これで何ができるか
毎月やっている作業を、他の人が代わりにできるようにマニュアル化したい。引き継ぎでも、外部に発注するときの説明でも、よく出てくる場面です。自分で書くと迷う点が1つあります。「申請が要る」「一応そういうルールがある」程度のさりげない注意点は、きれいなマニュアルに変換する過程で消えないでしょうか。
先に結果を書きます。この心配は杞憂でした。架空の月次作業の説明文(請求書発行・4つの細則入り)を3回変換したところ、細則は3回とも全部マニュアルに残りました。ところが別の心配が実際に当たりました。手順表に「この手順をやらないとどうなるか」の列を足すと危険です。理由が書いていない手順に、作り話の理由が付きます。回ごとに違う理由が、3回とも全部付きました。1文を足すだけで、この作り話は0件に直ります。
この記事は、架空データで6通りの頼み方・計13回を試した結果から書いています。安全に使える言い方と、避けるべき言い方を分けて渡します。
前提
| かかる時間 | 15分 |
| 費用 | 無料。無料のチャットAIで足ります |
| 必要なもの | ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、自分がやっている作業の説明 |
| プログラミング | 不要。自分の作業をそのまま書いて貼るだけです |
説明は箇条書きでなくて構いません。実際に試したのも「だいたい決まっていて、まず◯◯して…」という、話すときのままの文章です。
AIへの頼み方
1. まず、そのまま変換を頼む
3回試して3回とも、文章の中にさりげなく混ぜた細則が全部マニュアルに反映されました。仕込んだのは次の4つです。
- 初回だけ要る承認
- 金額が大きいときだけの確認
- 控えの保存先が2か所あること
- 月末だけの制限
書き方を整えても、書いてある事実は消えません。まず安心して、このまま試してください。
2. 「初めての人」と「毎月やっている人」で分けて抜き出す
引き継ぎ資料として使うなら、整理のされ方まで一歩進めます。
「初めての人」と「毎月やっている人」で分けて抜き出させても、残る情報の量は1と同じでした。漏れを防ぐ効果があったわけではありません。効くのは整理の質のほうです。「初回だけ必要なもの」が独立した見出しになるので、担当が替わるときに最初に読む場所がはっきりします。
3. ⚠️ 「やらないとどうなるか」の列は、理由が無いと作り話になる
ここからが本題です。手順を表にするとき、重要度が分かるように列を足したくなります。
「やらないとどうなるか」の列をそのまま使うのは危険です。本文に理由が書いてある手順(月末のシステムメンテナンスで使えなくなる、など)は正しく書けました。ところが、本文には「そういうルールがある」とだけ書いてあって理由が書いていない手順が3つあります。控えをSlackに貼る・控えをフォルダに保存する・件名を統一する、の3つです。この3つには、3回とも全部、本文のどこにも無い説明が付きました。
特に分かりやすいのが「控えをSlackに貼る」の行です。3回とも理由が付きましたが、中身は毎回違いました。出てきた理由は3通りです。
- ダブルチェックの機会を失う
- 他の担当者が進捗を把握できない
- リアルタイムで共有できない
本文にある理由なら毎回同じ言葉になるはずです。回ごとに言い方が変わる理由は、作り話だという証拠そのものです。この表をそのまま社内に配ると危険です。誰も言っていない「組織の方針」が、さも決まっていたことのように広まります。
うまくいかないときの言い直し方
「やらないとどうなるか」の列を、作り話にせず使いたい
列を足したいだけなら、受け皿を1文足すだけで直ります。
2回試して2回とも、理由が書いていない3手順は全部「理由は書かれていません」に変わりました(9マス中0件)。理由が書いてある手順(月末メンテナンス)だけは、2回とも本文どおりの説明が正しく残りました。「無ければそう言ってください」の一文が、作り話と事実を仕分けます。
列を足した表を、もう作ってしまったあとに気づいた
先に3のまま使ってしまった場合も、あとから回収できます。
1回試して、4行すべてで正しい自己訂正が返りました。理由が本文に無い3行は「書かれていません」、理由が本文にある1行は「書かれています」。引用した場所まで示した上で、そう言い直しました。作ってしまったあとでも、出典を聞けば自分で見分けます。
自分では気づかなかった抜けが心配
列を足さなくても、違う聞き方で抜けを探せます。
この聞き方で返ってきた追記には、2つの例がありました。「承認を出す上長の名前・連絡先を書いてください」「確認メールの宛先や保管場所を決めておくと迷いません」です。追記された2つの例は、どちらも具体的な値を作らずに「ここは自分で埋める欄です」と示す形でした。これは3の作り話とは違います。欄を作るだけで、中身までは作っていません。思い込みで「たぶん動きます」と言わせないための基本は「たぶん動きます」と言わせないための頼み方にまとめてあります。
応用・次の一手
マニュアルができたら、次にやるべきことは2つあります。
まず、自分では気づかない穴があるかを、実行させて確かめることです。マニュアルは書いた本人には足りて見えますが、初めてやる人の目には足りません。
このやらせ方の詳しい理由は手順書は、読み直すより「そのとおりにやらせて」穴を見つけるにまとめました。
もう1つ、作業を毎月続けるなら、メモを溜めて月1回見直す形に進められます。
試したところ、コピー&ペーストだけで回る運用が返ってきました。マニュアルの末尾に「気づきメモ」欄を追加し、作業のたびに1行メモを足し、月末にまとめて見直しを頼む、という形です。具体的な値を勝手に作ることもありませんでした。まずはマニュアルを1本作って、そのとおりにやらせて穴を見つけるところから始めてください。