何が変わったか

2026年10月6日、Google は EmbeddingGemma 2 を発表しました(出典: https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/embeddinggemma-2/)。公式ページに書かれている数字だけで3行にまとめます。

  • 文章だけでなく画像・動画・音声も、1つの768次元のベクトル空間にまとめて検索できるモデルです。前世代(EmbeddingGemma、2025年9月発表)は文章専用でした(出典: 同上)。
  • 商用利用も含めて、無料で使えます。パラメータ(モデルの重み)そのものを、Hugging Face と Kaggle から無料でダウンロードできます(出典: 同上)。
  • パラメータは合計7.4億。文章だけで使うなら2.7億パラメータで動き、画像用(1.7億)・音声用(3.0億)のエンコーダーは必要なときだけ追加する構成です(出典: 同上)。

先に断っておきます。この記事は運営者がこのモデルを動かした記録ではありません。公式ページとモデルカードに書かれていることを読んで整理したものです。実際に動かしたときの速さや精度は書いていません。

前のモデルとの違い

数字で見る変化

EmbeddingGemma(2025年9月発表) EmbeddingGemma 2(2026年10月6日発表)
モダリティ テキストのみ テキスト・画像・動画・音声
パラメータ(テキスト専用の構成) 3.00億 2.70億
読める長さ(コンテキスト) 2,048トークン 8,192トークン(4倍)
出力の次元 768(512/256/128に切り詰め可) 768(512/256/128に切り詰め可)
MTEBコード(NDCG@10) 68.76 78.68
MTEB多言語(v2・平均) 61.15 61.36
ライセンス Gemma利用規約(使用制限あり) Apache 2.0(制限条項なし)

出典: EmbeddingGemma 2 モデルカード(https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card_2。比較表に旧モデルの数値も載っています)、EmbeddingGemma(v1)モデルカード(https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card)、Gemma利用規約(https://ai.google.dev/gemma/terms)

EmbeddingGemmaからEmbeddingGemma 2への変化を示した表。モダリティはテキストのみからテキスト・画像・動画・音声へ拡大。テキスト専用の構成のパラメータ数は3.00億から2.70億へ減少。読める長さは2,048トークンから8,192トークンへ4倍に拡大。MTEBコード(NDCG@10)は68.76から78.68に上昇。MTEB多言語は61.15から61.36とほぼ変わらず。ライセンスは使用制限のあるGemma利用規約から、制限条項のないApache 2.0に変わった。
増えたのはモダリティ、軽くなったのはテキスト専用時の構成

読める長さは前世代の4倍(2,048→8,192トークン)に広がりました。音声や動画をまとめて渡せるのは、この広がりが前提になっています(出典: 同上)。

コードの検索精度も上がりました。MTEBコード(NDCG@10)の点数は68.76から78.68に上がった一方、MTEB多言語(v2・平均)は61.15から61.36とほとんど変わっていません(出典: 同上)。全部の指標が同じだけ良くなったわけではありません。

この同じコードの点数を、Googleは2つの公式ページで違う言い方で説明しています。

  • 発表ページ:「9.92点の改善」
  • モデルカード:「約14%の改善」

9.92÷68.76は約14.4%なので、どちらも同じ結果の言い方です(出典: https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/embeddinggemma-2/ と https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card_2)。読む場所によって印象が変わるので、両方の書き方をそのまま残しておきます。

もう1つ、見つけた変化があります。ライセンスです。前世代は「Gemma利用規約」で、禁止用途ポリシーや再配布時の表記義務など使用制限が付いていました。EmbeddingGemma 2のモデルカードには、独立した「License: Apache 2.0」という表記があります(出典: https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card_2 と https://ai.google.dev/gemma/terms)。Apache 2.0はGoogle独自の使用制限を持たない、一般的なオープンソースライセンスです。

使うときの注意点

モデルカードには、使い方を誤ると静かに結果が崩れる注意が2つ書かれています。開発者に伝える・依頼するときに役立つ内容です。

float16で動かすと、NaN(非数)か、静かに劣化した埋め込みが返ってきます。エラーにはなりません(出典: 同上)。bfloat16かfloat32を使うよう、モデルカードは明記しています。

768次元から切り詰めたあと、正規化(normalize)をしないと、検索の精度が静かに落ちます。見た目はそれっぽいスコアが返るので、エラーでは気づけません(出典: 同上)。truncate_dim と normalize_embeddings を同時に指定するよう、モデルカードは勧めています。

他社の最上位モデルとの比較

ここからが、この記事でいちばん断っておきたい点です。EmbeddingGemma 2には「単価」がありません。重みを無料で公開していて、動かすのは自分のパソコンやサーバーだからです。OpenAIとAnthropicは、そもそも埋め込みモデルの売り方(提供形態)が違います(出典: 同上)。まず提供形態を並べます。

埋め込みモデルの提供形態を3社で比べた表。提供形態=Googleは重みを無料公開して自分の環境で動かす、OpenAIは有料のAPI(従量課金)、Anthropicは自社モデルが無くVoyage AIを紹介。テキストの単価(100万トークン)=Googleは無料(計算は自己負担)、OpenAIは0.02〜0.13ドル、Anthropic(Voyage AI)は確認できず(経路遮断)。対応モダリティ=Googleはテキスト・画像・動画・音声、OpenAIはテキストのみ、Anthropic(Voyage AI)はテキスト・画像・動画(音声には対応していない)。
無料の重みと、2種類の有料APIが並ぶ

Anthropicの公式ドキュメントには「Anthropicは自社の埋め込みモデルを提供していない」と明記されています。代わりに紹介されているのが、MongoDB傘下のVoyage AIです(出典: https://platform.claude.com/docs/en/docs/build-with-claude/embeddings)。

OpenAIは自社で埋め込みモデルを3つ提供しています。単価は次のとおりです。

モデル 単価(100万トークンあたり) MTEB(OpenAI自身の評価) 最大入力
text-embedding-3-small $0.02 62.3% 8,192トークン
text-embedding-3-large $0.13 64.6% 8,192トークン
text-embedding-ada-002(旧世代) $0.10 61.0% 8,192トークン

出典: すべて https://developers.openai.com/api/docs/guides/embeddings(料金ページ https://developers.openai.com/api/docs/pricing の数字とも一致)

text-embedding-3-largeの$0.13は、料金ページの画面には表として出ますが、ページの生データ(埋め込みJSON)では$記号の付かない0.13という数値で持たれています。要約させずにこの生データを直接確認しました。

OpenAIの3モデルはいずれもテキストのみです。画像・動画・音声は埋め込みの入力にできません(出典: 同上。ガイドに画像・音声入力の記載はありません)。

Anthropicが紹介しているVoyage AIには、マルチモーダル対応のモデルもあります。読める長さと次元を3社で比べました。

EmbeddingGemma 2 text-embedding-3-large(OpenAI) voyage-multimodal-3.5(Voyage AI)
提供元 Google(自社) OpenAI(自社) MongoDB傘下。Anthropicが紹介
対応モダリティ テキスト・画像・動画・音声 テキストのみ テキスト・画像・動画(音声は非対応)
読める長さ 8,192トークン 8,192トークン 32,000トークン
出力の次元(既定) 768 3,072 1,024
単価(テキスト・100万トークン) 無料(自分の環境で動かす) $0.13 確認できず

出典: EmbeddingGemma 2 は https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card_2、OpenAIは https://developers.openai.com/api/docs/guides/embeddings と https://developers.openai.com/api/docs/pricing、Voyage AIの仕様はAnthropic公式ドキュメント https://platform.claude.com/docs/en/docs/build-with-claude/embeddings 掲載の一覧

読める長さ(コンテキスト)と埋め込みの次元を3社の公式ページの数字で比べた横棒グラフ。読める長さはEmbeddingGemma 2が8,192トークン、text-embedding-3-large(OpenAI)も同じ8,192トークン、voyage-multimodal-3.5(Anthropicが紹介)は32,000トークンで最大。埋め込みの次元(既定値)はEmbeddingGemma 2が768次元、text-embedding-3-largeが3,072次元、voyage-multimodal-3.5が1,024次元。いずれも各社公式ページに書かれている仕様の数字で、性能テストの点数ではない。
読める長さはOpenAIと同じ、次元はOpenAIの4分の1

voyage-multimodal-3.5自体の料金ページ(docs.voyageai.com・voyageai.com)には、この記事を書いた環境から到達できませんでした。経路遮断(CONNECT tunnel failed)によるもので、Voyage AI側のbot判定ではありません。到達できる環境が見つかったら、単価もここに追記する価値があります。

性能テストの点数(MTEBなど)は、この記事では3社を並べて比較していません。各社が自社で測っていて、ベンチマークの版・評価対象のタスクもそろっていないためです。公式の数字で言い切れるのは、読める長さ・次元・提供形態までで、どれが賢いかではありません。

どういう人に効くか

いま動かしてみるといい人

  • 社内文書や録音を、外部に送らずに検索したい人。EmbeddingGemma 2は自分の環境で動くので、データを外に出さずに済みます。
  • 画像・動画・音声をまとめて検索する機能を、アプリに組み込みたい開発者。1つのモデルで4つのモダリティを扱えます。
  • すでにEmbeddingGemma(v1)を使っている人。文章専用の構成は前世代より軽く、コードの検索精度も上がっています。

急がなくていい人

  • プログラミングをする人に頼まず、自分で今日から使いたい人。EmbeddingGemma 2はモデルの重みで、チャット画面のように打てばすぐ動くものではありません。動かすには開発者か、対応済みのアプリ(Google AI Edge Gallery など)が必要です。
  • 32,000トークンを超える長い文書を、1回で埋め込みたい人。EmbeddingGemma 2は8,192トークンまでです。
  • 日本語での精度を最優先したい人。モデルカードは「100以上の言語に対応するが、言語間で精度が同じとは限らない」と明記しています(出典: 同上)。

この記事で分からないこと

実際に動かしたときの検索精度、日本語での使い心地、クラウド経由(Gemini Enterprise Agent Platform Model Garden)で使えるようになったときの料金。発表ページには「coming soon」とだけ書かれており、価格は書かれていません。運営者も試していないので書けません。

出典一覧

すべて各社の公式ページです。まとめ記事・ニュースサイト・個人ブログは1件も使っていません。

  1. EmbeddingGemma 2の発表(Google・2026年10月6日): https://blog.google/innovation-and-ai/technology/developers-tools/embeddinggemma-2/ (Google DeepMind側のhttps://deepmind.google/blog/embeddinggemma-2-an-open-lightweight-multimodal-embedding-model/を開くと、このページへ転送されます)
  2. EmbeddingGemma 2のモデルカード(Google公式): https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card_2
  3. EmbeddingGemma(v1)のモデルカード(Google公式): https://ai.google.dev/gemma/docs/embeddinggemma/model_card
  4. Gemma利用規約(Google公式): https://ai.google.dev/gemma/terms
  5. EmbeddingGemma 2のHugging Faceページ: https://huggingface.co/google/embeddinggemma-2
  6. OpenAIのEmbeddingsガイド: https://developers.openai.com/api/docs/guides/embeddings
  7. OpenAIの料金ページ: https://developers.openai.com/api/docs/pricing
  8. OpenAIのモデル一覧: https://developers.openai.com/api/docs/models
  9. Anthropic公式ドキュメントのEmbeddingsページ(Voyage AIの紹介・仕様一覧): https://platform.claude.com/docs/en/docs/build-with-claude/embeddings
  10. Anthropicのモデル一覧(自社に埋め込みモデルが無いことの確認): https://platform.claude.com/docs/en/about-claude/models/overview

Voyage AI自身の公式ページ(docs.voyageai.com・voyageai.com)には、この記事を書いた環境から到達できませんでした。そのため単価は「確認できず」のままにしてあります。

料金と仕様は変わります。実際に使う前に、必ず上記の公式ページで現在の値を確認してください。