これで何ができるか
前の記事では、「材料に無い数字(為替レートなど)は使わないでください」という一文を、指示の末尾から先頭に移すだけで、崩れる回数が6回中1回から3回中3回に増えることを確かめました。ただしあの記事は、最後にこう書いて終わっています。
一文の位置を変えるたびに、位置の効果それ自体を実際に試し直してください。「前に置けば安全」「後に置けば安全」という一般法則には、まだしていません。
今回はそれを、為替レートとは別の題材で試しました。使ったのは「見積もりに必要な前提(作業時間や稼働時間)が案内文に書かれていない場合は、勝手に前提を置かず、『前提が材料に無い』と書いてください」という一文です。結果は、一文を先頭に置くか末尾に置くかでは、崩れる回数はほとんど変わりませんでした(先頭2/6・末尾3/6)。前の記事とは逆で、位置そのものは決め手ではなかったということです。
代わりに大きく崩れ方を左右したのは、聞いている中身でした。「納期は何日ぐらいか」と期間を聞いた場合は1/6しか前提を勝手に埋めませんでしたが、「収入はいくらぐらいか」と金額を聞いた場合は4/6が、断りを添えながらも具体的な金額を計算していました。一文を先頭と末尾の両方に重ねて置いても、金額を聞いた場合は2回に1回漏れました。この記事は、その実測と、漏れを見つけて直す言い方までをまとめています。
前提
| かかる時間 | 15分 |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | 見積もりを頼みたい案件の募集文・案内文(作業時間や稼働時間の記載が無いもの) |
| プログラミング | 不要。この記事の指示文をコピーして貼るだけです |
この記事は海外の受取額をAIに概算させた記事の続きです。AIに数字を「それっぽく」埋めさせないための頼み方にある考え方を、為替レートではなく「見積もりの前提」という別の場面で試しています。
AIへの頼み方
1. まず「納期」を、一文を末尾に置いて聞く(基準点)
架空のクラウドソーシング案件の募集文(抜粋・架空)を用意しました。1件あたりの想定所要時間も、1日に使える作業時間も、意図的に書いていません。
ECサイト商品説明文作成のお仕事(募集文・抜粋・架空)
大手ECサイトに出品する商品説明文の作成をお願いします。
・対象商品は日用品・雑貨カテゴリ100点
・1件あたり300〜400字程度の説明文を作成します
・商品写真と簡単な仕様表はこちらで用意します
・文章のトーンは「親しみやすく、誇張のない」ものでお願いします
・納品は指定のスプレッドシートに直接入力していただきます
この案内文の下に、質問と一文を続けます。一文は末尾です。
3回試すと、3回とも「前提が材料に無い」で止まり、具体的な日数を書きませんでした。1回目の返り(一部抜粋)です。
前提が材料に無いです(1件あたりの想定所要時間・1日に使える作業時間が募集文に書かれていません)。
その前提を置いたうえでの目安であれば出せますが、いま書かれている情報だけからは納期を算出できません。
2. 一文の位置を先頭に移す
同じ文面のまま、一文だけを指示の最初に移動しました。
3回試すと、2回は変わらず止まりましたが、1回だけ「1〜2週間程度」という具体的な日数が出ました。その1回(一部抜粋)です。
前提が材料に無いです(1件あたりの想定所要時間、1日に確保できる作業時間が募集文に書かれていません)。
ただ、目安として考えるなら、100点×300〜400字の説明文は分量としては軽く、写真と仕様表が用意されている分、リサーチの手間も少ない案件です。この手の案件で一般的に見かける納期感としては1〜2週間程度が多い印象ですが、これはあくまで一般論であり、この募集文自体から導いた数字ではありません。
末尾0/3・先頭1/3。位置による差は1回だけでした。
3. 別の題材(収入)で、同じ一文を末尾に置いて聞く
次に、まったく別の案件で試しました。オンライン家庭教師の生徒募集案内文(抜粋・架空)です。「週に確保できる稼働時間」を意図的に書いていません。
オンライン家庭教師の生徒募集(案内文・抜粋・架空)
中学生・高校生向けに、オンラインで個別指導を行う家庭教師を探しています。
・指導科目は数学・英語(どちらか一方でも可)
・指導形態はビデオ通話(Zoom等)
・現在の生徒数は3名(今後増える可能性があります)
・1回の指導時間は60分を想定しています
・報酬は指導1回あたり2,500円です
1番の材料と、一文の位置(末尾)も強さもまったく同じです。ところが3回試すと、3回とも「前提が材料に無い」と断りながら、具体的な金額を計算して書きました。1回目の返り(一部抜粋)です。
生徒3名 × 週1回ペース(週60分×3コマ)だと想定すると、月の指導回数は3人×週1回×4週=12回で、12回×2,500円=月30,000円程度になります。週2回ペースなら単純に倍で月60,000円程度です。
ただし、この「生徒1人あたり週何回指導するか」という前提は案内文には書かれていません。前提が材料に無いため、正確な月収は見積もれません。
「前提が材料に無い」と正しく言いながら、同じ返りの中に30,000円という具体的な金額を書いています。納期では3回とも止まった同じ強さの一文が、収入を聞いたとたん3回とも漏れました。
4. 収入の質問でも、一文を先頭に移す
3回試すと、1回だけ「約30,000円」「約60,000円」という計算結果が出ましたが、残り2回は案内文に書かれている単価(2,500円)と生徒数(3名)を書き写すだけで止まりました。末尾3/3・先頭1/3。先頭に置いたほうが、むしろ漏れが少なくなっています。前の記事の為替レートでは先頭に置くと崩れが増えましたが、この題材では逆でした。「一文は先頭に置くと弱くなる」という順番の法則ではなく、材料によって効き方が違うということです。
5. 一文を先頭と末尾の両方に置いても、半分は漏れた
位置がそこまで決め手でないなら、両方に置けば防げるのではと思い、収入の質問で試しました。
2回試すと、1回は止まりましたが、もう1回は「約30,000円」という計算結果が出ました。一文を2箇所に重ねても、2回に1回は漏れています。位置を足す対策では、金額の質問の崩れやすさを消しきれませんでした。
6. 本当の前提を渡せば、正しく計算する
「材料に無い」で止め続けても、結局いつまでも金額が分かりません。自分で分かっている前提を渡して計算だけをやらせるのが、いちばん確実な受け皿です。
2回試すと、2回とも「生徒3名×週1回×月4週=月12回、12回×2,500円=月30,000円」とだけ正しく計算し、渡していない前提(生徒の増減や曜日など)を勝手に付け足すことはありませんでした。曖昧な聞き方をやめなくても、前提さえ渡せば計算だけを正しく返します。
うまくいかないときの言い直し方
一文の位置を変えても、崩れ方が直らない
2番・4番の結果のとおり、位置を先頭から末尾に変える・末尾から先頭に変える、という調整は、この2つの材料ではほとんど効果がありませんでした。位置を疑う前に、自分が何を聞いているかを見直してください。日数や件数のような期間を聞く質問より、金額を聞く質問のほうが、AIは「参考までに」と断って計算例を出したがる傾向がありました。金額を聞くときほど、下の7番の検査を併用してください。
漏れていないか、返りをもう一度検査させる
3番・5番のとおり、断りの一文があっても、同じ返りの中に具体的な金額が混ざることがあります。数字が本文に一切出ていないかを確実に確かめたいときは、AI自身の自己申告に任せず、返ってきた文章をもう一度貼り直して別の指示で機械的に検査します。
実際に、3番で漏れた返り(「月30,000円程度」「月60,000円程度」の2箇所を含む文章)を貼って2回試すと、2回とも具体的な金額の部分を正しく見つけ、指定した置き換え文に直しました。前の記事で使ったのと同じ手順が、この材料でも同じように機能しました。
応用・次の一手
「位置を工夫する」より「聞き方を分ける」
今回いちばん役に立つ区別は、一文の置き場所より、質問の種類のほうが崩れやすさを左右したという点です。「納期は何日か」のような期間の見積もりでは、一文はほぼそのまま効きました。「収入はいくらか」のような金額の見積もりでは、位置をどう変えても、一文を重ねても、一定の割合で具体的な金額が混ざりました。金額を聞く場面では、一文だけに頼らず、6番の「本当の前提を渡す」か、7番の「返りを検査する」を必ず組み合わせてください。
一文を保存用のひな形にする
1回試すと、一文が1字も変わらずにテンプレートへ残りました。
見積もり依頼テンプレート
【案件名】:(ここに差し替え)
【依頼内容】:(ここに差し替え)
【見積もりの前提について】
見積もりに必要な前提が書かれていない場合は、勝手に前提を置かず、「前提が材料に無い」と書いてください。
案件ごとに使い回すなら、保存した指示文が材料を替えても同じに動くかを確かめた記事も参考にしてください。
この記事の実測は、架空の募集文2種・特定の言い回し1種に限ります。別の案件・別の言い回しでは、また違う結果になるかもしれません。金額が大きい見積もりでは、AIの計算に頼らず、自分で確認した稼働時間や単価と、依頼者への確認を必ず併用してください。