これで何ができるか

境界線上の不良も検品で見逃さないという前の記事には、著者自身が残した未測定事項がありました。「5件の不良はどれも1種類の基準にしか違反していません。複数の基準に同時に違反する項目……は試していません」。

測りました。前の記事と同じ架空の納品記録20件を使います。2件を「重量も使用期限も外れている」という2基準同時違反に仕込み直しました。さらに1件を「重量も使用期限も型番も外れている」という3基準すべての同時違反に仕込みました。

結論は、全数確認なら複数の基準に同時に違反する項目も「見逃さない」です。合わせて12回試しました(2基準同時違反×8回・3基準同時違反×4回)。すべての回で、AIは違反している基準を両方(または3つとも)正しく書きました。

1件が複数の基準に同時に違反していても、全数確認が違反理由をすべて正しく列挙できたかを示す横棒グラフ。「全数確認・2基準同時違反」(材料A・D-08とD-16が2基準ずつ同時違反・8回)は8/8。「全数確認・3基準同時違反」(材料B・D-14が3基準すべて同時違反・4回)は4/4。「全数確認+念押し」(材料A・4回)も4/4だが、すでに天井に達しているため念押しの効果は確認できず、1回は本文冒頭の件数表記と列挙した件数が食い違った。「抜き取り6件・サンプルに同時違反品が入った回」は2/2で、サンプルに実際に入った場合は両方の理由を正しく列挙した。
全数確認は、1件が複数の基準に同時に違反していても見逃さなかった。
やり方 結果
全数確認・2基準同時違反(8回) 8/8。重量・期限の両方を正しく列挙
全数確認・3基準すべて同時違反(4回) 4/4。重量・期限・型番の3つとも正しく列挙
全数確認+「該当する基準をすべて書いて」の念押し(4回) 4/4。ただし1回は見出しの件数と列挙件数が食い違った
抜き取り6件で、サンプルに同時違反品が実際に入った回 2/2。入ったときは両方の理由を列挙

この記事は、架空の納品データを使った実測です。実際の検品現場の記録ではありません。

前提

かかる時間 20分。検品の頼み方を決めるときに1回だけやります
費用 無料。無料のチャットAIで足ります
必要なもの ブラウザで使えるAI(ChatGPT・Claude・Geminiなど)と、検品の基準(数値・日付・型番)
プログラミング 不要。基準と一覧をそのまま貼るだけです

この記事は、境界線上の不良も検品で見逃さないの続きです。基準は先の記事と同じものを使いました(①重量480〜520g ②使用期限は本日2026-09-26から60日以上先 ③型番ASSY-118-B)。

📌 仕込みだけ変更しています。先の記事の不良5件のうち、D-08(重量超過)に使用期限の不足も重ね、D-16(型番違い)に重量不足も重ねました。さらに、元は良品だったD-14を、重量・期限・型番の3基準すべてに違反する項目に変えました。

AIへの頼み方

1. 全数確認で、2基準同時違反の2件を見られるか

先の記事と同じ「全数確認」の指示文に、2件を2基準同時違反に仕込んだ材料を渡しました。

毎朝の受入検品です。今日届いた20個全部について、基準を満たしているかどうかを1件ずつ確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。基準外のものがあれば、識別子とどの基準に違反しているかを教えてください。

このあとに、20件の記録(識別子・重量・使用期限・型番)を貼ります。8回試しました。

8回とも、D-08は「①重量、②使用期限」の両方、D-16は「①重量、③型番」の両方が、正しく列挙されました。1回目の返りです。

| D-08 | ①重量、②使用期限 | 522g(上限520g超)、期限2026-11-10は45日後 | | D-16 | ①重量、③型番 | 475g(下限未満)、型番が「ASSY-118-8」(末尾が数字の8で、Bではない) |

良品15件・不良5件という項目数そのものも、8回とも真値どおりでした。

2. 1件が3基準すべてに同時違反していても見られるか

さらに厳しい条件として、D-14を重量・期限・型番の3基準すべてに違反させた材料で試しました。

毎朝の受入検品です。今日届いた20個全部について、基準を満たしているかどうかを1件ずつ確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。基準外のものがあれば、識別子とどの基準に違反しているかを教えてください。

材料だけ変えて4回試しました。3基準すべてに違反させた1件(D-14)は、4回とも重量・使用期限・型番の3つとも正しく列挙されました。

D-14 | ①重量、②使用期限、③型番 | 525g(上限超過)、2026-11-05(残り40日)、型番がASSY-118-X

3. 「該当する基準をすべて書いて」と念押ししたら

複数基準の列挙を明示的に求める一文を足して、同じ材料(2基準同時違反の2件)で試しました。

毎朝の受入検品です。今日届いた20個全部について、基準を満たしているかどうかを1件ずつ確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。基準外のものがあれば、識別子とどの基準に違反しているかを教えてください。1件が複数の基準に同時に違反している場合は、該当する基準をすべて書いてください。

4回試しました。「該当する基準をすべて書いて」と念押しした4回も、違反理由は両方とも列挙され、変化はありませんでした。すでに全数確認だけで天井(見逃しゼロ)に達していたため、「重要です」を足しても見逃しは減らないと同じ構図です。

ただし1回だけ、本文冒頭が「基準外は6件でした」と書いていたのに、直後の表には5件しか挙げていませんでした。項目の列挙自体は正しく(5件とも理由も正確)、見出しの数字だけが実際の列挙件数と食い違っていました。

4. 抜き取りで、同時違反品はどう扱われるか

先の記事の抜き取り3件・6件の指示文を、同じ2基準同時違反の材料で試しました。

毎朝の受入検品です。今日届いた20個から、抜き取りで3個だけ選んで確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。選んだ3個について、基準を満たしているかどうかを教えてください。
毎朝の受入検品です。今日届いた20個から、抜き取りで6個だけ選んで確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。選んだ6個について、基準を満たしているかどうかを教えてください。

それぞれ4回試しました。抜き取り3件は4回ともD-08・D-16をサンプルに選ばず、抜き取り6件は2回(3回目・4回目)でどちらか一方を選びました。抜き取り6件で同時違反品がサンプルに入った2回は、両方とも2つの違反理由を正しく列挙しました。

D-08 | 522g ❌ | 2026-11-10(45日)❌ | ASSY-118-B ✅ | 不合格(重量超過、期限不足)

一方、サンプルに入らなかった回では、「抜き取り対象外で気づいた点」としてD-08・D-16に触れることがありましたが、サンプル外の項目に触れた「気づいた点」の付記では、理由を両方書くか片方だけで済ませるかが回によって割れました。

3基準同時違反のD-14を入れた材料でも、抜き取り3件を試しました。

毎朝の受入検品です。今日届いた20個から、抜き取りで3個だけ選んで確認してください。基準は次のとおりです。①重量480〜520g(両端含む) ②使用期限は本日(2026-09-26)から60日以上先であること ③型番はASSY-118-Bであること。選んだ3個について、基準を満たしているかどうかを教えてください。

4回ともD-14はサンプルに入りませんでした。「気づいた点」でD-14に触れた回は3回ありましたが、3基準すべてに届いた回は1つもありませんでした(挙げた理由は0個=名前だけ・2個・1個)。

うまくいかないときの言い直し方

抜き取りで同時違反品を見つけてほしい

この記事の結果では、抜き取り3件・6件のどちらでも、同時違反品がサンプルに入らないことがありました。抜き取り範囲外の項目について書かれる「気づいた点」は、理由をいくつ拾うかが安定しません。複数基準の同時違反を見逃したくないなら、抜き取りではなく全数確認を使ってください。前の記事が全数確認そのものを勧めている理由が、ここでも当てはまります。

件数の見出しと、実際に列挙された件数が違う

指示文3の1回で実際に起きた症状です。見出しの「6件」は誤りで、表の5件が正しい実測結果でした。AIが返す集計の数字(件数・合計)は、本文の列挙と必ず突き合わせてください。数えるのはAIではなく、こちらの目か、機械的な照合にしてください。

4基準以上に増えたらどうなるか

この記事が試したのは3基準までです。検品の基準がさらに増えた場合(4つ以上)に、同時違反の理由をすべて列挙できるかは試していません。

応用・次の一手

この記事の結論は1つです。1件が複数の基準に同時に違反していても、全数確認はその理由をすべて正しく列挙しました。合わせて2基準同時違反×8回・3基準同時違反×4回、合計12/12です。

⚠️ 念押しの一文は、すでに天井に達した挙動を伸ばしません。全数確認だけで見逃しゼロなら、「該当する基準をすべて書いて」を足す必要はありませんでした。むしろ、集計の数字と列挙件数が食い違う回が出たので、件数の見出しより、個別の列挙のほうを信用してください。

📌 抜き取りを使うなら、サンプルに入った同時違反品については理由を正しく書きます。ただし、サンプルに入らなかった項目についての「気づいた点」はあてにしないでください。この記事でも、同じ項目について回ごとに拾う理由の数が変わりました。

同じ検品の場面を、件数の母数から見たのが前の記事です。この記事はそこに残っていた「違反の種類が複数重なったらどうなるか」という宿題にだけ答えました。

⚠️ この記事が実測していないことは次の3つです。

  • 検品の基準が4つ以上に増えた場合
  • 同時違反が仕込まれた件数が20件中3件以上に増えた場合
  • 材料をこの1組の納品記録以外に増やした場合

実際に検品を自動化する人は、最初の1回だけ、報告された違反理由と元の記録を自分の目で見比べてください。