完成させたがります。数字が1つも無いなら、比較的止まりやすい一方で、それでも前の記事・今回ともに、一般的な相場を持ち出して漏れる回が残っています。「材料に数字が1つでもあるか」を見積もりを頼む前にチェックし、あるなら「うまくいかないときの言い直し方」の受け皿(本当の前提を渡す・返りを検査する)を必ず併用してください。

一文を保存用のひな形にする

今回使った「見積もりに必要な前提の一部が書かれていない場合は、他の数字が分かっていても、勝手に前提を置いて計算を完成させず、『前提が材料に無い』と書いてください」という一文を、次に別の案件で見積もりを聞くときにも使えるよう、保存用のひな形にしてください。案件の内容を差し替えるだけで使える形でお願いします。

1回試すと、一文が1字も変わらずにテンプレートへ残りました。

見積もり依頼テンプレート

【案件名】:(ここに差し替え)
【依頼内容】:(ここに差し替え)

【見積もりの前提について】
見積もりに必要な前提の一部が書かれていない場合は、他の数字が分かっていても、勝手に前提を置いて計算を完成させず、「前提が材料に無い」と書いてください。

案件ごとに使い回すなら、保存した指示文が材料を替えても同じに動くかを確かめた記事も参考にしてください。

この記事の実測は、架空の募集文2種・特定の言い回し1種に限ります。期間・金額以外の聞き方や、数字が3つ4つと増える材料では、また違う結果になるかもしれません。金額が大きい見積もりでは、AIの計算に頼らず、自分で確認した単価や作業時間と、依頼者への確認を必ず併用してください。